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『たまらんや・二代目の設計図(レシピ)』

銀座の街に、夕闇がしっとりと降りてくる。 かつて「伝説のギャル店長」が立ち上げた『たまらんや・銀座本店』には、今夜も開店を告げる元気なトングの音が響いていた。


「あー、もう! おにいちゃん、そこはもっと綺麗に並べなきゃダメだってば。おとうさんが作ったこのお店、かっこよさが命なんだから!」


厨房の準備に追われながら、八歳の長女・**実乃みの**が声を張り上げる。彼女は母親譲りの大きな瞳を輝かせ、父親に似たこだわりで店内を厳しくチェックしていた。


「わかってるよ、実乃。でも、おこいつらは生き物なんだ。理屈通りに並べたって、焼く瞬間に形が変わる。……そこをどう焼くかが、職人の腕だろ?」


そう言って、山盛りの仕込みを終えたボウルを抱えて笑うのは、十歳の長男・**繊舞せんまい**だ。 父の冷静さと、母の情熱的な包丁捌きを継承した彼は、すでに「たまらんや」の次期エースとしての風格を漂わせていた。


実乃はエプロンの紐をきゅっと結び直すと、ふと、いつもの疑問を口にした。


「ねえ、おにいちゃん。……おかあさんとおとうさんは? また奥でやってるの?」


繊舞は、慣れた手つきでタレを混ぜながら、店の奥にある試作室を顎で指した。


「ああ。……いつものだよ。」


実乃がそっと扉を開けると、そこには白髪が少し混じり始めた今も背筋の伸びた父・ミノ先輩と、相変わらず派手なネイルを輝かせ、トングを構える母・りむが、一つの七輪を挟んで火花を散らしていた。


「……りむ。今日のこのミノの断面……私の計算によれば、あと五秒加熱することで、旨味の構造が最大値に達する」 「もー、ミノ先輩は相変わらず理屈っぽいんだから! この肉は今、あーしに『食べて』って言ってるの! 愛があれば、計算なんていらないんだってば、ミノ先輩!」


二人は結婚して十年経った今でも、最新の建築理論と、天性のギャル的直感をぶつけ合いながら、一枚の肉の「正解」を探し続けている。


「……ふふっ、本当にいつものだね」


実乃はくすりと笑い、母から譲り受けた自分専用の小さなトングをカチカチと二回鳴らした。


「おにいちゃん、お喋りしてないで準備しよ! おとうさんが作った最高のステージで、私たちがおいしいミノを焼く。……それが、あーしたちの『たまらんや』でしょ!」


「あーしたち」という、母譲りの一人称。 繊舞は力強く頷き、暖簾を外に掲げた。


「……たまらんな。この家族の構造は、どの設計図よりも完璧だ」


事務所の窓からその様子を見ていたミノ先輩が、眼鏡の奥の瞳を細めて呟く。


銀座の夜に、香ばしい煙が立ち上る。 受け継がれたトングの音が、カチカチと、未来を奏でるように賑やかに響き始めた。

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