25話 とにかく強くなるのだ
「ユーミルさ~ん!依頼の報告お願いします~」
王都エメランに戻ったその足で、一行はギルドに顔を出した。
「はい、確かに!……それにしても、大変じゃありませんでしたか?」
ユーミルの耳にも、ラーニアの件は既に届いているようだ。
「ええ~……まぁ…………」
「すみません!倒せませんでした……」
横から頭を下げるリオネアの言葉に、ユーミルは大声を出して驚く。
「えー!!倒せなかったって!?まさか遭遇したんですかっ!?」
「はい………」
「倒せるはずないじゃないですかっ!魔族なんて騎士団が動くレベルの話ですよ!」
「まあ……そうですよねー……完敗でしたよ……」
「よく無事でしたね………本当に……」
ユーミルはドクンと鳴った胸を撫でおろす。
突然目の前が影に入る。不思議に思い見上げるとそこにはギルドマスターが立っていた。
「おうおう、嬢ちゃん!随分大層な事してんなー。お前の差し金か?ローエン」
「ギルドマスター!?」
「俺もさすがに4人だけではいかないさ。……ルルティアが参戦してくれてな」
ローエンはバツが悪そうに頭を掻く。
「あの矢みてぇな姉ちゃんか……それにしたって折角パーティ組んだのに、おっ死んだら意味ねぇだろうが……」
ギルドマスターは目頭を押さえる。
「まぁ、死に際はいい経験だったな嬢ちゃん!それで、そろそろ貸した剣は新調したか?」
「あ」
「……まぁ使ってねぇからいいけどよ。そういうのも信用だぜ?嬢ちゃん」
「すみません……」
リオネアが小さくなる。
「しかし……魔族と相手なら、それじゃ物足りなかっただろう」
その問いには、ローエンが答えた。
「ああ。もう少し重く、切れる大剣が欲しい。相手は硬い。その大剣とリオネアの腕力で、肩の一部しか切れなかった」
「わかった。俺のとっておきをやろう。……お代は高くつくぜ?」
「……これでいいか?」
カイルが、鞄から包帯で巻かれた物を取り出し、カウンターに置く。
丁寧に包帯を取っていくと――
「うっわ。持ってきたんだ……」
魔王ネルグサリアの右腕であった。
「……とんでもねぇお土産だなこいつは」
「魔王ネルグサリアと名乗っていた。釣りはいらない」
「ああ、そう言ってもらえて助かる……。ローエン。お前が調書を書け。出来るだけ詳しく」
ローエンは静かにうなずいた。
***
四人は二手に分かれて、それぞれ特訓に明け暮れた。
リオネアはローエンと。ミレイユはカイルと共に。
「違う!もっと深く踏み込む!」
「はい!」
ローエンの訓練はクラウゼン以上に基本に忠実で、筋トレ、素振り、走り込みを中心に、徹底的にリオネアを追い込んでいった。そして自身もまた、全盛期を越えんと同じメニューをこなす。
「ここはこう!しっかり止めて切り上げろ!一振り一振りを丁寧に!」
「はいっ!」
「あと二百!終わり次第、休憩がてら走り込みにいくぞ!」
***
一方ミレイユとカイル。
朝は走り込みから始まり、そのまま王立図書館で魔法技術の座学。
そして午後は陽が暮れるまでひたすら魔力を錬成した。
魔力が尽きると、借りた本で座学。そしてまた魔力錬成――。
一見、リオネアたちに比べて地味な特訓だが、魔力が尽きていく感覚は、重い風邪に近い。体が重くなっていき、関節がきしみ始める。どくどくと脈打つような頭痛は、死すら予感させた。
「はぁ……はぁ……騎士学校でも、こうなのか?」
本日二度目の魔力枯渇を迎え、木にもたれかかるカイル。
「ふぅ~。いえ、ここまではしませんね~!」
「………死ぬぞ、これ」
「大丈夫ですよ~!私は死にませんでしたから~」
カイルは、その緩い笑顔に、心底恐怖を感じた。
***
そして三か月が経った。
リオネアとローエンは、魔物討伐中心に依頼を受け始めた。しかしもっぱら、ローエンは傍観に徹し討伐後にアドバイスをするにとどめた。
