16話 先輩パーティとの合流
――尊厳……尊厳ねぇ……
存在を否定されるのは、本当に辛い。だんだん卑屈になるのも分かる。
でも、あの難民は、なんだかそれとも違うように感じていた。
――これは……魔王を倒すだけで救われるのかな……
一抹の疑問を感じる。
それに、この『世界均衡値:-1』という表示……
これは一体何なのか?いつからあったのか?
しかし、マイナスってことは、世界は良くないことになっているのだろう。
魔物分布のタグを開く。
――うーん……確かに去年より少し濃くなったような……?
特にネグ=サリアと、その左右の山岳部あたりが、明確に濃くなっている。
魔王は、誕生はしているようだが、まだ具体的には存在していない。
これがどういうことなのか、創世神である俺にもよくわからなかった。
――あー!マニュアルじゃなくてヘルプが欲しい!
俺、神なのに。
*
リオネアとミレイユは、1日かけて徒歩で王都エメランへ戻った。
そして、翌日ギルドに依頼完遂報告をしに行った。
「あ、ミレイユさんにリオネアさん!お帰りなさい!」
「ただいま~!依頼の完遂報告をお願いします~」
「はい、それでは依頼書をお預かりします!…………はい、お疲れ様でした!こちらが報酬です」
電柵魔道具の代金も含めて、報酬は金貨1枚と、銀貨が5枚。
「ありがとうございます~」
「ありがとうございますっ!」
少しまとまったお金が入り、二人は安堵と喜びを噛みしめた。
「それでぇ~次の依頼なんですけど……魔物討伐依頼とかは、ありますか~?」
「え?魔物討伐ですか?ミレイユさんからそんな要望が出るなんて……何かあったんですか?」
受付嬢ユーミルは、すこし驚いた顔をする。
「国外の村で……魔物に襲われて廃村したと聞きまして……それに、リオネアも実戦がしたいと意気込んでいて……」
「あーそれで……」
リオネアは、ただのギルドへの報告なのにもかかわらず、ギルドマスターから借りた大剣を背負っていた。
「出来るだけ危険の少ないものがいいんですけどぉ……」
ユーミルは、手元の書類を確認する。
「うーん……そうですねぇ……Dランク相当の討伐依頼って、結構少ないんですよね……あるのは……ええと、Cランクの調査依頼ですが……これ正直あまりお勧めできませんね……場合によってはBランク以上の危険が伴いますし……」
「…………そうですかぁ……ありがとうございますぅ~。リオネアと相談してぇ、他の依頼にしますね」
「お力になれずすみません」
「いえいえ~!わがまま言ってるのはこっちなので~」
ミレイユは、リオネアのところに行き事情を説明した。
「うーん、残念……」
「まあまあ~、私たちがCランクまで上がれば~、討伐依頼も多くなるから~。ね?」
「そうだね!魔物から人を救うだけが、人助けじゃないし!」
リオネアは、気を取り直した。
そして、二人で良さそうな依頼を、ギルドボードから探す。
そんななか、ミレイユが声をかけられる。
「お、いつぞやの。ミレイユ、だったか?」
ギルドマスターに匹敵するほどの大男だ。ミレイユは彼を見上げる。
「わっ!ローエンさん~お久しぶりです~!あ、カイルさんも!」
「ども」
カイルは照れ臭そうに視線を外してそう挨拶する。
「…………どちらさん?」
リオネアはミレイユに小声で訊く。
「こちらは~私をDランクに上げてくれた人たちでぇ~……」
「ローエン・ブランフォードだ。よろしく」
「……カイル・フェルナー」
「私はリオネア。リオネア・アルヴェリアです!初めまして!」
「いまは~彼女とパーティを組んでるんです~」
ミレイユはにっこりとそう紹介した。
「そうか。強そうな剣士と組めて良かったな。それで?依頼の選定中か?」
ローエンは少しかがんでギルドボードを見る。
「そうなんですよ~。本当は~討伐依頼が良かったんですけどぉ、私達まだDまでしか受けられなくて~」
「ん?お嬢ちゃん……あ、いやリオネアはDランクなのか?」
「まだ、Eです……」
リオネアは恥ずかしそうに答えた。
「E?そんな立派な大剣背負ってか?てっきりBくらいかと……」
「でも~、多分C以上の実力はあると思いますよ~。騎士学校でも優秀でしたから~」
