26話 武器屋の街ビジュラボ
――世界均衡値-3?
俺は目を疑った。
特にこれと言った出来事はなかったはず……。
――ネルグサリアの腕でも生えたか?それとも……
地図を拡大、縮小を繰り返しネルグサリアを探す。
しかし全く見つけられない。
魔王を指し示した表示も、ネグ=サリアから未だ動いていない。
俺はとにかくあらゆるタグを開き、確認する。
すると世界の一部で、祈祷の数が一時的に極端に増えていたことに気が付いた。
――こんなタグがあったのか……
場所は世界の北限に近い、リュナという小さな街だった。
そしてもう一か所。
ここ最近急激に、そして今なお祈祷が増え続けている地域を発見する。
――ビジュラボ、近いじゃん……
それはビジュラボの北、ハルゼンという街だった。
拡大すると、近隣の集落が破壊されていた――まるで、ライラのように。
そして少し離れたハルゼン中心部の教会には人が集まっていた。
さらに拡大すると、声が聴こえる。参拝者の祈りだ。
「お願いします!どうかハルゼンを救ってくださいませ……」
「この子の……この子の意識が戻りますように……」
「主人が無事帰ってきますように……」
――!!
思わず、声が届かなくなるまで地図を拡大する。
悲痛の祈り。救いを求める声――
それらは全て、創世神である俺に向けられていた。
もう聴こえない。聴こえないはずなのに――。
ドクドクと脈打つ鼓膜の内側で、それらの声が反響し続けている。
――俺は……だって………そんな……………
*
数日後、ブライアン――フェルナー商会のキャラバンが王都エメランに到着した。
「お久しぶりです!兄さん!」
「大きくなったな。ブライアン。ベルや父さん、母さんは元気か?」
「はい。息災です!」
にっこり笑う彼に、カイルは見せたことも無い優しい目をしていた。
その姿を見て、リオネアも弟が恋しくなる。
「リオネアさん!ミレイユさん!お久しぶりです!それに、貴方がローエンさんですね?兄がお世話になっています!」
ブライアンはローエンに握手を求める。
「ああ、よろしく」
ローエンはその手を握った。
都市国家ビジュラボまでは、森の街ヘイムから出国し一度北上しミージャスへ向かう。そこから北東に長く伸びる街道を使ってビジュラボに着く、というルートが最も安全だった。
それでも、ミージャスからビジュラボまでは深い森林地帯。魔物との遭遇確率も格段に上がる。
「いやーでも助かりました!そろそろ買い付けに向かわないといけない頃合いでしたから。それに、護衛依頼料がかなり浮きました!」
ブライアンは満面の笑みだった。
こうしてキャラバンは中継地ヘイムへ向かった。
ヘイムまでの道のりは何度も通ったことがある。
少し見慣れた風景を、今回は荷馬車の上から眺めた。
「到着です!今日はここで一泊しますが、その前に旅の安全祈願でもしに行きましょうか」
ヘイムには小さな教会がある。
聞くところによると、フェルナー商会は必ず、出国する前にそこで祈祷するそうだ。
――祈祷……?そうか、ここでハルゼンに応援を!
俺は未だ震えている手を介入ボタンに添えた。
キャラバンの一行は、ヘイム教会へと入り、それぞれ祈りを捧げた。
そしてリオネアも。
――勇者よ……ハルゼンへ急ぐのだ……。
(!?……神託!!ハルゼン…………どこ?)