そして依頼の合間で、ひたすら二人は剣を交えた。
「いいぞ!だいぶ一撃が重くなった!しかし甘いっ!」
リオネアの切り込みを大盾で流したローエンは、隙を突き剣を滑り込ませる。
「かかりましたね!」
リオネアは、そのまま大剣を地面に突き刺し、それを軸にローエンの突きをかわし、蹴りを繰り出す。
「!?面白いっ!しかしっ!」
ローエンはリオネアに体を当てて飛ばす。
そして両者再び間合いをとった。
「今のもダメかぁ……」
「はっはっは……正直今のは危なかった。俺も反応出来たことに驚いているよ」
「えー!それ以上成長するなんてズルいですよ!いつまでも勝てないじゃないですか!」
「いや……ははは」
ローエンはその愛想笑いの裏で、リオネアの成長ぶりに末恐ろしさを感じていた。
リオネアもまた、突き立てたその大剣の凄さに驚いている。
確かに重い。それは以前のものと比べ物にならないほどだ。しかし、それでも切っ先は自在で、まるで体の一部のように動くのだ。さすがギルドマスターの「とっておき」だ。
「俺も、さすがにこの大盾ではな……」
魔王ネルグサリア戦で大破した大盾に代わり、今使っているのは以前の大盾。今のローエンにはまったく物足りなかった。
今後はタンクだけではなく、攻撃も主軸に置きたい。装備更新の必要性を感じていた。
***
ミレイユとカイルもまた、魔物討伐の依頼を受けていた。
前衛無しで、それも索敵からの先制を排し、完全に会敵した状態から戦闘を開始するという縛りを設けて。
「ミレイユ。頼んだぞ」
カイルは、鍛え上げた雷魔法を矢に纏わせ、ウルフ型魔獣六匹を正確に射る。
「はい~」
ミレイユは痺れて動けなくなった魔獣に、習得した土魔法で魔獣たちを全て地中奥深く落とし、そこに素早く巨大な、そして強力なファイアボールを叩き込む。
火柱がごう、と立ち、その後でミレイユは地面を再び土魔法で丁寧に均した。
「……物足りなくなってきたな」
「そうですね~……」
依頼書を再確認し、倒した魔獣に小さく祈りを捧げた。
カイルは、痛み始めた弓をみやる。
「そろそろ……」
魔法耐性の高い弓が必要だった。
***
さらに三か月が経ち、半年ぶりに一行がギルドで顔を合わせた。
「お、久々に揃ってるな!それに見違えるほど逞しい面構えだ!」
珍しく受付にギルドマスターが立っていた。
「嬢ちゃん、俺がくれてやった剣はどうだ?ちゃんと振れるようになったか?」
「はいっ!この大剣、すごいです!まるで吸い付くっていうか、クッってやったら、グンって!」
「ほほう!そこまで扱えるか!それなりの力自慢でも、持ち上がりすらしないんだがなぁ!」
はっはっは、と豪快に笑い飛ばす。
「それでマスター。俺とカイルの装備を見直したいんだが……」
ギルドマスターはローエンとカイルの装備を目で確認する。
「お前ら……数年物の装備が数か月でそうはならんだろ普通……特に兄ちゃん。弓で穴でも掘ったのか?」
「……矢に雷魔法を付与して使ってる」
「……なるほど。随分高度な事をあっさりとまぁ……」
ギルドマスターは斜め上を見やり、うーんと唸り始めた。
そして、ややあって口を開く。
「金はあるんだよな?少し遠いが、ここから北東の、都市国家ビジュラボに行くといい」
「なるほど……ビジュラボか……」
カイルがそうつぶやく。
「知ってるの?カイルさん……」
「ああ。武器屋にとっては憧れの街だ。実家も積極的に取引している」
「それなら!ブライアン君の護衛がてら行けば、お互い都合いいんじゃない?」
「そう都合よく………」
「どうせ手紙書いてないんでしょ?訊いてみたら?」
カイルは渋々、手紙を出すことにした。
数日後、ぜひご一緒したいです、とカイルの元に返信があった。
「やった!ブライアン君元気かなー!楽しみ!」
そのリオネアの喜びように、カイルは複雑な面持ちで肩を落とした。
「世界均衡値:-3」




