第13話:黒髪の再会と、狂った設計図
【夜・銀座『たまらんや』店内】 (あの日からさらに半年、通算で1年。店の入り口には、いつしか一輪挿しの花が飾られ、BGMも落ち着いたジャズに変わっている。カウンターに立つのは、黒髪を低めの位置でまとめ、柔らかな色味のシャツに身を包んだ女性――りむだった)
りむ(心の声:……1年。ネイルも落としたし、髪も染め直した。先輩が言う「理路整然」ってやつ、マジで意味わかんなかったけど……勉強したし。……でもさ、肝心のアイツが来なきゃ意味ないっつーの……)
(カランコロン、と力ない鈴の音。入ってきたのは、かつての威風堂々とした姿はどこへやら、頬がこけ、目には深いクマを湛えた幽霊のようなミノ先輩だった)
ミノ先輩「……ミノを。……限界だ。……ここのミノを食べなければ……もう、1ミリも、線が引けない……」
りむ「……。……いらっしゃいませ。……いつもの『極厚』、お持ちしますね」
ミノ先輩「(聞き覚えのある声に、ゆっくりと顔を上げる)……え……?」
(目の前に立つのは、かつての派手な「ギャル店長」ではない。控えめなメイクに、知的な雰囲気を纏った「清楚な淑女」。しかし、その手にあるのは、1年前に自分が贈ったあの「ブラックトング」だった)
ミノ先輩「……り、りむ……なのか? 君、その姿……一体、どうしたんだ。私の設計図にはない、極めて……極めて、穏やかな曲線だ……」
りむ「……あ、やっぱり気づく? 1年も来ないからさ、あーしも考えたわけ。……よいさんから聞いたよ。先輩、ギャルが苦手なんだって? ……だからさ、あーしなりに『引き算の美学』ってやつ、やってみたんだけど」
ミノ先輩「(絶句して、震える手で眼鏡を直す)……。……あ……」
りむ「……って、そんなマジマジ見んなし! 恥ずかしいじゃん! 中身は『あーし』のままだからさ。……ほら、さっさと座って。先輩、今にも餓死しそうだし」
ミノ先輩(心の声:……なんだ、この破壊力は。外見が極限まで整えられたことで、彼女がふいに漏らす『あーし』という言葉や、力強いトング捌き……その『ギャップ』という名の構造欠陥が、私の理性をダイレクトに破壊してくる……!)
ミノ先輩「……たまらん。……りむ、君という存在は……もはや、私の計算能力を超えている……」
りむ「……は? 褒めてんのそれ? ……ま、いーけど。……おかえり、ミノ先輩。……たっぷり焼いてあげるから、覚悟しなよ?」
(再会した二人の間で、1年前よりずっと熱い、新しい恋の火が着火した音がした)




