第53話 三人の未来が歩み往く
活動報告にキャラクターヴィジュアルイメージを掲載し始めました。最近ハマってる流行りのAI生成イラストです。作風コロコロ変わると思います。都度更新予定です、もしよければご覧下さい。
穏やかで幸せな、ノルヴェルンの季節は巡っていった。
花と若葉の便りに誘われて、あっという間にぼくたちは二か月後に王都の学園と学院に入学する時期を迎えていた。時間というものは本当に不思議なもので、毎日が騒がしくて楽しくて笑い声の絶えない日々だったのに、振り返ってみるとまるで一瞬の出来事だったかのように感じてしまう。
「よし、では行くか」
父さまの落ち着いた声が響くと、周囲の空気がきゅっと引き締まった。
「はいっ!」
「王都は遠いのよね~、退屈だから皆でおしゃべりしましょうね~」
母さまは相変わらずのんびりとした調子でそう言いながら笑っているけれど、その目はどこか楽しげで、これから始まる新しい生活に前向きなのが伝わってくる。
我が家の前には、家族一同が揃っていた。
使用人たちが忙しそうに動き回りながら、荷物を積んだ馬車や家財を運ぶ馬車が次々と整えられ、その周囲には鎧を身にまとった護衛騎士たちが整列している。
以前より増しての仰々しさではあるけれど、それでもこの壮観な隊列を見ているとこれが侯爵家なんだなという実感が改めて湧いてきた。
ノルヴェルンの街道には、そんな様子を遠巻きに眺める領民たちの姿も見える。ぼくたちが徐爵してから領地の空気も変わり、これまで以上に人々の表情はどこか誇りを宿し、頼もしく活気が満ちていた。
「休みの時には、帰ってこようね」
ぽつりとメルが呟く。少し寂しそうに名残惜しそうに、屋敷の方を振り返りながら。
「うん、もちろん!ノルヴェルンが大好きだからね」
ぼくがそう答えると、メルは安心したように小さく頷いた。今日からぼくたちはノルヴェルンを発ち、王都の別邸へ向かう。そして家族みんなで、新しい生活を始めるのだ。
実家の屋敷は使用人たちがきちんと管理してくれるし、家令のアルフレッドさんが基本的に駐在することになっている。その間、父さまは王都とノルヴェルンを行き来しながら領地改革を大きく進めていく予定で、相変わらず忙しい日々になるのは間違いない。
そんな話を思い出していると、父さまがふっと意味ありげな笑みを浮かべた。
「ノルヴェルンはこれから大きくなるぞ」
「楽しみねぇ!どんな要塞ができるのかしら!」
その言葉に、ジェシカが目を輝かせながら言った。
「よ、要塞……?」
思わずぼくが聞き返すと、父さまは何も言わずに肩をすくめて笑うだけだった。絶対何か企んでる顔なんだけど、本当に要塞化するの……?
