19話 ローエンの過去
一行は半月以上に渡る依頼を終え、王都エメランに戻ってきた。
「それじゃミレイユ。完了報告をお願いできるかい?」
冒険者ギルドに着き、ローエンはミレイユに報告を任せた。
「わかりました~。ユーミルさ~ん………」
ミレイユは、仲のいい友人の元へでも行くかのように、ユーミルのいる受付へと向かった。
ミレイユの報告を眺めながら、リオネアはローエンに話しかける。
「……ローエンさん、あとカイルさんも。この後時間ってありますか?」
「……わかった。カイルも大丈夫だな?」
「ああ………」
リオネアの真剣な眼差しに、皮肉屋のカイルですら何も言わなかった。
一行は、近くの酒場に入った。
「すみません、お疲れのところ……どうしても、先に話しておかなくちゃいけないことがあって」
先に、というのは、ローエンとカイルのパーティ参加の返答のことだった。
「ミレイユはもう知ってるんですが……これは誰かに話して欲しくないので、あの……」
「わかった。カイルも問題ないな?」
「ああ」
リオネアは、自分が勇者として神から直接神託を賜っていること、魔物を退け、魔王を倒さないとならないことを、話した。
「……でもこれ、全然具体的じゃなくて……。とりあえず近隣の魔物討伐をしながら考えたいなと思っていて……」
「なるほど………………勇者か………………」
ローエンはあごひげを撫でながら、深く唸っている。
「そもそも、それ、本当に神なのか?」
カイルが訊く。
「創世神だと言ってました。場所も教会でないと声が聴こえなくて……」
「その話は一旦置こう。……で、その神は、魔王を倒せ、といったんだね?」
「はい……ん?いや、実際はもっと違う言葉だった気がしますが……」
「……ちゃんと聞いとけよ」
カイルは舌打ちをした。
「し、仕方ないじゃん!急に頭に声が聴こえるの慣れてないんだから!」
リオネアは腰を浮かせて大きな声を出した。
「まあまあ二人とも。…………しかし、そうなると余計、答えが出しにくいな……」
「…………よければですけど……その………話してもらえませんか?ローエンさんが引っかかっていること……」
ミレイユから、そうローエンに切り出す。
「…………そうだな。でもその前に……」
ローエンはウエイターを呼び、一番きつい酒を一つ注文した。
それを一気に飲み干し、ゆっくりと話し始めた。
「…………俺は、故郷の村を失ってる」
その話の切り出しに、一同が聞く覚悟を飲み込んだ。
「騎士団時代の話だ。魔物に襲われてな……。大規模な襲撃は当時珍しかった。俺が率いていた小隊もその討伐に充てられたが、俺だけは外されてた。俺がその村出身だったからな……」
ローエンは、別の酒を傾ける。
「…………そして、騎士団は村を守れなかった。俺の妻も、まだ幼かった娘も、俺は何もできず失った。……悔しかった。俺が意地でもその討伐隊に参加していれば……と」
「それは……ローエンさんのせいじゃ……」
「ありがとうリオネア。……今は俺もそう思ってる。俺一人が救えることなんて、ほんの小さなことだけだ。騎士団が守れなかったものは、俺がいても変わらなかっただろう……」
ミレイユが、ローエンの酒のお代わりを注文した。
それをローエンは受け取り、口にする。
「俺は喪失感と無力感で騎士団を辞めた。そして冒険者になった。俺にはそうするしか生活する手段がなかった。でも本当は……何もしたくないんだ。何も………殺したくないし……失いたくない………」
「…………でも……それでもローエンさんは……カイルさんや私たちの……面倒をみてくれました……」
ミレイユが、そう小さくローエンに言う。
「…………………」
「…………それはきっと……ローエンさんが諦めていないからだと……思います」
「………諦めているよ。俺には何もできない。だから、人を救いたい二人の願いも、世界を救う勇者の手助けも、断ろうとしている」
「……それは、違うと思います!だってローエンさんは、あんなに楽しそうに、私達とパーティ組んだとしたらって話をしていたじゃないですか!」
リオネアが、大きな声でローエンに迫る。その声にローエンも驚き、思わずリオネアを見やる。
「そ、それは………」
「違うとは言わせません!ローエンさんは、ただ気を遣って断らなかったんじゃないと思います!」
「………………」
ローエンは、ぐいと酒を飲み干す。
そして、黙り込んだ。
「…………ローエンさんは………本当は……罪滅ぼしを……したいだけなんじゃないですか?」
罪滅ぼし――ローエンは、ミレイユのその言葉を小さく口にした。
***
その後の事は、よく覚えていない。
ローエンは家に戻り、ベッドに横たわる。
さすがに飲み過ぎたのだろう。天井がグルグル回っていた。
しかし、ミレイユの言葉が、頭からは離れてくれなかった。
「罪滅ぼし………か………」
罪の意識があるわけではない。あれは仕方のないことだった、と納得しているつもりだ。
それならなぜ、俺はこんなにも未だ引きずっているのだろうか――。
火は消したはずだ。しかしまだチリチリと心の奥底でくすぶっているこれは何なのだろうか。
ふと、窓際に飾った妻と子供の描いた絵を見る。
その絵を、月明かりが照らしている。
まるで、ローエンに微笑みかけているかのようだった。
「赦して、くれるのか………?」
自然とローエンの口からそんな言葉が出る。
その自分の言葉を、自分の耳で聞いて理解した瞬間、ローエンは思わず笑ってしまった。
「あっはっはは…………俺は、赦してほしかったんだな……」
もう、済んだ話なのに。そもそも、誰も怒っていないのに。
ローエンは、静かに涙した。
酔っているのだろう。こんなにも情緒が不安定なのだから。
ローエンは、リオネアたちのパーティに参加することに決めた。