リオネアは教会から出てすぐ、ローエンに地図を借りた。
「ハルゼン、ハルゼン……あ、ここだ!」
目的地であるビジュラボから川を上り、テテクク湖の対岸にそう記されていた。
「どうした?リオネア」
「ローエンさん、今さっき神託が……」
ローエンはパーティメンバーを集めた。
「ハルゼン……ここからだと水路のみだ」
まずミージャスに向かい、そこへ伸びる川をひたすら遡ってテテクク湖まで行くルートだ。
「しかしそれじゃあ、半月以上かかるぞ……それにキャラバンもある。予定通りミージャスから陸路でビジュラボに行くしかあるまい」
「ですね~…………リオネアは……」
まるでラーニアの時と同じ展開に、ミレイユはリオネアの顔色を伺う。
「………………そうですね。急いで向かいましょう」
早速カイルはブライアンに、ヘイムに一泊せず本日中にミージャスに入りたい旨を伝えた。
***
穏やかムードだったキャラバンは、荷馬車を飛ばしてミージャス入りした。
締まりかけた宿に滑り込み、そして翌朝も早めに出発した。
本来は、ヘイムで日用品を買い付け、ミージャスで卸す。ミージャスで買い付けた物をビジュラボの道中の集落で売っていく、というようになるべく荷馬車を空車で走らせないのだが、無理言って空車での移動をお願いした。
その甲斐があり、10泊必要な工程を7日で走り切った。
「こんなに早く着いたのは初めてですよ……」
「すまないな、ブライアン……」
「いえ、護衛報酬無料なら、むしろ良かったくらいです!」
ははは、とリオネアはブライアンの商魂の逞しさに思わず笑った。
「さて、まずはハルゼン行きの船の手配だ。リオネア、お願いできるか?」
「わかりました!」
「それからミレイユは宿の手配を。俺とカイルは先に武器を見繕う。あとで合流しよう」
「わかりました~」
***
さすが武器屋憧れの街ビジュラボ。職人街には数多くの工房が立ち並ぶ。
時間が許すのなら、オーダーメイドをしたかった。しかしハルゼンに急がなくてはならないので、いくつもの工房の代表作を見て回り、これといったものを足で探す。
ローエンの大盾と剣は需要が高い。タンクはよくある役割だからだ。実際、選択肢は思った以上にあった。あとはローエンの体と感覚に合うものを選ぶだけなのだが、カイルの弓は違った。そもそも弓という役割自体人気が無く、作っている工房のほとんどがオーダーメイドのみ。
「…………ん?」
そんななか、とある工房がカイルの目に留まる。
魔力で自光し、目先を明るく照らす兜。
反動を微小の魔力で殺すつるはし。
疲れを軽減する魔法を付与した肌着(今なら特価)――。
そんな、信憑性も需要もないような魔道具たちが、まるでガラクタのように店先に雑然と置かれていた。
しかし、その中で――
『雷魔法による高速発射弓』
なる商品を見つけた。
――うっそ!レールガンじゃん!
俺は静かに興奮した。
訝しがりながらも、カイルはその一抱えもある弓を手に取り、奥にいる店主に説明を仰ぐ。
「ぅほっ!おニィサン!お目が高いネェ!ソレは雷魔法を込メる!通常の十倍の速度と威力でトんでく、まルで魔法のようナ代物だヨ!」
「…………………試せるか?」
「いいヨ!奥で奥デ!」
うさん臭い丸いサングラスの店主に連れられ、カイルは裏庭へと案内される。
「撃ってミテよ!矢と弓、どっチにも雷魔法!」
カイルは言われるがまま雷魔法を付与する。
そして引き金を引いた。
バチンっ!という大きな音を立てて、矢はとんでもない速さと威力で飛んでいった。
そしてそれは、的を大きく逸れて隣の家の屋根を削った。
おい!またテメぇだなジン!――という声が遠くの方で聴こえる。
「スゴいでしょ!傑作!でもダレも買わナい……」
「…………確かに誰も買わないだろうな」
威力は認める。しかしそれゆえに狙いが難しく、そして重い。
「今ナら、肩掛けもツけちゃうヨ!わぁお、お得ネ!」
「………音はどうにかならないか?」
「任せテ!」
店主はそのまま引っ込み、そしてすぐ戻ってきた。
「じゃーン!消音布ォ!被せて撃ってミ!」
パスン――。
確かに音は大分小さくなっていた。
「………買うよ」
「マいど~!エメラニア金貨で2枚!」
かなり高額だったが、カイルは購入することにした。
遠くから、殺す気か!――と怒号が聴こえた。




