21話 ラーニアの危機
――ちょっと!俺のリオネアとあのカイルってやつ、なんかいい雰囲気じゃないの!?
おのれイケメンめ!これだからイケメンというやつは。
しかし、介入ボタンを使えばまたこないだのような惨事になりかねない。
――ううむ……見守るしかないのか……。
神とはこんなにも歯がゆいものなのか。
*
キャラバンとリオネア一行は、ラーニアに入っていった。
「ここらは家畜ばっかだけど、川沿いは農村が多いんだぜ」
リオネアとミレイユが乗る荷馬車を引くダンテがそう話しかける。
「ダンテさん詳しいんですね!」
「俺はラーニア出身だからな!故郷は北の外れのほうだけど」
「へー!もっとラーニアのこと教えてください!」
ダンテはラーニアについて話した。
ラーニアは、厳密には国ではなく、名も無い集落や村が集まって出来た自治区に近い。しかし都市国家ほど大きいわけではない。
特にこれといった特産があるわけではないが、都市国家であるヤンゴムとエメラニア王国との水路、陸路の交易中継地として栄えていた。
「俺も帰るのは久々だ。今回は実家に顔だせねぇけど、ヤンゴムの帰りに親の顔でも拝んでおくかな」
「それがいいですよ!きっと喜びます!」
そして一行は、ラーニアの中心部にたどり着いた。
今日はここで一泊し、明日からヤンゴムへと向かう。
「今日は共同の停車場に荷馬車を置くそうだから、夜番はいらない。各自好きに過ごしてくれ」
ローエンから、自由行動の許可が下りる。
「わーい!それじゃどっかでご飯食べよっかなー!」
リオネアは早速鼻を利かせて料理屋を探している。
「誰がリーダーなんだか……」
カイルはそう、独り言ちた。
リオネアとミレイユが食事を摂っていると、きな臭い話を耳にした。
「ここからすぐ北東で、魔物の痕跡があったとよ……」
「らしいな。それも焚火の跡まであったって話だぞ?」
「マジか!それじゃ魔獣じゃなくて……魔族なのか?」
魔族――たしか知恵のある魔物の総称だ。だがその呼称をリオネアは物語でしか知らない。
「ダル、お前たしかそっちの方の集落出身じゃなかったか?」
「ああそうだ。何人かラーニアの騎士団が向かったって話だ」
「おいおい、数人でどうにかなるのか?それ……」
「ん?リオネア?どうしたの~?」
ミレイユが、聞き耳を立てるリオネアを心配する。
「え?あ、ううん!何でもないよ!」
リオネアは、むしりと肉にかぶりついた。
酒場を出ると、ローエンが誰かと話しているところに出くわした。
「いや、しかし俺らも仕事中で……」
「そこを何とか頼むよ!このままじゃライラの村は滅んじまう」
「悪いが……依頼主をここで放り出すわけにはいかない……」
「どうかしたんですか?ローエンさん」
「り、リオネアっ!」
ローエンは驚き、そしてばつの悪そうな表情を浮かべた。
「ああアンタがリーダーか!頼む!ライラを……救ってくれ!」
リオネアは、泣きつく彼に困って、ローエンを見上げる。
「………どうやら、魔物が近くまで来ているらしいんだ。それも……」
「魔族、ですか?」
リオネアは、さっきの話を思い出す。
「だが俺らは仕事中だ。抜ける訳にはいかない」
「でも、困ってる人がいるのに……見捨てるのは……」
リオネアも困った顔をする。
「頼む!村人の命が掛かってるんだ……頼む……」
地面に伏してまで、必死でお願いする男性。
「二手に分かれることは、出来ないですか?」
リオネアは、ローエンにそう提案する。
「無理だ。あのキャラバンを二人では守れない」
ローエンはしゃがみ込み、男性を介抱する。
「すまない。俺らでは今どうすることも………数日後にはヤンゴムから戻れる。それまで何もないことを祈る……」
「っ………………」
男性は、何も言わずその場をふらふらと去っていった。
「正直、本当に魔族なら、俺らで倒せるかも分からない……」
ローエンは、男性を見送ってから、そうこぼした。
「でも……それが勇者の仕事じゃ、ないですか……」
「…………そうだな」
リオネアは、歯がゆさのなか宿へ戻った。
そして一行はラーニアを出発した。
再び集落を繋ぎ、四泊かけて都市国家ヤンゴムへと向かう。
その二日目の夜だった。
「おい……その馬車を渡せ」
ローエンとミレイユの夜番中、数人の盗賊に囲まれた。
「おい、ミレイユ!起きろ!」
「…………!?」
ローエンは大盾と剣を構える。
ミレイユも、荷台から様子を伺い、防御結界を張った。
「よし、でかした!」
ローエンは、盗賊の一人に突進する。
大盾で相手を押し付けひるませると、喉に盾を食い込ませ、気絶させる。
そして後ろから来た別の盗賊には、斬撃を叩き込んだ。
残るは3人。
荷馬車に触れられないことがわかった盗賊たちは、一斉にローエンに向かった。
「くそっ!死ねやーー―!!!」
そう大声を出す盗賊たちに、ミレイユはファイアボールを放った。
「くっ………そっ…………」
盗賊は、燃えながら苦しそうに突っ伏し、そして息絶えた。
「助かったよ……ミレイユ……」
「はい……」
殺させてしまった――とローエンはミレイユを見やる。
彼女の眼は、普段からは想像もできないほど、力強く、そして冷たくも感じた。
そしてリオネアとカイルが交代にやってきた。
「………夜盗か?」
辺りはローエンが片付けたが、カイルは血の匂いで気が付いた。
「ああ。5人だ」
そうか、とカイルはローエンの胸元をとん、と軽く叩き労った。
ミレイユもリオネアと交代し、ふらふらと疲れた足取りで宿に戻っていった。
翌朝――。
ローエンは夜襲があったことをシルベスタに報告した。
「え、夜襲なんてあったの?魔獣?」
リオネアは、ミレイユに訊く。
「ううん……盗賊……」
「え!?盗賊……それじゃ……」
「うん。ローエンさんと私で……………」
リオネアは、無言でミレイユを抱きしめた。
ミレイユは、リオネアの胸の中で、また少し冷ややかに目を細めていた。
さらに二日経ち、一行は無事ヤンゴムにたどり着いた。
「いやー本当に助かったぜ!これが報酬だ!……ちょっと色付けておいたぜ!」
リオネアは報酬を受け取り、中身を確認する。依頼書にあった金貨8枚と、銀貨が4枚入っていた。
「いいんですかこんなに!?ありがとうございますっ!」
「なに!安全に旅が出来たのはお嬢ちゃんたちのお陰だ!何かうまいもんでも食って、ゆっくり休んでくれ!」
シルベスタはそう気前のいい笑顔で、キャラバンを引いて去っていった。
ゆっくり休んでいてくれ――しかしそうもいかなかった。
リオネアたちは、明日の馬車の手配を済ませ、すぐに朝方ラーニアへと向かった。
間に合って欲しい。
そうリオネアは強く願った。




