11話 ひっくり返った荷馬車って起こせるんですね
「やった!EだよEランク!ねぇ見て見てミレイユっ!」
リオネアはEランクになったギルドカードを自慢げにミレイユに見せる。大はしゃぎだ。
「うんうん!頑張ってたもんね~!」
これ以上ないといったリオネアの笑顔に、ミレイユは自分の事のように嬉しくなる。
「じゃあさ!じゃあさ!Dランクの依頼も受けられるって事だよね!」
「受けられるけど~……まだEランクになりたてだからねぇ~……まずはEランクの依頼にしておこう?」
リオネアははやる気持ちを抑えられず、ちょっとむくれる。
「むー………わかった。Eランクにする……」
ミレイユはユーミルに次の依頼について相談することにした。
他の冒険者は自分でギルドボードから探して持ってくるのだが、ミレイユはいつもユーミルに相談し、斡旋してもらった仕事を受けていた。
「そうですねー……リオネアさんは戦闘も問題ないんでしたら、Dランクで出そうか迷ってたこちらのEランク、護衛任務はどうでしょう?」
「護衛ですか~……危険ではないですかぁ?」
「行程は、ここ王都エメランから多彩な街イデアスまでとなってます。ハイラントで一泊する形で、その間の積荷護衛も含んでいますね。往復三泊四日です」
「宿泊中の護衛もですか~……一体積荷はどんな……」
「武具、のようですね。危険物扱いなので、護衛が必須の積荷です」
国外に出る護衛では無いから、魔物の襲撃は無いと考えてよさそうだった。万が一の野党対策がこの依頼の主となりそうだ。
「ちなみにぃ、イデアス方面からの帰りにこなせそうな依頼は~」
「ミレイユさんは相変わらず賢いですねー!ご用意していますよ!」
提案されたのは、ハイラントでの野犬対策依頼だ。イデアスで雷魔法を施した魔道具電柵を購入し、設置まで請け負うといった内容だ。
「護衛任務は護衛が完了した現地で直接清算してもらえますから、そのお金で電柵を買うといいと思いますよ!ハイラントで宿泊中に下見して、サイズを確認出来ればなおいいかと!」
「いつもありがとうございます~!じゃあ、それで~」
ミレイユは深々と頭を下げた。
「リオネア~次の依頼決まったよぉ~」
リオネアは、飛んで喜んだ――。
翌々日、リオネアとミレイユは、護衛任務の依頼主に逢った。
「初めまして。ブライアン・フェルナーといいます。今回が護衛依頼を受けてくださり、ありがとうございます!」
ブライアン・フェルナー。リオネアよりも年下のように感じる。まだ幼さの残る顔立ちは、美形そのものだった。そして、丁寧な口調。きっと育ちが良いのだろう。
(……ちょっとミレイユ。依頼主、めっちゃ可愛くない?)
(まだ子供みたいだけど……偉いわよねぇ……)
何やら小声で話すお姉さん方に、あはは――とブライアンは戸惑い笑う。
「あの……それでは出発します。護衛よろしくお願いしますね!」
こうして一行は、イデアスへと向かった。
*
――ちょっとちょっと!え?リオネアちゃん、ブライアンのこと満更でもなさそうじゃん!
これは由々しき事態だ。うちの可愛いリオネアが、どこぞの馬の骨ともわからん半ショタに取られてしまいかねん。
なにか対策を講じなければ。
*
一行は、半日かけて中継地であるハイラントへ向う。
「あーそれでリオネアさんは冒険者に!でもよく決断しましたね?騎士学校も大変な倍率だと聞きます」
「そうなんだけどねー。でもやっぱり自分の事だから、自分が納得できないとダメっていうか」
リオネアとブライアンは世間話をする。商人だけあって、聞き上手だ。
「ミレイユさんは、メイナ出身でしたね?僕は行ったことが無いんですが、どんな街ですか?」
「温泉と宿が有名で~、川のほとりがとても美しい街よぉ~」
うふふ~、あははーと、牛の放牧地に沿った街道を、とても和やかに三人は進む。
*
――ぐぬぬ、なんだかとてもいい雰囲気。
まさか、ミレイユまでもなのか?これはとても危険な存在だ。
しかし、直接排除できるわけではない。そんな力は、創世神には持ち合わせていない。
俺はマニュアルを読み込んだ。
――ん?
