2話 勇者リオネア
若干16歳の勇者リオネア・アルヴェリアは、父と母、年の離れた弟、地元の人たちに見送られて、王都エメラン行きの馬車に乗り込むところだ。
「リオちゃん!ケガに気を付けて!無理するんじゃないよ!」
「向こうでもしっかり食べるんだよ!」
「食べ過ぎてお腹痛くなったら、これをお飲み?」
リオネアは声援の中、胃薬を渡される。
そんなに私って大食いかな――と、リオネアは苦笑いしつつ丁寧に受け取る。
「あんた、ホントに食べ過ぎるんじゃないよ?路銀だってそんなに渡してないんだから!あとこれ!道中食べなさい」
母からパンが二斤ぎゅうぎゅうに詰まった包みを受け取る。
「ありがとうお母さん……これなら餓死しなくて済みそうね!」
次の街ガムレットまで馬車で3時間ほど。これなら何とか持つだろう。
「リオネア……くれぐれも……」
父が心配そうにリオネアを見つめる。
「お父さん心配し過ぎ!私は大丈夫だから!」
「お姉ちゃん!ちゃんと手紙書いてよ!絶対だからね!ぜったい、だから……」
割り込むようにして姉にエールを送った弟は、我慢しきれずとうとう泣いてしまった。
「ああもうトッド……ほら、おいで」
リオネアは弟トッドを力強く抱きしめる。
「……いい?良い子にしてるんだよ?着いたらすぐ手紙を書くから。だからトッドも、どう良い子にしてたか、お手紙ちょうだい?」
「うん……わかった……」
トッドはリオネアの懐からそっと離れる。
「じゃあ、みんな。行ってきます!」
声援と共に見送られながら、リオネアは首都エメラン行きの馬車に乗り込んだ。
馬車は見慣れた畑の、その先をどんどんと進む。そしてだんだんと見慣れない畑が広がっていった。
「…………はぁ。本当に出ちゃったな……家……」
リオネアは、頬杖をして景色をぼんやりと眺める。
「お父さん……最後まで心配してたな……でもお父さんだって16で王都に行ったんだし、きっと大丈夫よね」
父ライネスは元王都の騎士だった。怪我を理由に実家に戻ったが、その後も自警団員として街の平和を担っている。そんな背中を見て育ったこともあり、いつしかリオネアも騎士を目指すようになっていった。
王都へは、そんな憧れの騎士になるべく、登竜門である騎士学校へと通うべく向かっていた。
「お父さん……お母さん……トッド……それにみんな……ちゃんと騎士になって世界を守るからね!……なんてね」
力強くガッツポーズをしたのち、リオネアは少しだけ恥ずかしくなって顔を赤くする。
そして気合を入れたら少しお腹が空いたので、リオネアは早速母から貰ったパンを食べることにした。
*
――ああもうなんて良い娘なんだ俺の嫁っ!!
思わずちょっと涙ぐんでしまう。
――うーんカムレットまで三時間か……
このまま、早速2斤もあるパンにかぶりついているリオネアを見守るのも悪くない。でもさすがにただ見ているだけというのも飽きてしまう。
少しだけ早送りをして、カムレット到着を待った。
*
リオネアの乗る馬車は無事カムレットへ辿り着く。
「んーーー!いやー揺れた揺れた!」
乗りなれない馬車に、強張ってしまった体を大きく反らす。
――うわっ!すっごい胸っ!さすが勇者っ!
「さ、て、とっ!まずは宿を探さなくっちゃ」
リオネアはカムレットの街を探索する。
カムレットは、農業が盛んなエスタ平原地方の北に位置する。ノルディアと同じ地域なのであまり変わり映えせず、肉よりも野菜類が豊富に市場に並んでいる。
「出来れば、美味しい料理も食べたいなぁ……あっ!すみません!ここら辺に美味しい宿ってありませんか?」
リオネアは街の人に尋ねる。
美味しい宿――その単語に首をかしげていたが、リオネアと話す中で合点がいったようで、ご丁寧にも宿まで案内してくれた。
宿を取り終え一安心したリオネアは、仕事帰りの男たちで一杯になる前に早速、下の酒場で食事を摂ることにした。
「うわぁあ!すごくおいしそうですね!!」
リオネアは感動のあまり、配膳してくれた店員の手を握る。
「あら、嬉しい事言ってくれるね!でもお嬢ちゃん……この量本当に食べきれるのかい?」
並んでいる料理は、二人用のテーブルとはいえ既に置ききれないほどあった。
「全然大丈夫です!あー、でもデザートは食べ終わってからがいいです!もう置けないので!」
「あははは!んじゃデザートはサービスしておくよ!しっかり食べていきな!」
「えー!いいんですかっ!?ありがとうございますっ!」
リオネアは目を輝かせてお礼を伝えた。
その後、約束通りしっかりデザートまで平らげたリオネアは、満足げに鼻歌を歌いながら部屋へと戻る。
「ふふ~ん♪幸せ幸せっと……はぁーー」
ベットにゴロンと横になる。いつもなら母が「牛になるからやめなさい!」と鬼のような顔で怒るところだが、その声ももうしばらくは聞くことが出来ない。
リオネアは、少しだけ寂しくなり、枕を抱きしめた。
「………………あっ!このままじゃ寝ちゃう!動けるうちに湯あみしなきゃ!」
――え!?湯あみ!!??