この約一年間、護るべき二人の婚約者を得たぼくは、剣も魔法も、これまで以上に全力で訓練に明け暮れた。守りたい人がいるという想いが、これほどまでに人を強くするものなのかと実感すると同時に、父さまや姉さまがどうしてあれほど強いのか、その理由を少しだけ理解できた気がする。
ぼくは強くなった。……うん、とても。
父さまに時間がある時は直接指導してもらい剣の訓練を続けた結果、少なくとも以前の自分とは比べものにならないくらいには動けるようになったと思う。
ぼくには闇魔法で作る剣があるけれど、魔法だけに頼らず手札を増やせと言われてからは、一時は諦めていた実物の剣の扱いも真剣に向き合うようになった。
精霊たちに支えてもらいながら、今ではショートソードほどの重さの剣なら振れるようになり、さらに軽く加工した自分専用の剣を腰に携えている。見た目は細身で軽いんだけど、充分の切れ味だ。
魔法の実力も、かなり向上したと思う。
フィオルナさんは相変わらず我が家に来ては入り浸って、魔術理論の講義や魔法の訓練に付き合ってくれていた。ぼくを見るたびに研究対象を見るような目でニヤニヤしてくるのは少し怖いけれど、それでも魔法の師匠としては本当に頼りになる人だ。学園でも先生をしてくれる。
既知の聖魔法と闇魔法はほとんど習得することができたし、精霊魔法使いとしても精霊たちとの共感力を高めて、かなり成長できたと思う。
自分が精霊魔法使いとしてそれなりに成長した中で、それ故に改めて思い知らされたことがある。それは母さまの規格外さだ。
母さまは精霊たちと自然に対話し、まるで手足のように魔力を纏わせて扱っている。その姿は人というよりもはや精霊そのもののように見えることさえあるほどで、ぼくと同じ精霊魔法使いなはずなのに、まるで別の存在のようだった。あんな境地に立てそうもない。
そんな母さまとのお茶会はと訓練に一緒に参加していたセフィは、ノルヴェルンで暮らし始めてすぐに“精霊の御子”として覚醒した。その瞬間、精霊たちはまるでずっと待っていたかのように喜び、嬉しそうに舞い踊っていた美しい世界を、ぼくは一生忘れないだろう。
それからというもの、セフィの成長は驚くほど早かった。穏やかで優しくて、精霊たちに愛されている彼女は、いつの間にかぼくと同じくらいの練度で精霊魔法を扱えるようになってしまったのだから驚きだ。
母さまに可愛がられながら、セフィは昔からいる家族のように自然に我が家へ馴染み、とっても幸せそうに微笑みながら日々を過ごしている。この幸せな日々は、絶対守りたい。
一方で。ぼくとセフィに負けまいとするかのように、ジェシカは一層激しく訓練に打ち込んでいた。
フィオルナさんの指導のおかげで苦手だった魔法のコントロールも完璧に近い精度まで調整できるようになり、持ち前の膨大な魔力量を活かして、今では火魔法を自由自在に操っている。
強烈な火魔法と細剣の華麗な剣技を組み合わせた魔法剣は、もはや彼女だけの戦い方と言っていい。父さまと姉さまのような独自の型だ。その姿はとても格好よくて、頼もしくて――同時に、絶対に怒らせたくないとも思う。……うん、本当に。怖い。
そんな三人とは相変わらず賑やかで楽しい日々を過ごしていて、セフィと穏やかにお茶会をしたり、相変わらずジェシカに玩具にされたりと、幸せな時間を送っていた。
二人はますます美少女に磨きがかかり、女性らしい丸みを帯びた身体つきへと成長していて――その、胸も大きくなってきていて……ドキドキしちゃう。
セフィもジェシカも……とんでもなく可愛い、可愛いのだ!ときめいちゃう!
「さぁ、行くわよ!ステラ、あんた真ん中ね!」
ジェシカが勢いよく元気に手を引っぱった。
「は、はぁい!」
「うふふ、ジェシカったら今日も元気ね」
セフィがくすりと笑って、穏やかにもう片方の手を取った。
ぼくは両腕をそれぞれ二人にぐいぐい引かれながら、半ば連行されるような形で馬車へと乗り込んだ。
ゆっくりと車輪が回り始める。やがて隊列が動き出した。のどかに揺られる中、ノルヴェルンの街並みが少しずつ遠ざかっていく。窓から見える景色は、いつものように、どこまでも穏やかで、優しくて、懐かしい。この街で生まれ過ごした時間が、記憶の中で宝石箱のように輝いている。
しばらく留守にするけど、すぐ帰ってくるからね!
そして、これからぼくたちは新しい環境へ、王都の学院へと入学する。どんな未来が待っているのか分からないけれど――ぼくたち三人は同じ道を並んで進むんだ、絶対に。
決意を胸に、ぼくは静かにノルヴェルンの景色を瞳に焼き付けた。
第二章 完
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