20話 カイルの本音
ローエンは、ギルドに向かう途中でカイルに会った。
「……ちゃんと帰れたか?」
昨日のローエンは、いつになく危うい足取りだった。
「ありがとうカイル。久しぶりに……軽く二日酔いだ」
ローエンはこめかみを押さえる。
「だろうな……で、どうするんだ?」
「リオネアたちのパーティに合流することにするよ。お前はどうする?」
「俺は……ローエンについていく」
「それでいいのか?一応あれでも、勇者パーティだぞ?」
「ああ。俺は稼げればそれでいい」
それに――とカイルは続ける。
「なんか放っておけなくてな。あんたらを……」
ローエンは、カイルの肩に手を回し、ぐいと抱き寄せた。
「ありがとう。助かるよ、カイル」
「やめろよ、むさ苦しい……」
そして彼らはギルドに入っていった。
「あ、ローエンさんにカイルさん!おはようございますっ!」
「おはよ~ございます~!」
リオネアとミレイユは元気に挨拶した。
「おはよう。昨日はすまなかったね。かなり酔っぱらってたみたいで……」
「いえいえ~。それより~……二日酔いとかないですか~?お水をたくさん飲みましたかぁ?」
「ああ、そこまで酷いわけじゃない。大丈夫だよ。それよりリーダー。いい依頼は見つかったかい?」
「そうですねー……Dだとあんまり……え?リーダー!?」
「ああ。いい依頼を頼んだよ、俺らのリーダー」
「え!?……つまりそれって……」
リオネアはローエンとカイルを見やる。
「君たちのパーティに、参加することにした。俺と、そしてカイルも」
リオネアは思わずローエンに抱き着く。
「わー!!ありがとうございます!カイルさんも!」
カイルは、抱き着こうとするリオネアを、嫌な顔一つで牽制した。
「それじゃあ~パーティ登録変更しましょうね~」
ミレイユは、ニコニコと機嫌のいい笑顔で、ユーミルのところへ向かった。
「はい、これでパーティ変更は終わりです!……それにしても、この人数の正式なパーティをローエンさんが組むなんて……意外でした!」
ユーミルがそうローエンに言う。
「まあ、いろいろあってね。リーダーはリオネアだ。俺はまた、サポートに徹するよ」
「そうなんですね!それじゃリオネアさん!パーティ全体のランクはCとなりますが、今日は依頼を受けていかれますか?」
「そうですねー……討伐依頼とかは……あ、」
リオネアは昨日の話を思い出し、ローエンを見上げる。
「ははは……リオネアは優しいな。大丈夫。問題ない」
ローエンは、リオネアの頭に手を乗せる。
「それなら……討伐依頼か、護衛依頼はありますか?国外に出るようなやつ!」
リオネアはユーミルにそう注文した。
「なるほど……Bランク以上なら討伐依頼も最近は多いんですが、Cだと……」
ユーミルは器用にいくつもの紙をめくり上げる。
「あ、これなんてどうでしょう?都市国家のヤンゴムへの、行商人一団――キャラバンの護衛依頼です」
「ヤンゴムか……ラーニアから水路で向かうなら、護衛はラーニアまででは?」
ローエンはユーミルに質問する。
「いえ、今回は陸路だそうです。イデアスで出国手続きをして、ラーニアへ。その後ヤンゴムに陸路で向かう行程です」
ユーミルの説明を受け、なるほど――とローエンはあごひげを撫でる。
「ざっくり、半月以上の依頼になりそうだな……どうするリオネア?」
「もちろん、受けます!」
その即答ぶりに、ローエンとカイルは一抹の不安を覚える。
「………ローエン。あんたが決めたことだ。あいつの手綱、ちゃんと握れよ」
「そうだな……」
一行は、五日後に控えたその依頼を受け、解散した。
そして五日後――。
「旦那がた、今日からしばらくお願いしますぜ!俺はシルベスタだ。よろしく!」
キャラバンの代表シルベスタがローエンに握手を求める。
「あーすまない。リーダーは彼女なんだ。リオネア!」
はい!とリオネアはぴょこぴょことローエンの元にやってくる。
「こちらが代表のシルベスタさんだ」
「よろしくお嬢ちゃん!」
「よろしくおねがいします!リオネア・アルヴェリアです!」
「シルベスタさん、念のため積荷を確認しても?」
「ああ、構わないぜ」
ローエンは3つある荷馬車の積荷を確認する。
「ああ、なるほど……」
中は宝石、金銀細工、それにガラス製品だった。どおりで水路が使えないわけだ。
「確認しました。護衛お任せください」
「ああ、しっかり頼むよ!」
「ん?どういうこと?」
リオネアも、ローエンの横から積荷を覗いている。
「ラーニアからヤンゴムまでは、普通川を使った水路を使う。しかし川は揺れる。こういう工芸品にはあまり向かないんだ」
「へー!そうなんですねー!」
「高価な品だから、野党には注意すること。あと、荷崩れも厳禁だ。そういうのをあらかじめ確認することも護衛には大切だ」
「なるほど!勉強になりました!」
「じゃあ、そろそろ出発しますぜ!」
一行は、まずは多彩な街イデアスへと出発した。
まずはハイラントで一泊。そしてイデアスに到着し、出国手続きを済ませる。
「はい、確かに。最近、魔物の襲撃報告も多いので、どうかお気をつけて」
門番にそう忠告を受ける。
魔物が多い――倒せと言われた魔王と何か関係があるのだろうか?
