27話 ハルゼンの魔族
リオネアは船を、ミレイユは宿を手配し終え、ローエンたちに合流する。
「戻りました~。いい武器は~見つかりましたか~」
「ああ。かなりいい大盾と剣が手に入った。さすが武器屋の街だけある」
「……俺も、いい買い物ができた」
あとは全員の防具だった。
「それならさっき見かけた店がいい。品質もいいし、種類が豊富だった」
「よし、カイルが言うなら間違いないだろう。見てみよう」
そうしてカイルの勧める店で防具をそろえ、一行は明日に備えて早めに宿に戻った。
翌朝。
一番早い船でハルゼンへと向かう。
ハルゼンへ急げ――神の指示は何を意味しているのか。
リオネアは、初めての船旅を楽しめる気分ではなかった。
そして昼過ぎにハルゼンの港へとたどり着いた。
が、賑やかさとは違う、焦燥感と恐怖が入り混じった声で騒然としていた。
何があったのか――と、聞くまでも無かった。
皆が皆、大荷物を抱えて船を待っている。
「急ぐぞ」
一行は押し寄せる人の流れをかき分けて、その源流へと向かった。
***
ハルゼンの北部――木々を切り倒し、整地し、先人により開拓された、のどかな農村地帯が広がっていた。
少し前までは。
北上すればするほど人気はなくなり、そしてとうとう人っ子一人見当たらなくなった。
やがて、倒壊した家々が目立ち始める。立ち込める生温い空気が、つい最近まで火の気があったことを物語っていた。
リオネア含め、一行は胃からこみ上げる酸っぱい怒りと悲しみを必死で堪えた。
そして、さらに北の少し大きめの村で、魔族と遭遇する。
「…………なんの用だ。人間ならもう飽きたぞ」
その魔族は、すっかり燃え尽きた村の中心に、どっかりと座り込んでいた。
辺りには、ハルゼンの民兵らしき遺体が、それも雑に臓物を喰われた状態でいくつも転がっている。
ミレイユが耐え切れず嗚咽する。
「貴様………大人しく森の奥にいればいいものを!!」
ローエンは堪らず怒号を吐く。
「大人しく?……先に住処を荒らしたのは人間だろう?」
「え、それは……?」
リオネアが思わず訊く。
しかし、その問いの答えは貰えなかった。
「どうした、ゲルグ。………なんだ人間か。それもたった四人」
もう一頭、魔族が村の奥から現れる。
「ああ。本当に人間は懲りん。勝てぬのに、いつもちょっかいを出してくる」
「こんなに殺しておいて、よく言えるわね!」
リオネアが、柄を握り一歩前へ出る。
「いい加減目障りだな……。始末するぞ、ギーク」
「あいよ……ったくめんどくせぇ」
重だるそうに、リオネア達に向き合う。そして片手で追い払うような仕草で火魔法を放った。
「ミレイユ!」
ミレイユはすかさず土魔法で防壁を作る。
そして土煙の中カイルは家の陰に隠れ、電磁弓を構えて、すぐに放つ。
その矢は土煙を丸くくり抜きながら、二体の魔族の間を縫うように飛んでいった。
「ちっ!」
「おいおい!あぶねぇじゃねえか!怪我したらどうする!」
ギークと呼ばれた方の魔族が、その矢の軌跡をたどりカイルとの間合いを詰める。ゆっくりと。
その隙を狙い、ローエンは背後から勢いよく切り込んだ。
「ぐはぁあっ!!」
ギークは痛みよりも、驚きで声を上げ怯む。
「……怪我じゃすまないかもな」
カイルがその隙を見過ごすはずはなかった。
ローエンが大盾を構えて横跳びしたのを目の端で確認しつつ、二発目の矢を放つ。
バチンっ!!と再び大きな音が反響する。
矢は、ギークの頭右半分を吹き飛ばしていた。
「……………い、……てぇ……じゃ、ねぇ……か…………」
それを最期に、ギークは倒れた。
「貴様ら、よくもギークを!」
ゲルグと呼ばれていた魔族が、背を向けたローエンに襲い掛かる。
それに反応して、ミレイユが土魔法でゲルグの脚を捉える。
「なっ!くそっ!」
ゲルグは体勢を崩しつつも、辺りに大きな火炎を放ち、防壁を作る。
既にゲルグに向かって走っていたリオネアは一瞬怯んだが、そのまま突っ込み、燃え盛る火炎を大剣の風圧で振り払った。
そしてその勢いを利用し、縦に一回転。
そのまま大剣をゲルグに叩き込んだ。
そして着地と同時に、食い込んだ大剣を切り上げる。
「うっぐあはっっ!!!」
平たい大剣は、ゲルグの体の中を無理やり裂き進んでいく。
そして、右肩口から入った大剣は、左脇下から切り抜けた。
「……うぅ………ぐぼぉぁ!」
大量の血反吐が辺りにまき散らされる。
「ぐぶっ……ざんぼぉあっ…………げっじでぇっ……ゆぶ……ざん……っ」
怨念の籠ったその言葉と共に血を吐き、ゲルグは息絶えた。
その無惨な姿に、リオネアは複雑な表情を浮かべていた。
***
一行はギルドへの報告のため、魔族の死体をくまなく調べていた。
大きさは二体とも魔王ネルグサリアよりは小さいだろうか。皮膚は岩のように硬く、その下の筋肉ですら、普通の刃物が通らない。そして骨は、まるで鋼鉄だった。
よく大剣が通ったものだと、リオネアはギルドマスターからもらい受けた大剣を眺めた。
その時だった。
「お、まえ、ら…………」
二体の死体よりもはるかに大きい、一体の魔族が暗がりから姿を現した。
その魔族は、抱えた何人かの人間をぼとりとその場に落とし、肩を落としていた。
「ゲルグ……ギーク……守ってやれなくてすまん……」
そう小さく呟き、魔族はリオネア達に構えた。
「死んでもらうぞ、人間……!!」
魔族は、勢い任せにリオネアに飛び込んだ。
リオネアは必至に大剣でそれを受け止める。
カイルは弓に持ち替え、魔族を牽制する。
しかし、確かに痺れているであろう右腕は、それでもリオネアの大剣を押し込んでいる。
「引いて!リオネアっ!」
その声にリオネアが後方へ飛ぶと、ミレイユは大きなファイアボールを放つ。
しかし魔族は、腕を焦がしながらも受け止め、うめき声と共に横へ放り投げた。
「…………なぜ殺した。……ゲルグは賢く、いつだって皆の為に動いていたのに!」
魔族はミレイユへと一気に間合いを詰める。
一瞬怯むミレイユ。
あわや殴り飛ばされるところを、ローエンが大盾で庇う。
「聞くな!戦闘に集中しろ!」
ローエンは大声で指示を出す。
「ギークは、怠け者だったが…………いつも場を和ませてくれた!!!」
ローエンを大盾ごと持ち上げ、後方へと投げ去る。
魔族はゆっくりとリオネアに近づく。
「それを……たかが人間ごときが……奪っていいはずなど!!!!」
一気にリオネアに飛び込む魔族に、リオネアも低く踏み込む。
そして、魔族のただれた両腕の打撃を低空でかわし、足元に斬撃を食らわせた。
ごとり、と魔族の膝から上が地面に転がる。
それをすかさず、ローエンが首と胴体とを切り離した。
最期は何も言わず、その魔族は死に絶えた。
辺りにじわりと、血の海が広がっていく。
四人全員が、倒れた魔族をただ無言で見下ろし続けた――。