「えへへ……」
「騎士学校生か。実は俺も元騎士団だ」
「え~そうだったんですか~!知らなかった~……」
「もう10年以上前だがな。でもそうか……なら、俺らと組むか?それなら、Cまではなんとか受けられるだろう」
「え?ローエン!?こいつらと組むのか?」
カイルが嫌な顔をしていたが、ローエンは押しとおした。
「わ~ありがとうございます~!」
「なら、一緒に説明を受けようか。……リーダーはどっちだ?」
「いないです~。でも私のほうが先輩なので、依頼は私が~」
「そうか。じゃミレイユ、ついてきてくれ」
こうして、明後日からの依頼。エメラニア王国より北部――大陸中央地方への調査依頼を受注した。
「それじゃ、パーティの親睦も兼ねて、二人とも飲みに行かないか?」
「おいローエン!」
「いいじゃないかカイル。C依頼とはいえ、連携も確認したい。仲間を知らんと、戦えないぞ?」
「……………」
「ということで、どうかな?」
「ぜひ!ミレイユもいいよね!」
「もちろん~!」
一行は、酒場で親睦会をすることになった。
「じゃ改めて。俺はローエン・ブランフォード。Aランクだ。元剣士だが、基本的にはタンクを担当している。回復魔法も扱える。よろしくな」
とにかく体が大きく、居酒屋の椅子に腰が収まっているのが不思議なほどだった。濃い茶髪は白髪が少し混じり、短いあごひげはもみ上げまで繋がっていた。
「………カイル・フェルナー。Bランク。弓が主な担当だ。短剣を扱えるから、近接もいける」
こちらは細身だが、良く鍛えられている。青みがかった暗い髪色と、鋭い目つきは、人を寄せ付けない雰囲気がある。
「弓っ?」
リオネアは引っかかった。
「……なんか文句あるか?」
カイルが鋭い眼光でリオネアを見やる。
「え、いや!でも弓って……古風だなーって」
「……ふん、魔法だと狙撃がバレるだろうが」
「…………あ、そうなんだ~……」
「じ、じゃあ~一応私も自己紹介するね~。私はミレイユ・エーデリアです~。ランクはD。魔導士ですが~ご存じの通り遅いので……サポートしてもらえるとありがたいです……。一応~騎士学校で訓練積んだので~基礎体力と戦い方は~前よりはあると思います~」
「ほう、それは期待できるな。ミレイユの火力はBランクでも通用するレベルだ。頼んだよ」
「はい~!おねがいします~!」
「最後は私、リオネアです。リオネア・アルヴェリア、そろそろ17歳です!Eランクです!騎士学校で剣士を。ミレイユと一年で退学しちゃいましたが……。農村育ちなので、体力と力には自信があります!」
「あの大剣は、自前かい?」
「いえ、ギルマスから借りました!私に合う剣が無くって……」
「ほー!ギルマスから!すごいじゃないか」
「なんだ、筋肉バカか」
ミレイユは、リオネアからカチンという音を聞いた。
「……さっきから、何なんですか?私なにか気に障ることしましたかねぇ?」
ガタン、とリオネアは立ち上がった。
「まぁまぁリオネア落ち着いて。カイルさんはちょっと言葉が足りないだけよ~ねぇ?」
「すまないリオネア。カイルは人見知りなんだ。これでも仲間想いの良い奴なんだ。許してやってくれ」
「ま、まぁ初対面ですし?さすがに殴ったりはしませんけど?」
リオネアはプリプリと怒っている。
「……ふん、可愛げのない女だな」
ぼそりとカイルがつぶやいたのを、リオネアは聞き逃さなかった。
「なんだとー!そのうすら笑った口、二度と開けないようにしてやろうか!!」
リオネアが立ち上がり、カイルに掴みかかろうとした時だった。
ドン、と空の大きなジョッキがテーブルに力強く置かれる。
それは、ミレイユのだった。
「おふたりさ~ん!お静かに願いやがれます~?せっかくの楽しいお酒が~台無しじゃあないですか~」
「ひっ………」
リオネアは、そのミレイユの殺意のこもった目に、思わず小さく悲鳴を上げる。
「分かりましたか~?わ~か~り~ま~し~た~か~~って聞いてるんですけど~!!」
「はいっ!!」
「……ちっ」
「分かればいいのよ~」
ミレイユは笑顔で席に座った。
その目も、完全に座っていた――。




