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12話 ミレイユの盗賊退治

 荷馬車はガチョンガチョンと、なんとも間の抜けた音を立てながら、放牧地を抜け、河川敷の草原の中をひた走っていた。



「……それにしても、リオネアさんてすごく力持ちなんですね!」

 ブライアンが荷馬車を操りながら、そう後方のリオネアに話かかける。


「農村育ちですからね!これくらいどーってことないですよ!」

 リオネアはいつにも増して自慢げだった。


「リオネアは~騎士学校でもすごかったんだよ~!二人分の荷物と男の人一人担いで森の中2日も歩いたり~」


「えっ!?そんなことまで……いやー僕にはどう頑張っても無理ですよー」


「大丈夫!鍛えればブライアン君も荷馬車を持ち上げられるようになるっ!」


 ならないよ~、とミレイユは心の中で突っ込んだ。



 ***



 一行は陽が暮れてから、中継都市であるハイラントに到着した。


「それでは、積荷の警護お願いします……」


 ブライアンは宿へと入っていった。


「それじゃあ、私も先に休むけど……本当に一人で大丈夫?」

 見守りは交代で行うつもりだったが、荷馬車をひっくり返したリオネアを気遣って、ミレイユが夜通しで受け持つといって聞かなかった。


「大丈夫だよ~!これでもDランク魔導士だよぉ?その代わり明日馬車で寝るから~、リオネアはしっかり休んで~」


「…………わかった。それじゃあ気をつけて!」


 リオネアはすぐ近くの宿へ入っていった。


「ふぅ……なんだか一人は久しぶりねぇ……」

 ミレイユは路地裏に停めた馬車の上で、街のにぎやかな大通りを眺めた。


 こうしていると、故郷のメイナにいた頃を思い出す。

 当時はリオネアと大して変わらない歳だった。

 料理もベッドメイキングも手際よく出来ないミレイユは、実家の宿の前で、大通りを眺めながらだたひたすら宿泊客を乗せた馬車を待つ日々。あの頃は、ただ漠然とした魔導士になりたいという夢と、目の前の仕事すら出来ない不安の中にいたせいか、馬車を待っている間の、目の前がただキラキラと動いていく街の光を見るのが好きだった。

 そして、それは今も変わらず、それを眺めている安心感。


 でもそれは、自分がなにも変わっていない証なのかもしれない。


 そんな中、一人の少年が、こちらを見ていた。


「………どうしたの~?迷子かなぁ?」


 少年は、こくりと頷く。

 よく見ると服が泥だらけだった。ミレイユはそれを丁寧に払い、手を繋いで親を探した。


「どこかな~……あっ!」


 しばらく探した後で、少年は急に走っていってしまった。

 そして宿の中へと入っていってしまった。


「………あそこがお家なのかな~?それとも泊ってる宿なのかな?」


 いずれにしても、しばらく出て来ない様子を見ると、もう安心のようだ。

 ミレイユは荷馬車に戻ることにした。


 しかし――


 停まっていたはずの荷馬車が、そこには無かった。



 ***


 ミレイユは、急いで馬車の跡を追った。


「はぁ、はぁ……お願い!間に合って!」


 荷馬車とはいえ、積荷が重いのでそれほど速くはない。それに壊れかけている。間に合う。全体間に合うはず――ミレイユはそう願いながら跡を追った。


 そして――


「はぁ……はぁ……はぁ……い、いたっ!」


 街はずれの小さな道を、見慣れた荷馬車がガチョンガチョンと音を立てて走っている。

 間違いない、あの荷馬車だ。


 ミレイユは、小さなファイアボールを唱える。そして荷馬車の進行方向に放った。


 ドンと小さな音がし、ヒヒーンと馬のいななきが聞こえる。牽制は成功した。


 ミレイユは走って現場に向かった。



 荷馬車には、40代の男性と、リオネアくらいの年齢の男性が乗っていた。


「返して………もらえませんか………荷馬車……」

 息も絶え絶えに、ミレイユはそう彼らに言う。


「クソッ!し、しかたねぇ!やるぞ!」

 老けてる方の男性が、そう青年に指示をする。


「で、でも父さん……!」

 え?父さん――?


