31話 ネルグサリアとの闘い
「余興にしては随分早く終わってしまったな」
魔王ネルグサリアは、王座から立ち上がった。
リオネア、ミレイユ、ローエンに、静かで、息も出来ないほどの緊張感が走る。
「虫ごときがごちゃごちゃと考えていたようだが、死ぬ覚悟はできたということでいいか?」
「そんな覚悟はしないっ!あなたを倒す!それだけっ!」
一行は、ぐっと全身に力を入れ直す。
ミレイユがファイアボールを放つ。
それを合図に、黒煙の中ローエンとリオネアが切りかかる。
しかし、その剣はそれぞれの手でいとも簡単に受け止められてしまう。
魔法も、全く効いていない。
「まだ威勢がいいようだ、な!!」
ネルグサリアが強く踏み込んだ瞬間、辺りの瓦礫すらも全て勢いよく吹き飛ばされる。
リオネアとローエン、そして距離のあったミレイユまでも、壁に激突する。
それでもミレイユは、歩み寄るネルグサリアを止めようと、土魔法で地面を緩ませる。
しかしそれも一瞬。足元を確認したかと思えば、何事も無く再び歩き出す。
まるで魔法が効かない相手に、ミレイユは震える。
「い……いやっ………」
「ふむ……つくづく人間とは愚かだな。殺される覚悟も無く、殺しにくる」
ネルグサリアはミレイユに近づき、頭を鷲掴みする。
「いやっ……ぁっ……かはっ……」
「ミレイユっっ!!!!」
リオネアは壁を蹴り、飛ぶような速度でネルグサリアとの間合いを詰める。
そしてそのまま、ミレイユを掴む腕を切り落とした。
どさり、と腕ごと地面に落ちるミレイユ。立ち上がる気力はなく、そのままへたり込んだ。
「大丈夫!?ミレイユ!!」
生きてはいる。しかし、とても戦えるような表情をしていなかった。
「弱いのになぜ戦う。なぜ立ち向かう。逃げて小さく生きれば、死なずに済むのに」
「強さが全てじゃない!」
「全てだ!現にこうして奪われ、死にかけているではないか!」
ネルグサリアはファイアボールをミレイユに向かって放つ。
「ミレイユ!!」
「任せろっ!」
ローエンがすかさず間に入り、大盾で防御する。
リオネアはその隙にネルグサリアの後方に回り、大きく振りかぶる。
「はぁぁあああ!」
大剣はネルグサリアの背を切りつける。
手ごたえはあった。しかし浅い。
切りつける直前、見えない力で反発されたように感じる。
先ほど全員を吹き飛ばした魔法だ。
「虫にしてはやるな。魔法を突破して切りつけるとはな」
「次は真っ二つよ」
「はっはっは!調子の良い虫だ!……ならやってみろ!!!」
ネルグサリアの猛攻。
何発もファイアボールが撃ち込まれ、リオネアは翻弄される。
剣で受けられないわけではない。しかし受けてしまえば、脚は止まる。そうなれば袋叩きだ。
リオネアはとにかく走った。
「ほらどうした!それでは私を切れんぞ!!」
悦に入っているのだろう。ネルグサリアはリオネアばかりに執着していて、背中が無防備だった。
ローエンは剣をネルグサリアに向かって投擲した。
そして大盾を構えて突進する。
「ぅうぉぉぉおおおおお!!!!」
剣はネルグサリアに浅く刺さった。それをローエンは全身で押し込む。
「うぐっ!!」
ネルグサリアのうめき声。どうやら効いているようだ。
リオネアはその隙を突いて切りかかろうとする。
しかし、再び魔法によって吹き飛ばされてしまう。
「本当に懲りぬな!!!人間!!!」
ネルグサリアは後方に手をかざす。そしてローエンに向かって至近距離でファイアボールを放った。
「ぐはぁぁあっっ!!!」
ローエンは大盾を構えて防御する。
しかしあまりの威力に吹き飛ばされてしまう。
そして、その吹き飛んださらに上を跳ぶ、右脚。
「かはっっ!!………っっ!!!」
焼き切れた右足からは、血はそれほど出ていなかったが、ローエンは煩い耳鳴りの中止血を施す。
「これでおあいこ、かな」
ネルグサリアはその姿を肩越しに見て口角を上げる。
「うぉぉぉぉおおおおお!!!!」
リオネアが激昂する。
低く、さらに低く構え、右脚にありったけの力を込める。
そして力強く踏み込んだ。
「っ!?」
今までにない速さに、ネルグサリアは咄嗟に一歩引く。
しかしそのせいで致命傷には至れなかった。右腹を大きく削ったが、ネルグサリアは辛うじて立っていた。
「左腕だけじゃなく、右腹までも……ぐぼぁっ……はぁ……虫ごときが……」
リオネアも、とても話せる状態ではない。
筋肉が軋み、膝が震えている。立っていられているのが不思議なほどだ。
背中の傷も熱を持っている。頭から流れる血で、目がかすむ。
「はぁ……はぁ……はぁ…………」
あと一回。あと一撃で最後にしたい。
リオネアは、上がる息を、爆発寸前の心臓を、落ち着かせる。
そして、がたがた震える膝を、太ももを、必死で堪えながら、深く、低く構える。
「うぅぅぉおおおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!」
剣を突くように構える。ローエンが普段から使う戦法だ。
ネルグサリアは横跳びを試みる。
しかし、足が動かない。
チラリと見ると、足が地面に埋まって固定されている。
ミレイユの魔法だった。
「クソがぁぁぁああ!!!」
ネルグサリアは、削れた脇腹にかまうことなく身を捻る。
リオネアは咄嗟に切っ先を胴体から脚に変更する。
ざしゅっ、と肉が切れる音がし、ネルグサリアの右脚が胴体から失せる。
しかし、致命傷ではない。
「ははは!これで終わりだっっ!!!!」
ネルグサリアの剣が、リオネアの頭上で振り上げられる。
防ごうにも、間に合わない。
リオネアは、死を覚悟した。
しかし――
「がっ……あがっ………」
ネルグサリアの振り上げた腕は、肩ごと吹き飛んでいた。
後ろの壁には、矢が刺さっている。
カイルは、瓦礫の中で再び意識を失った。
リオネアは、渾身の力で剣を振り上げる。
体が砕けてもいい。あと一撃だけ――!
その想いに応えるように、大剣はネルグサリアへと切り込んでいく。
そして、魔王ネルグサリアを両断した。
どさっと地面に落ちる音が城内に鈍く響く。
ネルグサリアは、血泡であふれた口をなにか言いたげに動かしている。
「……………なに?聞いてあげる」
リオネアはネルグサリアに近づく。
彼は小さく、消えそうな声で言った。
「結局……力で奪った……な…………」
それを最期に、ネルグサリアは静かになった。
勝利の優越、安堵、解放感――そんなものを置いて、リオネアはなんだか分からない、暗くて重たい、粘り気のある感情で胸がはち切れそうになった。
「世界均衡値:±0」




