表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/35

33話 平和とは

 その後四人は数日間にわたり、エメラニア城内に缶詰めになった。

 方々から、職人ギルド、商人ギルド、物語作家や芸術家まで、様々な職種の来訪者が後を絶えねかったのだ。

「つまり、従来の剣では肉まで切れなかったと?――」

「なるほど。その交易路は安全を――」

「ふむふむ!そんな魔族をカイル様が狙撃っ!――」

「う~ん。もう少し手を真っすぐ上げて……そうそう――」

 ひっきりなしの対応に、一行はぐったりと疲れ果てた。


 その忙しさもようやく目途がつき、久々に四人が落ち着いて部屋に集まる。


「それで、みんなはこの後どうするつもりなんだ?」

 ローエンが皆の顔を見回しながらそう質問する。


「俺は、商人ギルドから依頼を受けてる。交易路の開拓と街道整備について行くつもりだ」

 カイルは商家出身だ。お互い仕事がしやすいのだろう。


「わたしはぁ~……教会から聖女の称号をいただく予定です~……。その後は各地を回ってぇ、必要な方に祈りと救済を……」

 ミレイユらしい決断だった。以前から、難民について誰よりも気にかけていた。


「俺は、騎士団に戻らないかと打診があった。……が断ったよ。いまさら戻る気はないし、まだ許せない気持ちもある。……だから旅に出ることにしたよ。こんな脚だから時間はかかるが、魔物に困っている集落を繋ぎながら大陸北部を回る」

 ローエンも、この旅を経て感じたものがあるのだろう。出会う前はどこか消極的だったが、今は自らその殻を破ろうとしていた。


「私は……」

 リオネアは答えに迷う。

 知らなかったわけではないが、こうしてはっきり四人がバラバラになることを突き付けられると、胸が締め付けられる。

 みんな、具体的な次の一歩をしっかり見定めている。


「……私は、みんなの笑顔を守るよ!」

 明確な目標も、具体的な手段もまだ決まっていない。

 それでも、その目的に向かって走ると心に誓った。



 ***



 それから三年が経った。


 勇者の存在というのは、国にとってよほど大きいようだ。

 今まで国境付近で起こっていたらしい国同士の小競り合いはかなり減り、エメラニア王国は東西に挟まれていた川を越えて領土は拡大していった。

 そして教会でも、リオネア像や肖像画が置かれ、平和と神の象徴として崇拝の対象になっていった。


 リオネアはそれを恥ずかしがる一方で、騎士団の軍事演習や騎士学校に時折顔を出し激励、教会で行われる祈祷会にも参加し、みんなの平和と笑顔をその身で感じていた。


 ローエンはビジュラボに入ったという手紙を最後に、ここ一年は連絡がない。

 きっと大陸北部の奥深くに入ったのだろう。


 カイルは相変わらず手紙をよこさないが、それでも街道整備で活躍していると風の噂で聞く。


 ミレイユは、正式に教会で聖女の称号を受け、主にエメラニア王国の国境付近の集落を回り、難民への施しや心の救済、仕事の斡旋などをしていると、定期的に手紙をくれる。


 それらを、自らの近況や心境と共に、手記に書き残す。

 大切な日々を、大切な笑顔を、この穏やかな幸せを、いつでも感じられるように。



 ***



 そしてさらに5年が経った。


 ローエンとカイルからの手紙は、相変わらず途絶えたままだ。

 しかしミレイユからは、律義にも月初めに手紙が届いている。


 その手紙には、ここ最近の難民について書かれていた。


 どうやら最近の難民は戦争によるものらしい、と。


 リオネアには覚えがあった。

 この一年、国から騎士団を率いて国境を守衛せよとの要請が多かった。

 相手は、敵対勢力――つまり人間だ。


 この剣は人間には振るわないとリオネアは固く心に誓っていた。

 それは、誰かの笑顔を奪う事だから。


 何度も来る要請に断り続けているが、それでも戦争は起きているのかと、リオネアはいたたまれない気持ちになる。


 そしてミレイユの手紙には、こうもある。


 この戦争は、エメラニア王国が原因かもしれない、と。


 エメラニア王国の拡大する国境は、近隣の村や集落を呑み込んでいて、それによる反発が、都市国家や村の結託を生んで対立しているようだ、と。


 リオネアは深くうなだれた。


 魔族の脅威が無くなっても、人間は争ってしまう。

 守ったはずの笑顔の半径が、まるでどんどんと小さくなっていくよう。

 こんなものだったのだろうか?命を懸けてまで守ったはずの平和は。


 リオネアは、静かに涙を流した。

 悔しかった。悲しかった。そして、ただ虚しかった――。


 そして誰に見せるでもない手記に、想いを綴る。


 魔族を倒せば平和になると信じていたのに。

 その魔族にだって、平和を望んでいた者もあったというのに。

 それを奪ってまで勝ち取った平和は、こんなちっぽけなものだったのだろうか。


 それなら、魔族を倒さない方が――。


 平和とは――。




 *



 ――どうして…………どうしてっ!!!!


 俺は怒りのあまり操作盤を叩く。

 リオネア達は魔族から世界を救った!!命懸けで!!そして平和になった!!なのに!!


 ――なのにどうして戦争なんか!!


 エメラニア王国が交戦しているのは、東に少し離れた街、プレインとリキド。それぞれ国土が拡大したことによる衝突のようだ。


 ――これじゃあまりにも……あまりにもリオネアが報われないじゃなかっ!


 俺は悔しさのあまりその場にうずくまった。



『世界均衡値:+1』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