24話 敗戦と課題
――……………………強すぎるって。
俺は、リオネアたちの戦いを見て、震えていた。
まさかここで死ぬのでは――そうとさえ思った。
――でも引いてくれて良かった……………。
深く長いため息をつく。
しかしそんな中だったが一つの疑問が浮かんでいた。
――魔王の表示、リオネアの勇者表示と違うところにあるんだよな……。
地図上の『魔王』という表示は、地図の北部ネグ=サリアから動いてはいない。
確かにネルグサリアは、自分が魔王だと言っていた。
しかし、画面上ではそうではない。
――本当に、魔王なんだろうか?
俺は強い違和感を感じた。
*
「…………っ…………ヒ―、ル……」
気を失っていたローエンは目覚め、折れた腕をヒール魔法で回復を試みた。
何度もヒールをかけ、ローエンは疲れ果てる。
しかし、まだ目覚めていない仲間たちが心配だった。
「ローエンさんっ!」
「ミ、レイユ………か……他の、やつは……」
「カイルさんもクラウゼン教官も、とりあえずは無事です……」
ミレイユは、ローエンにヒール魔法を施す。
「さすが、本職は違う……な……痛たっ……」
ローエンはなんとか起き上がった。
「リオネアは、無事か……?」
「無事ですが……身動き取れない状態でして……」
ミレイユの指さす方を見やると、岩々に絡まった状態のリオネアがうなだれていた。
「わかった。いま助けよう……」
ローエンは立ち上がり、リオネアの元に歩いていった。
「…………悔しい……敵わなかった………助けられなかった………」
リオネアは、そう何度も小さくつぶやき、流している涙は地面で小さな水たまりとなっていた。
***
陽はすっかり落ち、辺りは薄暗くなっていた。
星々が徐々に顔を出し、鳴く鳥や虫の声も夜のそれと変わっていった。
一行は、動ける範囲でゆっくりと、野営の準備を進めた。
ミレイユやローエンの魔力は底をついたため、焚火の着火にはクラウゼンの火打石を使う。
カチっ、カチャっ、という音が森に反響する。
やがて穂口に火が付き、徐々に火を育てていった。
焚火に火がともると、心なしか安堵感が広がった。
「………よく全員、生き延びた」
ローエンがそうこぼす。
「…………でも、倒せませんでした」
リオネアが、小さく座りながら返す。
「しかし……腕は奪えた。しばらくは……」
クラウゼンがそうつぶやく。
「………俺は、役に立たなかった」
カイルは、いつになく弱気だった。
「……………はい……私も」
ミレイユも、自身の無力さを痛感していた。
ただ、夜が更けていく。
焚火だけが揺らめき、他はまるで時間が止まったかのような空間。
そして各々眠りにつき、そのまま朝を迎えて行った。
リオネアだけが、その明けていく空をただじっと眺めていた。
***
「さて、これからどうする?」
日が昇り、皆が朝食を済ませた後、ローエンは今後について切り出した。
「………私はイデアスに戻ります」
クラウゼンはそう申し訳なさそうに言った。
「ああ。巻き込んですまなかったな。上に報告するのか?」
「ええ。しかし……討伐には出向かないでしょう。あくまで警戒、となるかと」
「だろうな……」
「まさか、このまま追うって言うんじゃねぇよな?」
カイルが訊く。
「それはさすがに出来ない。追っても勝てないだろう……」
ローエンのその言葉に、リオネアは悔しそうに顔をゆがませる。
「なら~……一度エメランに戻りません?魔物に苦しんでるところは他にもあるはずです……」
「それが現実的だな。俺も装備を見直さんとならん」
「俺も……そもそもの戦い方を見直す必要がある」
カイルも、小さく同意する。
「それでいいか?リオネア」
こくり、とリオネアは俯きながら頷いた。
「それなら、早速移動しよう。みんな、動けるな?」
一行は、王都エメランへの帰路についた。
馬車に揺られながら、カイルはローエンと戦法について相談している。
