22話 魔族
リオネア一行は、4日ぶりにラーニアに戻った。
しかし――
「おい、聞いたか?ライラの話……」
「ああ。一昨日のあれだろ?夜だったらしいじゃねぇの……逃げようないって」
街は騒然としていた。
リオネアは一気に血の気が引いていくのを感じながらも、何があったのか街の人に訊いて回った。
「なんでも何匹も魔獣が攻めてきたらしいぜ」
「魔族が率いてたって噂だ」
「でも、エメラニア王国から来た騎士団が追い払ったって」
「それ、本当ですかっ!?」
リオネアは、そう話す若い女性に問い詰める。
「え、ええ。でも本当なのかしら……騎士団が来てたなら、もっと目立ってたでしょうに」
女性は、不思議そうに首をかしげていた。
どうも情報が錯綜しているようだ。
「リオネア……まずは現地に行ってみよう」
ローエンはリオネアにそう提案した。
「そう、ですね…………」
そして一行は、ラーニア北部、ライラ村まで向かうことにした。
「そんな…………」
リオネアが膝から崩れる。
ライラは、焼け野原になっていた。
未だ消えていない火に、生々しさを感じる。
皆、言葉を飲む。
「助けてって言われたのに…………助けられたかもしれないのに………」
リオネアのその声に、ローエンは静かに彼女の肩に手を置いた。
「……………仕方なかったんだ」
リオネアはその言葉にかみつく。
「仕方ないって何ですかっ!分かってたじゃないですか!助けてって言われたじゃないですかっ!なのに助けなかった!依頼ってそんな大切なんですかっ!そのせいで人が死んでもいいんですかっ!」
リオネアは激昂してローエンに掴みかかる。
カイルは、リオネアを引き離し、頬を引っ叩いた。
「なっ………!」
「好き勝手言ってんじゃねぇよ!ならアンタは、あのキャラバンを見殺しに出来たのかっ!?」
「そ、それは…………」
しん、と静まり返り、村が燃える音がやけに大きく響く。
「あのね……リオネア……私、盗賊を3人殺したわ」
ミレイユが、諭すように話始めた。
「それは……仕方が……!」
「仕方なかった。でも、殺したの。あなたなら殺さずに済んだかもしれない命を……」
皆が、ミレイユの次の言葉を待っている。
ガタン、と燃え尽きた家が崩れ落ちた。
「誰も、間に合わなかった……私達も……。リオネアぁ……救うって、難しいね……?」
ミレイユは、静かに涙を流しながら、そう言った。
リオネアは小さく、ごめん、とだけ呟いた。
***
しばらくして、一行はライラで何があったのかを探るべく、焼け落ちた村を見て回ることにした。
悲惨な有様だった。
何かを引きずった跡、柱ごと吹き飛んだ屋根、血だまり――しかし、死体は一つも残っていなかった。
「食べられたんでしょうかぁ……」
ミレイユは、そうローエンに訊く。
「かもな。しかしそれにしては妙だ……」
食い漁った形跡は確かにある。しかし、家の数ほど多くないのだ。
「おい、人影があるぞ」
カイルが声を上げる。
「本当だ……行ってみよう」
生き残りがいたのかもしれない。
一行は走ってその人影の元へ行った。
「…………クラウゼン、教官?」
そこにいたのは、騎士学校で教鞭を振るっていたクラウゼンだった。
「り、リオネアか!?」
クラウゼンも驚いた様子でこちらに寄る。右足を引きずっている。怪我をしているのだろう。
「おお、リオネアとミレイユ……こんなところで会うとはな!元気だったか?」
「はい!その、クラウゼン教官はここで一体……」
「ああ、ここが襲われると聞いてきたんだ……他の方々……は………えっ!?」
クラウゼンは、再び驚いた表情をする。
「あなたは…………ローエン隊長…………」
「!?もしかして………ルルティア……か?」
「はい………ルルティア・フォン・クラウゼンであります………まさかそんな……」
クラウゼンはその場で崩れ落ちた。
比較的焼け残っていた家に間借りして、クラウゼンから話を聞くことにした。
「私は、数か月前に騎士学校からイデアスの国境警備に就いた。ようは左遷だ」
リオネアとミレイユは、セイランで聞いたクラウゼンの口論を思い出していた。
「それで少し前から、魔獣が多発すると報告があって、ラーニアの北部を三人で調査していたんだ。そして魔獣の痕跡を見つけて南下すると、今まさに襲われているライラを見つけたんだ」
「一体どんな………」
「魔族だったよ。3mはゆうに超えていた。私も初めて見た……。我々は魔獣を倒しながら、魔族に挑んだ。他の二人がやられ、私だけとなったが……とても一人でどうこうできる相手ではなかった……」
「それで、魔族は……」
「引いていった。やつにも傷を負わせたからな………私も、捨てたものではないだろう?……つっ!」
「そんな足でよく戦った。それで、あそこで何を」
今度はローエンがクラウゼンに訊く。
「遺体の弔いを……村人と、仲間の……」
「相変わらず優しいな。ルルティアは」
クラウゼンは、顔を赤らめた。
「あのぉ、クラウゼン教官とローエンさんは……どのような間柄なんでしょう~……?」
ミレイユが、申し訳なさそうに切り出す。
「彼女は……俺の元部下だ。騎士団時代の」
「えー!?じゃ、クラウゼン教官の命令違は……むぐっ」
「リオネア………」
ミレイユは、リオネアの口を押さえ、首を横に振った。
「それで……その魔族は、勝てるか?人間に」
「…………単体なら、十人編成の隊なら。魔獣の数次第では、軍隊でないと……」
「そうか。ありがとう。まずは休んでくれ。弔いは引き継ぐ」
***
「リオネア。どうする」
ローエンは、今後の方針についてリーダーであるリオネアに訊く。
「私は……魔族を倒したいです。勇者として」
「そうか。しかしこれはかなり危険だ。相手が強すぎる。痕跡を辿って追い打ちを仕掛けるか、一度引いて討伐依頼をギルドに申請するかだが……」
「それまでにまた攻められたら終わりだぞ。ラーニア」
カイルがそう忠告する。
「その通りだ。だから、ここでルルティアの回復を待って、痕跡を辿るというのはどうだろうか?」
クラウゼンの怪我は、ヒール魔法で回復をみせている。二日後には出られそうだった。
「それでいきましょう!」
「わかりました~」
「……わかった」
「ルルティアは、それでいいか?軍規には触れないように注意するが……」
「ありがとうございます。……まぁこれでまた左遷になるなら、喜んで辞めてやるさ」
自嘲気味にクラウゼンは笑った。
「それじゃ、皆で手分けして、村にある食料を集めてきてくれ。足りなければ、一度街に戻る」
一行は、クラウゼンを加え魔族討伐へと動き出した。




