3話 君が勇者だってちゃんと伝わった?
翌朝――。
騎士学校の入学試験を明日に控えたリオネアは、朝のまどろみの中、ベッドの上で今日をどう過ごすか考えていた。
「朝ごはんは下で食べるとしてぇ……お昼ご飯は昨日見かけたお店……いや魚料理も捨てがたいなぁ……」
ぐぅー――とお腹が鳴る。それはそうだ。もう10時間もなにも食べていない。
リオネアは支度を済ませ、部屋を出た。
朝食を食べてから、街に出る。相変わらずの人出に、リオネアは目を回しそうになる。
広場に出るとそれも少し落ち着き、ベンチでは鳥に餌をやっている老人なんかもいる。地元では、種を食べてしまうので鳥は天敵だ。ここは知らない所なんだ、とリオネアは改めて実感する。
まずは場所を確認する為にも、騎士学校へ行ってみることにした。
広場から伸びる大きな通りに沿って歩く。
脇道には市場があったり、アクセサリーショップや婦人服店、本屋なんかも見かけた。こんなにも目まぐるしく店があり、歩いているだけで楽しい気分だった。街の外れまで行くと、武具店が軒を連ねており、その真ん中には冒険者ギルドがあった。陽の高いうちから酔いつぶれる人なんかもいて、少し治安が悪い。リオネアは少し早歩きで去ることにした。
そしてようやく、騎士学校に到着。囲まれた塀の中から、威勢のいい声が聴こえる。
「なれるといいなあ……立派な騎士に……」
リオネアの胸は将来に高鳴った。
「でもその前に入学試験かぁ……受かるといいなぁ……」
今後は不安で胸がキュッとなる。
下見は済んだ。リオネアは広場まで戻ることにした。
来た道を戻りつつ、冒険者ギルド前は怖いので迂回することにした。
すると、ノルディアよりも相当立派な教会に行きついた。
リオネアは、合格祈願に立ち寄ることにした。
教会の中は、ステンドグラスがとてもきれいな、静かな場所だった。
丁度、最前では歳の近そうな女性が祈りを捧げていた。
その横が空いていたので、リオネアはそこに跪き、祈りを捧げた。
「どうか、騎士入学試験に受かりますように………」
*
そうリオネアが祈った瞬間、目の前の介入ボタンが光る。
――おお!来た来た!リオネアちゃんと話せるボタン!
介入ボタンを、恐る恐る押す。
すると画面中央にマイクのマークが表示される。伝えたいことを話せ、ということだろう。
咳払い一つして、ゆっくりと話し始める。が、一体何を伝えればいいんだ?
――えーリオネアちゃん……君は……えと……あ、俺は創世神です。よろしくね。それでね、勇者に選ばれました。おめでとう。で、世界の平和のために、魔お……
話している途中にもかかわらず、マイクマークが消える。時間制限があったのか。
――伝わったかな……伝わってないだろうなぁ……
*
祈るリオネアに、ふと声が聴こえる。
辺りを見回しても、誰かが声をかけた様子はない。
そして、聞き覚えの無い、威厳のこもったその声は、頭に直接響いていると気が付いた。
――リオネア・アルヴェリアよ。我は、創世神……。勇者となりて、世界を平和へ導くのだ……。
声が終わり、リオネアは目を開ける。
「……………え?」
改めてリオネアは混乱した。
頭に声が聴こえた!神様が話しかけてきた!勇者になれって言われた!――
「これが……まさか……神託ってやつなのでは!?」
そんな、まさか自分が神託を――にわかには信じられなかった。それは物語の中だけの話だと思っていたから。
見回すと、案の定その声を聴いた人はいなさそう。その代わりに、シスターが不思議そうな顔でこちらを見ている。
シスターに神託があったことを伝えるべきか迷ったが、これ以上怪しまれるのも怖かったので、そそくさとその場を後にした。
そして教会前で、
「あのぅ、すみません……」
さっき隣で祈っていた女性が話しかけてきた。
「あのぅ……もしかして……明日の入学試験、その……受けるんですかぁ?」
おっとりとした口調の、穏やかな声の女性は、そうリオネアに訊いた。
「ええ、そうですよ!私、騎士になるのが夢で!……あれ?でもその話誰から?」
リオネアはそう応える。
「うふふ……さっき祈る時に……声……出ていましたよ~?」
リオネアは赤面する。
「実はぁ……私もなんですよ~……お互い頑張りましょうねぇ!」
「はい!頑張りましょう!」
なんだかリオネアは心強く感じた。
リオネアから手を差し出し、二人は握手をして別れた。
リオネアはご機嫌だった。
「一緒に合格出来たら、友達になれるかなー?なれるといいなー!」
軽くスキップなんかをしながら、大手を振って歩いていく。
そして、重要な事を思い出す。
お昼ご飯が、まだだった――。
*
――あれ?大丈夫かな?これ、ちゃんと勇者として魔王を倒してほしいって伝わってる?
