第3話:ミノより固い男の口
【夜・焼肉店『たまらんや』店内】 (開店直後、客足もまばらな店内。入り口の鈴が鳴り、昨日と同じロングコートの男が入ってくる)
りむ「あ、……ホントに来た。いらっしゃい。今日も昨日と同じ、隅っこのカウンターでいいわけ?」
ミノ先輩「……ああ。ここが一番、空調の風が網の温度に干渉しない。……昨日と同じミノを。今日はタレではなく『塩』で素材の限界を確かめたい」
りむ「塩ね、おっけー。……ってか先輩、マジで昨日から注文以外喋んないよね。仕事なにしてんの? どこ住み? 彼女とかいんの?」
ミノ先輩「(マイ・トングをケースから出しながら)……質問が多い。網の温度は上がっているか。集中しろ」
りむ「ちっ、まーたスカしたこと言って! ……ほら、今日の特選上ミノ。昨日より弾力がレベチだから。あーしが市場でこれだって思って、店長にねだって仕入れてもらったやつ」
ミノ先輩「……ほう。この繊維の密度……ただの牛ではないな。……焼かせてもらう」
(先輩が丁寧にミノを並べる。りむはカウンター越しに身を乗り出し、先輩の顔を覗き込む)
りむ「ねえ、無視すんなし。あーし、自分のこと『あーし』って呼ぶギャルとか、先輩のタイプじゃないわけ? だからシカト?」
ミノ先輩「……(無言でミノを裏返す)……。君が何者であるかは関係ない。私は、このミノがどう焼かれるかにしか興味がないんだ」
りむ(心の声:ムッカつくー! でも、ミノをひっくり返す時のこの人の手つき、なんかエロいっていうか……指先まで集中してる感じ、嫌いじゃないし)
りむ「ふーん。じゃあ、これ。あーしからのサービス。裏メニューの『極厚ミノの縁側』。これ、マジで希少部位だから。これ食べて喋る気にならなかったら、一生『ミノ先輩』って呼んで、あーしの質問攻めにするからね!」
ミノ先輩「……サービスだと? (一口運び、噛みしめる)……!!」
りむ「どう? 飛ぶっしょ?」
ミノ先輩「……たまらん。……このコリコリとした抵抗の後に来る、微かな甘み……。……私の負けだ。一つだけ答える。……仕事は、建築関係だ」
りむ「えっ、建築!? 道理で構造とか角度とかうるさいわけだ! 建築の何? 設計?」
ミノ先輩「……質問は一つと言ったはずだ。……次を焼け、リーダー」
りむ「あ、逃げた! ちょっと待ちなよミノ先輩!」




