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第7話:涙の隠し包丁

【夜・焼肉店『たまらんや』店内】 (前回の気まずい空気から数日。店内の活気とは裏腹に、カウンターの隅だけは重苦しい空気が漂っている。りむは、先輩に背を向けたまま、無心でミノに包丁を入れている)


りむ(心の声:……全然集中できない。いつもなら1ミリ単位で入れられる隠し包丁が、今日はガタガタ……。先輩、まだあーしのこと怒ってんのかな……)


(カランコロン、と鈴が鳴る。入ってきたミノ先輩は、いつになく真剣な表情をしていた)


ミノ先輩「……りむ。少し、いいか」


りむ「……あ、先輩。……うぃっす。今日もミノ? それとも、あの『共同設計者』さんと美味しいフレンチでも行けばよかったじゃん」


ミノ先輩「……。……今日は、君に伝えておくべき大事な話があって来たんだ」


りむ(心の声:……っ! きた。これ絶対『もう店に来ない』とか『結婚する』とか、そういうフラグじゃん! やだ、聞きたくない……!)


りむ「……あ、ちょっと待って! 話聞く前に、これ食べて。今日一の、とっておき。これが焼けるまで、喋るの禁止だから!」


(りむは、震える手で自分が仕込んだばかりの「涙の隠し包丁ミノ」を網に乗せる。動揺のせいで、トングを持つ手が少し泳いでいる)


ミノ先輩「……りむ。トングが震えているぞ。……貸せ」


(先輩が、カウンター越しにりむの手を上から包み込むようにして、ブラックトングを握り直させる。1年通い詰めて初めて、指先以外の体温が直接触れ合う)


りむ「……っ。な、なによ……」


ミノ先輩「……君がこの1年、どれだけの想いでこのミノに包丁を入れてきたか。……私は誰よりも知っている。……だから、逃げずに聞いてくれ」


りむ「……。……なに。言うなら早く言ってよ」


ミノ先輩「……実は、私の設計したビルが、もうすぐ近くで着工する。……そのビルの1階に、理想の飲食店スペースを作った。……そこで」


りむ「……そこで……?」


ミノ先輩「……いや。この話は、このミノが最高に美味く焼けてからだ。……集中しろ。焦がしたら、話さないぞ」


りむ「……なによそれ! 焦らすとかマジ性格悪いし! ……でも、絶対焦がさないからね。あーしの意地、見せてやるし!」

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