29話 リュナ掃討戦
数日間、一行はハルゼンにて休養を取ることにした。
肉体的にもそうだが、精神的な疲れ――特にリオネアを休ませたい、というローエンの判断だ。
リオネアは、この休暇が意味するところに気が付いている。
皆、魔王を打倒して人間を守りたいのだ。
「はぁ……………」
ここに来て、何度ため息をついたことだろう。
答えの出ない問い。
まとまらない思考。
責任感と虚無感。
何度同じ思考をたどれば、結論に行き着くのだろう。
どうすればいいのだろう――。
こういうとき、ミレイユならきっと教会に行くのだろう。
「…………頼ってみるか」
リオネアは教会へと足を向けた。
*
――ここで俺に頼るのかぁ………。
正直、俺もどうするか決めかねてる。
これ以上リオネアの辛い顔を見たくはない。
しかし、この世界の創世神としては、ここで魔族を討伐してもらわないといけない。
つまり、やらなきゃならないことは決まっている。
ただ、覚悟がないだけ。リオネアに苦労を強いる覚悟が。
『世界均衡値:ー3』
その数字が、それが意味する責任感が、最後は俺を後押しした。
*
――魔族を打倒し、リュナを取り戻すのだ。
一方的な神の声は、リオネアの想像通りの答えを啓示した。
「…………神様が言うなら、それが正しいんだよね」
リオネアは、皆にリュナへ向かうことを告げた。
***
道程は森を奥深く行く。
集落すらほとんどないため、街道はあれど馬車がつかまらず、全行程を徒歩で進む。
そしてそのいくつかの集落ですら、完全に焼き払われていた。
「酷いな……半分を越えてから全滅じゃないか……」
瓦礫すらない。残っているのは焼けた地面だけ。
「奪える物資だけ奪って、焼いたんだろう」
ローエンは直視しない。ただ横目で流し、通り過ぎた。
そして、もう何日目かもわからないほど進んだところへ、リュナの城壁が遠くに姿を現した。
「…………あれが、リュナ」
小高い丘にそびえる小さな街に、リオネアは柄を強く握りしめた。
「もう、この辺りは敵陣と考えた方がいいだろう。カイルにミレイユ。索敵を怠るな」
一行はさらにリュナへと歩み進めて行った。
「……見えるか、カイル」
「いや……城壁しか見えねぇ」
「ですよね~……」
ぐるりとリュナを見回したが、どの角度からも城壁内を見ることは出来なかった。
「相手は未知の魔族軍だ……さて、どうしたものか……」
「偵察しにいくか?」
「それは危険すぎる。もっと他に戦力を図る方法を……」
「私が、城壁を吹き飛ばしましょうか~?」
「中に人間がいないとも限らない…………が、城壁手前に打ち込んで陽動させるのはありだな」
一行は森に潜伏しつつ、ミレイユの巨大なファイアボールを見守る。
ドーン、と城壁手前に落ちる。熱風が、遠く離れたリオネアたちまで届く。
少し経つと、狼のような耳をした魔族がわらわらと集まる。背丈は人間ほど。そして最後に数体、二回りほど大きい豚のような頭の魔族も出てきた。
「魔族があんなに……」
「よし、大方把握した。ミレイユ、もう一発いけるか?一掃したい」
「わかりましたぁ」
ミレイユは、再び魔法を放つ。
ドーンという音と共に、魔族たちは炎に包まれる。
生き残った魔族は、辺りを警戒している。
そして城壁からまた数十体が出てくる。
「見つかるのも時間の問題だな。一度引くぞ」
リオネアを先頭に、一行は静かに森の深くまで戻った。
「似た種族が多かったな……」
一行は昨晩の野営場所に身を隠した。
「ああ。獣耳の魔族は軽装備で、動きも素早かった。数で来られると厄介だな……」
「だからでしょうか、一体一体はそこまで強くないような……」
かの魔族は、両手でファイアボールを受け止めていた。
「そのようだな。俺がひきつけつつ、リオネアが捌けばなんとかなるだろう。その間はカイルに後衛を。普通の弓で構わない」
「わかった」
「問題は豚頭だ。獣耳より遅いが重装備。ミレイユの魔法も耐えていたようだった。タイマンなら倒せそうだが、獣耳と同時となると……」
