13話 極上の体験を――イデアス・エーデリアホテル
一行は多彩な街イデアスに到着した。
「うわぁ!いろんな色の家が並んでる!!」
リオネアが驚くのも無理はなかった。多彩な街、というだけあり、イデアスは芸術を中心に、エメラニア王国の北にある都市国家諸国と交易が盛んな、色んな文化が入り混じった街だった。
「それに見たこと無い食べ物ばっか!おじさん!これは何ですか?」
リオネアは早速、屋台に吸い込まれていった。
「これはコロックだ。芋とコマ切れの肉を固めて揚げた料理さ!美味しいぜ!」
「じゃ3つ!」
まいど!と店主からコロックを受け取り、荷馬車へ戻ってくる。
「リオネア~仕事中だよ~」
「ごめんごめん!はい!コロックだって!ブライアン君もどうぞ!」
「あ、ありがとうございます!」
三人はコロックを頬張りながら、街の中心へと向かった。
「はい、到着です!護衛お疲れまでした!これが……報酬となります!一応中身を確認してください」
ブライアンはミレイユに包みを渡す。
「ありがとうございます~!ええと…………はい、確かに銀貨15枚、いただきました~」
「それと、確かお二人は別の依頼も控えてるんでしたよね?」
「あ、そうだった!」
リオネアはすっかり忘れていたことに今更気が付く。
「そうなの~!野犬用に~電柵魔道具をここで買い付けなくちゃいけなくてぇ」
本当は昨日のうちに依頼主の農場を確認しておきたかったが、それどころではなかった。
「それなら、取引先に伝手があります。一緒に行きましょうか?」
「わ~助かりますぅ!」
リオネアとミレイユは、ブライアンに連れられて魔道具店へと向かった。
ブライアンが案内したのは、魔道具店の中でも、農機具専門店のようだ。
「へー!こんな専門的な店もあるんだー!あ、これミックさん家にあるのと同じやつ!」
リオネアは興味津々に店内を見ている。
「イデアスは、西に酪農地帯ローデル地方、南に農業地帯のエスタ平原地方がありますからね。こういう専門的なものが揃うんですよ」
さすが商人ブライアン。大人顔負けの知識だった。
「それで、これが電柵魔道具です。どれくらい必要なんですか?」
「えっとね~……依頼書には、200m四方の牧場って書いてあるわ~」
「200m四方……結構な量になりますね……そうだ!よければ一緒にハイラントに行きませんか?僕もイデアスで買い付けてから、またアルデハルンに戻る予定です。荷台も余裕がありますし!……安くしていおきますよ?」
「ブライアン君~商売上手~!それなら、お願いししよっかな~」
「まいど!」
こうして、電柵を買い付けて店に取り置いてもらい、ブライアンの積荷を卸した後、引き取ることとなった。
「いくよ~リオネア~」
リオネアは、その間ずっと農機具をまじまじと見学していた。
「さて~晩御飯!ばんごはん~!」
リオネアはご機嫌だった。農機具が好きなのかもしれない。
「その前に~宿を押さえないと~……」
ミレイユはきょろきょろと宿を探す。
「あ、あそこいいんじゃない?きれいだし、なんかすごく立派!」
「え~?でもすごく高そうだよ~」
「いっぱいお金入ったんでしょ?ミレイユも昨日は夜通しだったし、ご褒美ご褒美!」
「ま、まぁ、見るだけなら……」
そして二人は、その立派な宿まで行ってみることにした。
「あれ……?イデアス、エーデリアホテル……これ、もしかして」
「………うん。うちのホテルみたい……」
そのホテルは、ミレイユの苗字を冠したホテル。つまり実家の稼業の系列宿だった。
「いらっしゃいませ。当ホテルをご利よ………ミレイユ!?」
「マ、マリエルお姉さま!!」
宿の外で馬車番をしていたのは、ミレイユの姉マリエルだった。
「あなた!いままでどこ行ってたのよ!みんな心配してたんだからっ!」
「ごめんなさい……私は……」
「まぁまぁ!落ち着きましょう?マリエルさん!初めまして!私はリオネアっていいます!あ、あー立ち話もなんなんで、どこかで座って話すのがいいんじゃないですか?ね?」
腰に手をあてるマリエルと、肩を丸め小さくなるミレイユの間に入り、リオネアはそう促した。
ふん、と小さく鼻息を漏らすマリエルは、ホテルのロビーへ案内した。
「それで?騎士学校は退学したのよね?どうして戻ってこなかったの?」
マリエルは、先ほどよりもトーンを落とし、優しくミレイユに問いかける。
「実家に戻っても……私きっと役に立てないわ~……それに、魔導士の夢も諦めたくなかったの……だから今はこうして~……リオネアと冒険者を……」
「そ。それがあなたのやりたいことなの?」