少し、というかかなり不安だった。
声は変換されて、内容も要約されていた。それも神っぽく良い感じに。
でも時間切れで魔王の事は拾われなかった。
しかしそれ以上に、リオネアがご飯の事ばかりで、神託自体忘れてることが怖かった。
*
結局、お昼は魚料理にした。魚は焼くだけだと思っていたリオネアは、煮た魚の美味しさに驚いた。
思わず追加で二皿と、タコのサラダも三皿頼んでしまった。
そして、先ほど見かけた市場を覗いてみる。
凄い品ぞろえだ。なんでも揃うどころではない。リオネアの知らない食材がいくつもある。
そして活気もある。店の呼び込み、会話する声――
「らっしゃい!いらっしゃい!おっ!お嬢ちゃん!どうだいリンゴ!3つ買ってくれたらおまけしちゃうよ!」
「えー!いいんですか!?それじゃ3つ……」
その時だった。
遠くから甲高い叫び声が聞こえた。
そして間もなく、人ごみの中を縫うように、一人の男性が身をかがめて走ってくるではないか。
その懐には、高級そうなバッグ――。
リオネアは、ほとんど反射的に、その犯人の行く手を阻んでいた。
どけぇぇぇ!と犯人が叫ぶ声をよそに、リオネアは低く構える。
そして、当て身――。
「………え?」
大の男が、少女の当て身で吹き飛ぶ。犯人も、周囲も、一瞬時間が止まったような戸惑い。
「ってぇ………てめぇこのデブ!何しやがんだ!!殺されてぇのか!」
犯人は起き上がりざま腰からナイフを取り出した。
リオネアはゆっくりと近づいていく。
「デブ……?それは……私のことでしょうか……?」
リオネアは、突き出されたナイフを蹴り上げ、右腕を絡めとって締め上げる。
「くっそこのデブ……あ痛たたたっ!なんて馬鹿力だ……びくともしねぇ……」
「また言いましたね!いうほど太ってなんか……いませんっ!」
ボキッ!と周りの人だかりにも聞こえる程の大きな音がなり、男は失神した。
「ふぅ…………」
リオネアは男からバッグを取り上げる。そして元の持ち主に返した。
その光景に、やじ馬たちは拍手喝采だった。
「ありがとうございます!その、なにかお礼をしたいのですが……」
持ち主の、品がよさそうな婦人がそう申し出る。
「いえいえ!そんな……当然のことをしたまでですので……。あ、この男を憲兵に差し出してくるので、私はここで……」
リオネアは、ひょいと片手で男を肩に担ぎ、その場を去ろうとした。
その光景に、再びやじ馬たちは盛り上がった。
「それでしたら、せめてお名前だけでも……」
「リオネアです。リオネア・アルヴェリア」
いつしか、騒いでいた声はリオネアコールに代わっていた。
***
「ふぅー。今日は色々あったなぁ……」
リオネアは宿に戻り、ベッドに横になる。
「でも、人助けは気持ちがいいなー……お腹もいっぱいだし……」
夕食に入った店に、先ほどの騒ぎを見ていた人が何人かいたようで、リオネアは皆にご馳走になっていた。そしてその食べっぷりに気をよくした客が、さらにどんどん注文するものだから、リオネアも気合を入れて食べた。その光景にどんどん店は盛り上がっていったのだった。
「明日は頑張らなきゃ……もっと人助けできるよう……に?」
ん?とリオネアは何かを忘れていることに気が付く。
「あ…………そういえば、神託……勇者になれって言われたんだった……」
リオネアはベッドから起き上がる。
そして祈りのポーズを取った。
「神様神様……勇者って何をすればいいのでしょうか……?」
しばらく待っても返答はなかった。
「あーもうどうすればいいの?」
リオネアは頭を抱える。
しかし、よく考えてみると、騎士になることが、勇者の第一歩のように感じる。
だって、それが世界の平和のためだから。
「そっか……神様は、私が騎士として大成することを望んでいるんだ……多分」
そうとなれば、明日は頑張らなくてはならない。
リオネアは、少し早めに寝ることにした――。