「私が、土魔法で足止めしておきます」
「頼んだ」
ローエンは耳を澄ます。まだここまでは来ていないようだ。
カイルも、首を横に振る。
「よし、少し森を焼いてかく乱させる。火を放ったら、反対側に向かうぞ」
ミレイユは小さなファイアボールで野営跡を燃やす。
それを合図に、一行はリュナの西側へと移動した。
「……どうだ、カイル」
「豚頭が邪魔だな……俺が撃ったら、城門まで走れ。援護する」
カイルは電磁弓に布を被せ、腹ばいに構えて、撃つ。
パスン、と発射された矢は、綺麗に頭を吹き飛ばす。
そして、それをもう一体が視認する間に、パスンともう一矢。
二体の豚頭の胴体のみが、地面に倒れ込む。
「行くぞ」
低姿勢で素早くリオネアとローエンが前に出る。その後にミレイユ。カイルは腹ばいのまま、拓けた城壁周辺を注意深く確認する。敵はいない。が――。
「っ!後ろかっ」
思ったよりも早く追いつかれた。振り返るや否や、矢が数本飛んでくる。
敵は視認できない。しかしこちらの場所はわかっているようだ。
「走れっ!カイルっ!」
ローエンの声に任せ、カイルは城壁へと走り出した。
ミレイユはファイアボールを放つ。
カイルの後ろが森ごと焼かれ、そして爆風でカイルがミレイユの足元に転がってくる。
「だ、大丈夫ですかっ~」
「……危なく灰になるところだったけどな」
「よし、さてここからが本番だ。気を引き締めろよ!」
一行は城門をくぐる。
中の街並みは、思っていたよりも形を残していた。
「どうする?二手に分かれるか?」
「いや、どんな敵が出てくるかわからん。まとまって散策しよう」
身を隠しながら、家々を繋ぐ。中は全く人の気配はない。あるのは血の跡だけだった。
店も、宿も、酒場も、教会ですら、誰一人いない廃墟。
食料も、商品も、生活用品も全て奪われたのだろう。まるで生活の名残が無い。
大通りでは、足早に過ぎる魔族の足音。
速いものから大きなものまで様々だ。
「ローエン。俺はあそこから援護する」
カイルはこの街で一番高い、教会の屋根を指した。
「わかった。囲まれる前に逃げろよ」
カイルは頷き、走っていった。
「俺らもとにかく囲まれるな。街を縫いながら数を減らすぞ」
ここからは体力勝負だ。魔王ネルグサリアとの交戦も控えている。
出来れば、一掃した後に相まみえたいところだが――。
「はあぁぁああっ!」
リオネアが獣耳の魔族たちを横一線に切り払う。
ガキンっと豚頭の魔族の一撃を、ローエンが受け、後ろに引いたところをカイルが電磁弓で狙撃する。
騒ぎを聞いて駆けつける魔族たちを、ミレイユがファイアボールで焼き払う。
「一旦引くぞ」
一度街の中に戻る。息を整え、汗を拭う。
装備を軽く確認したら、別の大通りへと出る。
豚頭の魔族が三体、周囲を警戒している。
リオネアが先陣をきって走り出す。
鋭い斬撃が、あっという間に三体を襲う。
「ははっ、さすがだなリオネア」
リオネアは、力強い眼差しで頷いた。
「はぁ……はぁ……ふぅ……さて、これでだいぶ数は減ったか……?」
何度も街に隠れては、大通りに出て一掃――体力も限界に近付いていた。
「ええ、そのようですねぇ……」
ミレイユも、膝に手をつき、肩で息をしている。
「あ、カイルさん……」
「さすがにお疲れだな……。見たところ、街の中にはほとんど魔族はいない。だが領主城は数体、それも大きな魔族だ。ハルゼンで戦った奴らに近い」
リオネアは、少し視線を落とし、柄を強く握る。
「ありがとうカイル。日も暮れ始めてる。潜伏できそうなところはあったか?」
「それなら、街の外れに商会らしき倉庫が。多分、地下も」
「よし、そこに行ってみよう」
カイルの予想通り、そこはかつて商会の倉庫として機能していた場所だった。
そして、地下には物品庫と思われる地下室も。
「よくわかりましたねぇ~」
「ああ、元商人だからな」
一行は丁寧に扉を閉め、地下室で一晩を過ごすことにした。




