10話 とにかく草をむしるのだ
リオネアとミレイユは、早速パーティ登録も済ませる。
「それでは明日からの活動、頑張ってくださいね!」
ユーミルに見送られ、二人は冒険者ギルドを後にした。
「………宿、どうしよっか。今日の分すらお金ないや……」
「そうだったねぇ……しばらくは私が出すからぁ~後でちゃんと返してねぇ~」
「ありがとうございます………私にとってはミレイユが神様だよ……」
「もう、調子がいいんだからぁ……あ~そうだぁ!教会に行かないと~」
ミレイユは、珍しく自分から行きたいところを申し出た。
「教会?なにしに?」
「もちろんお祈りだよぉ~。これから二人で冒険者するんだから、報告しておかないと~」
そういうものなのか、とリオネアはミレイユの信心深さに感心する。神様なんて、なにか困った時にお願いする場くらいにしか思っていなかった。
「それじゃ、教会にいこう!」
二人は教会へ向かうことにした。
リオネアは、ここに来るのは二度目だった。
前に来たのは、騎士学校入学試験前だった。そこでミレイユに会って、勇者神託も受けてしまった。
少し前のことなのに、随分懐かしく感じる。
そしてミレイユは最前で跪いて祈りを捧げる。
その横で、リオネアも祈りを捧げた。
*
すると、目の前の青い介入ボタンが、前回ののように光る。
――さて、来たぞー介入!今日はちゃんと魔王を倒せって伝えないと。
俺はそのバカみたいに大きな青いキノコボタンを押した。
*
――リオネア・アルヴェリアよ。魔物を圧倒し、魔王の復活を止めるのだ。
「……?魔王の復活?それは一体…………」
リオネアは訊いたが、答えてはくれなかった。
ミレイユが、隣で不思議そうにリオネアを見た。
「……どうしたの?」
「いや……魔王の復活を止めろって…………あっ!このことは内緒ね!後で説明するから!」
リオネアは、シスターをチラリとみる。シスターはにっこりこちらを見ていた。
「ささ、とりあえず出ましょう!」
何がなんだか分からないまま、ミレイユはリオネアに押されて教会を後にする。
「…………一体どうしたのぉ~リオネア~」
困った顔を浮かべるミレイユ。
「えっとね……実は、ミレイユに初めて会った時に……」
リオネアは勇者神託を受けた時のことを、思い出せる限り説明した。
「え~~~!それって、ちゃんと教会の人に話した方が良いんじゃない~!」
「いやでもほら、なんか怖いじゃん?大事にしたくないっていうか……」
「十分大事だよぉ~!」
「それに、神様もなんか曖昧っていうか、具体的にどうしろって言わないしさ……なんとなく、私が目指すところに、神託があるのかなーって」
「ん~……リオネアは人助けをしたいんだったよねぇ……魔王の復活を止めるのもぉ、確かに人助けかもしれないけど~……」
「なんかさ、これをさ、教会に話して、また騎士団に入れられるのもさ、違うと思うんだよね……おとぎ話の勇者はさ、そんな大人数で世界を救わないじゃん?」
「だけどぉ~……」
「とりあえずさ、私は私なりにやってみるよ!」
「……………うん、わかった。私もパーティの一員だから、お供するよ~」
「ミレイユ~~~~!!」
リオネアはミレイユを抱きしめて、子供のように頭を撫でた。
*
――ミレイユは優しい娘だな~!
そして、実際、創世神である俺も、この先何をすれば良いのか全く分からない。
魔王が生まれると踏んでいるネグ=サリアを拡大しても、魔王らしき存在は確認できていない。
だから、今はリオネアの判断に委ねるしかなかった。
――どうにかして、魔王を倒してくれっ!