「弓以外か……遠距離は魔法の主戦場だからな……他となると……」
「実は魔法は多少心得がある。サンダーボルトなら……」
「え~?そうだったんですかぁ?でもサンダーボルト……扱いが難しいですねぇ……」
魔法、聞いてミレイユが話に参加する。
「ああ。だから使ってこなかった」
「なら、矢に纏わせたらどうだ?」
クラウゼンのその言葉に、カイルは目を見開く。
「そうか。その手があったか……」
「難しいとは思うが、君の冷静さなら扱えるだろうさ」
クラウゼンの言葉に、カイルは少し前向きになった。
「ルルティア。今後は俺らであの怪物と相手しなければならない。何が必要だろうか?」
ローエンは、元部下であるクラウゼンに意見を乞う。
「そ、それは貴方の得意分野でしょうに……」
クラウゼンは目をそらす。
「頼む。教えてくれ」
まっすぐ見るローエンに、クラウゼンは仕方なく応える。
「そ、そうですね……私が見るに、圧倒的に火力が足りていなかった、と思います。今回はリオネア頼りで陽動し一撃を食らわせられた。しかし、本来なら、近接、もしくは遠距離からの強力なサポートが欲しい」
クラウゼンは、ローエンの顔を見やる。
「ローエンさんは、タンクとしては申し分ないでしょう。強力な武具があれば、役割は果たせそうだ。しかし近接に不安があるなら、コンバートも視野にいれても良いのかもしれません。貴方は元々優秀な剣士だった」
「え、そうなんですか?」
リオネアがクラウゼンに訊く。
「ああ。恵まれた体躯とパワー、そして技術を持った素晴らしい剣士だった」
「昔の話だ。俺も歳を取った。当時の機敏さはないさ……」
そしてクラウゼンはカイルに向き直る。
「カイルは……そもそもの戦法に無理があった。弓矢は今でも奇襲に長ける。しかしああいう類にはどうしても不利だ。攻撃よりも、気を散らしたり、陽動が光るだろう。その意味でも、雷付与の矢は使い勝手がある」
カイルは深くうなずく。
「そしてミレイユ。当時よりは随分発動が速くなった。しかし今度は火力が課題だろう。その速度を維持して、高火力を出せるように訓練するといい。あと、君は確か土魔法も使えたはずだ。鍛えれば、攻撃も防御も可能な便利な属性だ。これを機にそこを伸ばすのもいい」
「さすがクラウゼン教官……ご存じだったんですねぇ……」
「土魔法は軍ではあまり需要が無いからな……でも個人は違う。ミレイユは、一人でも戦える状態を目指すイメージだ。速さ、火力、戦略、援護……後衛ならではの視点で戦えれば、ローエンさんの負担も減る。これはカイルも意識した方がいいな」
ミレイユとカイルは、その言葉を反芻する。
「そしてリオネア。君の最大の強さは火力だ。そして素早さもある。一瞬で間合いを詰め、強力な一撃を与えられる。剣士としてこれ以上の事は無い。しかし、技術がおざなりだ。周りにサポートしてもらうのも手だが、それでは満足しないだろう?」
リオネアはうんうんと頷く。
「ならとにかく実戦だ。ローエンさんに教わるといい。私もそうだった」
「え!?」
リオネアはローエンへ振り返る。
「……そうだったか?」
「覚えていないんですね………。貴方は私に、力ではなく速さを教えてくれました。……それで今の私がいます」
「そうだったか……すまない」
「それにしても、リオネアはローエンさんから指南受けたと言っていましたが……それにしてはまだ緩いというか……」
「すまん……まだそこまで、しっかり教え込めているわけじゃないんだ」
「それならしっかり叩き込むべきです!リオネアは貴方を越えられる逸材だ!それに、勇者なのでしょう?彼女を死なせない為にも、必要だ!」
「そ、そうだな……確かに……」
「まったく。ローエンさんは女性に甘いところがある!同じく命を懸けてる仲間なんですから!」
「すまない……」
「……ローエンも怒られることあるんだな」
「カイル、よしてくれよ……」
心地よく馬車は揺れながら、王都エメランへとたどり着いた。