どうやら、動物などの理性の無い存在には、『介入ボタン』で知覚させることは可能らしい。
――なるほど。つまり、動物を使って間接的に何かをすることは、可能だと。
俺とリオネアの恋路は、邪魔させん!
俺は介入ボタンを押した。
すると、小さな光の玉のようなものが、今までの視点上に現れた。
それを、牛たちだけが気になっているようだ。
――そういう感じね。
上手く光を操作し、放牧されている牛を挑発した。
そして――
*
「……え!?うわっ!!」
ブライアンが驚きの声をあげる。
放牧地にいた牛が急に暴れ出し、こちらに突進してくるではないか。
ブライアンは回避しようと馬車馬を走らせようとする。しかし馬もそれに驚いてしまい、立ち上がる。
「ブライアンっ!!!」
キャーというミレイユの叫び声が聞こえる。
リオネアは、咄嗟にブライアンをひょいと荷馬車からつまみ上げ、抱きかかえるように横跳びする。
ドガッシャーン!と大きな音を立てて、荷馬車はひっくり返った。
暴れ牛は、しばらく荷馬車を頭で小突いていたが、興味が無くなったのか、何事も無く去っていった。
「あ、ありがとうございます……リオネアさん……あ、あの、もう大丈夫ですので、その……」
ブライアンは、豊満なリオネアの胸に押しつぶされ、顔を真っ赤にしていた。
「ああ、ごめんね!」
リオネアはすぐにブライアンを解放した。
「大丈夫~!?」
ミレイユが駆けつける。
「大丈夫大丈夫!…………でもないかも」
一同は、ひっくり返って車輪の取れた荷馬車を、唖然と眺めた――。
*
――うわっ!ごめんごめん!そんなつもりじゃ!
ちょっとブライアンを驚かす程度のつもりが、随分な大惨事になってしまった。
――はぁ、申し訳ないことをしたなぁ……これじゃ、リオネアに迷惑かけてしまった……。
なんだか生前の、好きな娘に悪戯して結局嫌われていった子供の頃を思い出して、鬱々とする。
――まだまだガキなんだなぁ……俺は……。
そんな反省を、まさか創世神になってまで感じるとは、情けなかった。
*
「よし、と。とりあえず外れた部品はコレで全部のようですね」
ブライアンは、荷馬車と共に転んで動けない馬を外し、辺りに散らばった荷馬車の部品を回収した。
「……どう?直りそう?」
リオネアは心配そうにブライアンの横に並ぶ。
「辛うじて、割れた部品は無いようですので、車輪さえつけれればなんとか……それよりも、荷馬車を起こす方が問題かもしれません……」
積荷である武器を乗せたまま横たわる荷馬車。下手に武器を下ろそうとすると大けがをしそうだった。
「………うーん、なんとかなるかも。まずは直そうか馬車」
三人は、拾った部品を見よう見まねで取り付けた。
「……くっ!!このっ……車輪……全然、はまらない……っ!」
ブライアンは、外れた車輪を試みた。しかし、反対側のようにしっかり奥まで入っていかない。
「あっ!ブライアン君~!その留め金~!少し出っ張ってて~引っかかってるみたい~」
ミレイユが、上手くはまらない原因を見つけ、ブライアンに教える。
「え?あー本当だ!どおりで入らないはずですね!ありがとうございます!ミレイユさん!」
うふふ~、とミレイユは頬に手を当て笑みをこぼす。
「よっし!何とか組みあがりましたが……リオネアさん、なんとかなりそうって一体……」
「こう、いう、こと!!!!」
リオネアは、ガニ股で深くしゃがみ込み、全身の筋肉を使って、軽く何百キロもある積荷付きの荷馬車を、ひっくり返えそうとする。
「えー!?それはさすがに無理じゃ…………あっ……」
ぐぐぐっ、と荷馬車が傾き始める。
「は……な……れて……て……!」
リオネアは、一斉に力を込め、一気に荷馬車をひっくり返す。
ドーンと大きな音がし、着地した車輪が半分ほど土に埋まる。
「……………うわぁ」
ブライアンは、思わず引いてしまった。
しかし、これならまた走ることができる。リオネアとミレイユに丁寧にお礼を伝えた。