いそいそとリオネアは服を脱ぎ始める。
――あっ!あっ!そんなっ!急にサービスカットなんてっ!
ワンピースを上半分脱ぎ、下着が露になる。
零れ落ちそうな程の大きな胸が柔らかく揺れる。
――え?え?いいのかな?いいんだよね?
ワンピースを下へ降ろしていく。胸とは対照的に引き締まったお腹を通り過ぎ、大きく育った健康的なお尻を越え、ワンピースは地面へと落ち切る。
――あっ!あっ!
そして履いていた下着に指をひっかけ――
………………
…………
……
「ふう、これでキレイキレイですねー」
リオネアは湯あみを終え、そう独り言をいいながら寝間着へと着替えていく。
――ふぅ。
神もまた、すっきりした気分だった。
***
翌朝、リオネアは朝食を二食分平らげ、次の街カルメル行きの乗り合い馬車に乗り込んだ。
「どうもー失礼します……」
6人乗りの馬車には既におじさんが2人乗っていた。気を使ってリオネアの座る横と前を空けてくれる。
「ありがとうございます」
「お嬢ちゃんは、どちらまで行くんだい?」
優しそうな垂れ目のおじさんがそうリオネアに訊く。
「王都エメランまでです。私騎士を目指していて……」
おお!と別のおじさんが目を見開く。
「俺の息子も王都で騎士やってんだよ!そうかそうか!頑張れよお嬢ちゃん!」
「あ、ありがとうございますっ!」
リオネアは丁寧に頭を下げる。
「最近は魔物も活発だと聞くからね。親御さんも心配だろう」
「そうだなぁ。うちのは随分と前から騎士やってんだが、手紙もくれんし心配でさぁ」
そんな会話が馬車の中を流れる。
「だから、お嬢ちゃん!忙しくても、元気だって事だけでもちゃーんと伝えるんだぞ。それが親孝行ってもんだ!」
「はいっ!わかりました!」
でもそれだけで親孝行になるんだろうか――リオネアは少し疑問に感じた。
そして馬車はカルメルへとたどり着いた。
「それじゃあなお嬢ちゃん!」
それぞれ手を振り別れる。
「んー……っと!早速お昼食べよっ」
王都まではもう半日。馬車に乗り継ぐ前に、リオネアは腹ごしらえしたかった。
カルメルは王都前の中継都市だけあって活気がある。故郷のノルディアとは大違いだ。
リオネアは肉を食べたい気分だったが、昼時ということもあってどこも満席。
肉の焼けるいい匂いをさせる店先を恨めしそうに睨みながら、手のひらくらいのチーズと一抱えのパンを買い、広場で食べることにした。
そしてお腹いっぱいになり、少しだけ眠い目をこすりながら、王都エメラン行きの乗り合い馬車に乗り込んだ。
定員いっぱいの馬車は、時折大きく揺れ、隣の人と肩がぶつかる。始めはぶつかるたびに謝っていたが、キリがないのでリオネアはそのうちただ馬車に身を任せた。そうして揺られているうちに、ウトウトと抱えた荷物にもたれかかり、とうとう眠ってしまった。
「お嬢さん!着きましたよ!」
肩をポンポンと叩く隣の人に、ビックリして飛び起きた。
少しだけよだれが口元についている。
「はっ!すみません!ありがとうございます!」
「疲れてたんだねぇ。急がなくていいから、ゆっくり降りなさい?」
すみません、すみません、と頭を下げながら、リオネアは馬車から降りた。
そしてまた目を見開いて驚く。
おおお!これが………王都――
見上げるほど大きな城門。カルメルとは比べ物にならない活気。そして――
「美味しそうな匂い…………」
リオネアは、宿の前に夕食を摂ることにした。