「つ、捕まったら終わりだ!積荷は剣だ!ほらっ!受け取れっ!」

 父と思わしき人物は、青年に剣を投げ渡す。

 そして震えながら、二人はミレイユに構えた。


「わ、悪いな姉ちゃん……俺らも生きていかなきゃならねぇ……」

 そう恐る恐る剣を構える父親。


「わ、私は!騎士学校出身の魔導士ですっ!あなた方のような素人が敵う相手では、あ、ありません!抵抗しないなら、危害は加えませんから!どうか剣を……」


 そうミレイユも震えながら言ったものの、彼らも引くに引けないのだろう。謝りながら、父親が切りかかってきた。


 ミレイユは、その剣をかわし、相手の勢いを使って当て身をした。騎士学校で習った初歩的な防衛体術が、こんな形で活きるとは、ミレイユも思ってもみなかった。


 父親は剣を落とし、地面に転げる。ミレイユは剣を奪い、彼の方へ向けた。


「と、父さん!!!」

 息子は剣を持ったまま、父を心配している。


「動かないで……」


「ど、どうか見逃してくれ……荷馬車は返す………俺らは……こうでもしなきゃ生きていけなかっただ………」


「どうして……」

 そうミレイユが言いかけたとき、道の向こうから小さな人影が見えた。


 それは、先ほど送り届けた迷子の男の子だった。


「く、くるな!バスティン!」


 男の子は立ち止まる。そして大きい方の息子が介抱した。


「こんな小さな子まで使って………は、恥ずかしくないんですかっ!!」


 ミレイユは激怒した。自分でもびっくりなほどに。


「俺だって!!こんなことしたくねぇ!!でも、もう村はねぇ!仕事もねぇ!でも守らんといけねぇ家族がいるっ!!…………どうすりゃいいんだよ……なぁ!」


 ミレイユは、答えられないかった。


「………殺すのか?ならせめて……息子たちだけでも見逃しちゃくれねぇか?………頼む………頼むから………」

「父さん!」

「お父ちゃん!」


「いえ…………殺しは………」



 長い沈黙の後――



 ミレイユは、三人を憲兵に引き渡した。



 ***



「すみませんでしたっ!」

 ミレイユは、朝一番でブライアンに謝罪した。


「いえいえ!そのための護衛でしたので、取り返してくれて助かりました!……僕たちにとって、この商品は死活問題でしたから」

 ブライアンは、愛おしそうに武器を撫でる。


「でも良かった!ミレイユが無事でさ!」

 リオネアは笑顔でそう言ってくれた。



 そして一行は、イデアスに向けて出発する。

 少しだけ酷くなった荷馬車の異音については、誰も触れなかった。


「ミレイユ………寝ないの?」

 リオネアがそう心配そうに声をかける。


「うん………ちょっとねぇ……」


「昨日の事?もしよかったら、話聞こうか?」


「うん………そうだね………」


 ミレイユは、昨日の出来事と、そこで言われたこと、そして結局は見逃すことを恐れて、憲兵に引き渡したことを話した。


「私ね……また自分で決められなかった……見逃してあげたいって思ってても、憲兵さんに委ねちゃった……」

 ミレイユは、荷馬車の中で小さくうずくまる。その姿はまるで少女のようだった。


「決めたじゃない……憲兵に引き渡すって」


「でも、それが正しかったのかなぁ……」


「間違いじゃ、なかったんじゃない?」


 間違い、ではない。でも正しかったのだろうか――リオネアは、眠ってしまったミレイユを優しい目で見守りながら、グルグルとそのことを考えていた。

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