「うん………」
「なら仕方ないわね!頑張りなさい!お父様には私から上手く言っておくわ!」
「……………え?いいの~?」
「あなたが自分からやりたいことを決めたのは、これが初めてでしょ?魔導士、頑張りなさい!」
「マ、マリエルお姉さまぁぁ~」
「わわ!いい歳して泣きつかないで!もう、仕方ない娘ね~…………。リオネアさん、といったわね?」
「はいっ!」
急に呼ばれて、背筋がピンと伸びる。
「こんな妹だけれど、支えてあげて頂戴ね?」
「はい!支えられてるのは、私のほうですが……」
「あ、そうだ!もう宿は取ったのかしら?もしよければ、うちを使って頂戴な!今日はまだ部屋の空きもあるし!」
「え、いいんですか!?」
リオネアは前かがみになる。
「もちろん夕朝食つき!部屋にお風呂もあるわよ!なんせエーデリアホテルですもの!」
「ぜひお願いします!!!」
「では2名様ご案内~!………いいわねミレイユ。実家の為に、しっかりエーデリアホテルの噂を各地に広めて頂戴。冒険者なんだから」
マリエルはそうミレイユに耳打ちした。
部屋は天井が高く、ベッドも大きくふかふか。床は木ではなく絨毯が敷かれ、別部屋にバスタブとシャワーが備えてあった。
「お貴族の部屋じゃーん!すごいすごい!え、ミレイユはいっつもこんな部屋で暮らしてたの?」
「さすがにだよ~……あ、でもお風呂はあったかな~……」
「貴族じゃん!いいなー!うちの実家なんて、水浴びしか出来なかったよぉ!……ちなみに、ここっていくらくらいなの?」
実家を思い出したせいか、急にここの宿泊費が気になった。
「このホテルは一人銀貨6枚だそうよ~」
「うっわ!え、エメランで泊ってた宿の……えと……12倍!?」
「そのくらいね~」
リオネアは卒倒するようにベッドに倒れこんだ。
「そりゃ豪華だわー……私、冒険者として一杯稼いで、ここに住みたい……」
リオネアの目的が変わりそうになるほど、エーデリアホテルは素晴らしいところだった。
しばらくして、部屋に食事が届く。
吹けば崩れそうなほど柔らかく煮込まれた肉、花のように美しいピンク色に皮目が焼かれた魚、宝石のようにテーブルを彩る野菜や果物、まるで雲を焼いたかのようにふっくらしたパン、その全てがテーブルに並び、リオネアは眩暈がした。
「………これが、天国」
その言葉を最後に、リオネアは何度も気を失いそうになりながらも、無心で食事に没頭した。
「ふーー!とうとう食べ終わっちゃったー………もっと天国にいたかったなー」
リオネアは大満足でベットに横になる。
「もー行儀が悪いですよ~リオネア~」
「ミレイユは私のお母さんかっ!」
そんな談笑をしていると、コンコンコン、とノック音が聴こえた。
「どうぞぉ~」
現れたのは、マリエルだった。
「当ホテルのお食事はいかがでしたでしょうか?」
「天国でした!!できれば住みたいです!」
リオネアは率直に答えた。
「うふふ!それは良かったわ!ところで、リオネアさん、少しお話できるかしら?」
「……そしたら私は~その間にお風呂いただきますね~」
ミレイユは、気を使って席を外した。
「その……リオネアさん。ミレイユは上手くやれてるでしょうか?」
マリエルは、真剣な眼差しでそうリオネアに訊く。
「え?とてもしっかり者で、魔法も人一倍大きいの出せますし、いつも助けられてばっかですよ?」
リオネアは、きょとんとした顔でそう答える。
「あの娘はいつもおっとりしていて、何をするにも人一倍時間がかかって……もう26歳だというのに、親に心配かけて、何を考えているかいまいちよくわからなくて……」
「確かにーあまりしゃべるの得意そうではないですよね、ミレイユ」
「そうなのよ……きっと自分を出すことが苦手なんでしょうね……私もお母様も、はっきり物を言うほうだから」
「でも、昨日なんかは、一人で夜、盗賊を捕まえていましたよ?」
「え!?そうなんですか!?あの娘がそんなことを!?」
「私は寝てたから見てないですけど、剣を持った男二人に、こうババっと!きっと魔法も使わなかったんじゃないですかね?魔導士は接近に弱いですから」
「………想像もつかないわ。あの娘がそんな芸当を……」
「だから、心配しなくていいんじゃないですか?手紙はちゃんと書くように私からも言いますし……あ、そういえば私も実家に書いてなかった!」
「うふふ……ちゃんと書いてあげて?心配しちゃうから」
マリエルは安心した顔で部屋を後にした。
そして、リオネアも風呂に入った後で、二人で実家に手紙を書くことにした。




