第12話:空席の半年と、残酷な理由
【夜・銀座『たまらんや』店内】 (オープンから半年。店は連日大盛況で、りむは「銀座のギャル店長」としてメディアにも取り上げられるほどの有名人になっていた。しかし、店が賑わえば賑わうほど、カウンターの隅の「あの席」の空席が、りむの胸に冷たく突き刺さる)
りむ(心の声:……半年。あの日、返事を保留にされてから、ミノ先輩は一度も店に来てない。……あーしの告白、そんなに重かったわけ? せっかく先輩が作ってくれた店なのに……一人で焼いてても、全然たまんないんだけど……)
(カランコロン、と鈴が鳴る。入ってきたのは、ミノ先輩ではなく、共同設計者の「よい」だった。彼女はどこか申し訳なさそうな顔で、カウンターに座る)
りむ「……あ、よいさん。お疲れ様っす。……今日も、一人?」
よい「ええ、お疲れ様。……ごめんなさいね、りむちゃん。彼、あれからずっと仕事に没頭しちゃってて」
りむ「仕事ならしょーがないけど……。でも、あーしの店、一回も見に来ないとかマジ意味わかんないし。あーしのこと、そんなに嫌いになったわけ?」
よい「(ため息をついて)……嫌いなわけないじゃない。むしろ逆よ。……ねえ、りむちゃん。本当のことを言うわね。彼が来られないのは、あなたの『見た目』のせいなの」
りむ「……は? あーしの見た目? 今日のメイク、ちょっと気合入れすぎた?」
よい「そうじゃないわ。……彼、実はずっと言えなかったみたいなの。極度の潔癖というか、完璧主義というか……。ミノ先輩、実は『派手な女性』……いわゆるギャルが、どうしても苦手なのよ。生理的に受け付けないレベルで」
りむ「…………は? ……ギャルが、苦手……?」
よい「前の店では、客と店員っていう距離があったから耐えられたみたい。でも、自分で設計した理想の店で、あなたがもっと輝き始めたら……もう、直視できなくなっちゃったんですって。あなたのエネルギーに当てられて、図面が引けなくなるくらいに」
りむ(心の声:……何それ。あーしが、あーしでいることが、先輩を苦しめてたってこと……?)
(ショックでトングを落としそうになるりむ。よいは追い打ちをかけるように、一枚のメモを置いた)
よい「彼、今は別のプロジェクトで地方に行ってるわ。……もし、本気で彼と向き合いたいなら……その『武装』を解く覚悟があるか、考えたほうがいいかもしれないわね」
(よいが去った後の店内で、りむは鏡に映る自分の金髪と派手なネイルをじっと見つめる。……あーしが、あーしじゃなくなれば、先輩は戻ってくるの? 涙が、熱い鉄板の上でジュッと音を立てて消えた)