リオネアは、気を引き締めた。
ラーニアまでは、街道が通っている。以前の調査依頼の時、何度も通っては南下し迂回した道だ。
今回は、小さな集落を繋いで宿を確保しながら進んでいく。
「……前も宿に泊まればよかったのにね」
リオネアは、同席となったミレイユにそうこぼす。
「そうね~……きっとなにか理由があったのよ~」
そして一行は、一つ目の集落に到着した。
「それじゃ、俺とミレイユ、カイルとリオネアで、交代で夜番をする」
「ちょっとまて、俺がこいつとか?」
カイルがリオネアを指さしてローエンに意見する。
「ああ。前衛と後衛を混ぜた配置だ。それに女性だけで固まるのも良くはないだろう?」
「そうだが……」
「カイルさん。なにか問題ありますー?」
リオネアが、すごい剣幕でカイルをにらむ。
「……ちっ。足引っ張んなよ、大喰らい」
「そっちこそ、しっかりお願いしますね、お兄ちゃん?」
バチバチと、視線がぶつかり合う。
「………まったく。それじゃ、先に休んでいてくれ。日が変わったら交代だ。宿はあの教会だ」
教会、と呼ばなければ、なんの建物か分からない小屋が、そこにはあった。
カイルとリオネアは場所を確認し、それぞれ散っていった。
「やれやれ……お互いお守りが大変だな」
「そうですねぇ~」
ローエンとミレイユは、小さくため息をついた。
集落の家々の小さな灯りが落ち、辺りは蛙の鳴き声が遠くで静かに聞こえる。
「ローエンさんは~、このあたりにも詳しいんですねぇ」
「………地元が、近かったからな」
それを聞いて、ミレイユの表情が険しくなる。
「例の………ですか?」
「ああ…………。当時はここら一帯も、エメラニア王国だったんだ」
「そうだったんですね…………」
「……ミレイユには礼を言わなくちゃいけない」
ローエンは姿勢を改める。
「こないだは、ありがとう。おかげで目が覚めたというか……救われたよ」
「いえ……あの時は……その……出過ぎたことを言いました……」
「そんなことはない。……本当に、ありがとう」
ミレイユは照れ隠しに星を見上げた。
街で切り取られていない大きな夜空は、めまいがするほど星が輝いていた。
「少し寝たらどうだ?何かあれば起こす」
「ありがとうございます~……それじゃ、少しだけ……」
ミレイユは、荷馬車の壁にもたれるようにして、毛布にくるまった。
「こんばんは……交代ですよー……」
リオネアとカイルが、夜番の交代に来た。
「わかった。すまないがミレイユを起こしてくれ」
リオネアは、すやすやと眠るミレイユを起こしに近づく。
「おはよーございますー……」
ランタンを自分の顔に近づけ、不気味に照らす。
「ん……………きゃっ!!」
ミレイユは目を丸くして驚く。きょろきょろと辺りを見回し、よく見るとリオネアだと判別する。
「お目覚めのようですね、お嬢様」
「もう~やめてよ~……心臓止まるかと思ったじゃない~」
「ほら、夢の続きは教会で見ろ」
カイルはミレイユが馬車から降りるのを手助けする。
「あらま、やっさしい~」
「うるせぇ……」
そんなやり取りを背に、ローエンとミレイユは、教会へ向かっていった。
「あんたも、寝てていいぞ。そのほうが静かでいい」
カイルからそう提案する。
「君も寝ていたらどうだ、ってなんで言えないかなー……」
リオネアは口をとがらせて言う。
「耳障りだ。寝ろ」
「あ、酷ーい!!」
それにしても静かだった。こうして会話していなければ、空の星に吸い込まれそうなほど。
「カイルさんは……家族のために冒険者になったんでしょ?」
「……ブライアンから聞いたのか」
「うん」
「…………別に、そういうわけでもない」
「でも、仕送りしてるんでしょ?偉いよ……」
「大した額じゃない……。俺はただ……商人になれなかっただけだ」
「……そうなの?まあ、人見知りだもんね、カイルさん」
「………そうだな」
珍しく、カイルは素直に返事をした。
「ローエンさんとは長いの?」
「……4年だ。まだ駆け出しだった頃に、助けてもらってな」
「それからずっと?」
「ああ。よっぽど危なっかしかったんだろうな。あんたをみてそう思うよ」
「私そんな危なっかしいかな……」
「危なっかしい。だから放っておけないんだろうさ。ローエンさんも。……俺も」
「え?カイルさんも?」
カイルは顔を赤らめた。
「違うっ。………寝ないなら、俺が寝る。何かあったらすぐ起こせよ」
リオネアは、一人で鼻歌を歌いながら、夜が明けるのを待った。