*
翌日から、二人の冒険者生活は始まった。
「まずは~リオネアのギルドランク上げを目指して~」
「え!なになに?魔物倒しに行く?」
「薬草採集です~」
それはそうだった。魔物との会敵がメインになるような依頼は、Dランク以上。ミレイユのみなら受けられるが、パーティとなればメンバーのランク平均値までしか受けられない。つまりFとDの間――Eまでだ。
「薬草かぁ……私に出来るかなぁ……」
「私が教えるから~、大丈夫だよー!それじゃあ、受注して、一度準備に宿に戻るね!」
ミレイユはそそくさと受注し、一度宿に戻っていった。
そして――
「ミレイユ………その恰好………」
竹で編んだ背籠に、日差し防止のほっかむり。足首を細くまとめたもんぺ――。
「……………実家のお母さんと同じ格好だ………」
「これが一番採集には向いてるのぉ~。リオネアのも今度買おうね~」
これがホテル王の娘――そう考えると、なんとも言えない気持ちになった。
二人は王都エメランの国境を越え、北を流れる川の対岸の林で採集を行う。
「森なら、王都の外れにもあったと思うけど……?」
「ふっふっふ……リオネアは甘いなぁ~。人が多いところは~、薬草も取られちゃってるんだよぉ。だから冒険者特権の~国外に出たほうがぁ、大きくてたくさんの薬草が取れるの~」
「なるほど!勉強になります!ミレイユ先生!」
「えへへ~」
さすが数年間これを生業にしていただけのことはある。ミレイユは薬草の生えそうな場所の見当もついていて、しかも見分けるのが上手だった。
二人は、黙々と野草をむしり、薬草を背籠に摘んでいった。
そして日も暮れ始め、ミレイユは額の汗をぬぐいながらリオネアに声をかけた。
「ふぅ~……リオネアぁ~……そろそろ戻りましょうか~」
はーい!と少し遠くから聞こえ、少し経って戻ってきた。
「よしよし!一杯採れたね~!」
リオネアは得意げに背籠を背負い直した。
そして陽が落ち切る前に、ギルドに戻った。
「ユーミルさん~お願いします~」
「薬草採集依頼ですね!確認しますから、しばらくお待ちくださいね!」
二人はロビーのベンチに座って待つことにした。
そして少し経って、ユーミルが受付に戻り、ミレイユが呼ばれる。
リオネアもその後にくっついていく。
「こちらの背籠の薬草はおよそ5kg。こちらの背籠は薬草が3kgでした」
同じくらい背籠にはいっぱいだったが、リオネアの背籠は薬草の割合が少なかったようだ。きっと野草と見誤ったのだろう。
「それでこちらが報酬となります。お納めください」
銀貨1枚と銅貨6枚をミレイユは受け取った。
「ありがとうございます~」
二人はギルドを去った。
「一日薬草探して、ミレイユは銀貨1枚、私は銅貨6枚かぁ……これじゃ、夕食の食事代にもならないよ……」
「私は銀貨1枚で宿と朝食代にはなるけど~……リオネアは食べるもんねぇ……」
「ごめんなさい!ミレイユ!しばらくお世話になりますっ!」
「わかってるよ~。きっとDランクまで行けばぁ、リオネアの方が稼げるだろうし~」
ありがとうございます!と、リオネアは深々と頭を下げた。
そして翌日も、とにかく薬草をむしる。
むしる。
むしる!
ミレイユ曰く、薬草採りが一番安定して稼げるとのことだ。確かに、人探しや飼い猫探しは、見つけられないリスクがある。遠方への買い付け依頼も、それ単体ではあまり旨味がない。
だから、とにかくむしった。
そして2ヶ月。
とうとう実家の母親と同じ服装となったリオネアだったが、ミレイユのアドバイスの甲斐あり、彼女の選別精度は上がり、背籠も三倍の大きさになった。そしてこの量を問題なく運べるのはリオネアの強みだった。
これでようやく、大食いのリオネアでも1日の薬草採集でその日の生活を賄うことが出来るようになっていった。
そして、その数日後。
頑張って草をむしった甲斐あって、リオネアのギルドランクはFからEへと昇格した。




