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黒薔薇の聖騎士 ー光より来りて闇を抱くー  作者: 霞灯里
第2章 母さまの秘密

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第49話 ”ノルヴェルンの奇跡”を観に行く

翌日、昼食を終えたあと、ぼくたちエルディア家は王族の方々と合流し、王都にある国立劇場へ向かうことになった。セフィリアさまと王妃さまの二人と、家族でひっそりと観に行くはずの演劇鑑賞は、気がつけば王さまの外出行事へと姿を変えていた。


「――どうしてこうなったの?」


姉さまが、半ば呆然とした声でつぶやく。その視線の先には、堂々と並ぶ王家の馬車が二台、それを取り囲むように配置された大勢の騎士たちの姿があった。白と金を基調とした装飾は、遠目からでもひと目で王家のものと分かるほど威厳に満ちている。


「なに?“ノルヴェルンの奇跡”じゃと?皆で演劇を観に行くと言ったか?」


事の発端は、昼食の場で演劇を観に行くという話が王さまの耳に入ったことだった。


「ならば余も行く!そんなもの、行かぬわけがなかろう!!」

「そんな楽しそうな行事、私が行かない訳ないよねぇ?」


そう言って声を張り上げ無理やり公務を調整した結果、王さままで同行することになった。そこにその事態を聞きつけた師匠、フィオルナさんまで颯爽と現れる。流石だ。


結果として集まったのは、エルディア家の五人に、王族三人、そしてフィオルナさんを加えた合計九名。そんな顔ぶれを前にして、決して逃げられぬ状況にあまりにも酷く動揺している父さまと母さま。


「……エリオス、どうしましょう……」

「まさか……陛下まで一緒とは……」


両親は顔が赤くして視線を宙に彷徨わせていた。貴重な姿にぼくはほっこりする。


なにしろ、これから観る演目”ノルヴェルンの奇跡”は、二人が若かりし頃に紡いだ恋の物語をもとにした演劇のようなのだ。それを王さまや王妃さま、ましてや子供たちと一緒に観られるとなれば、羞恥と戸惑いに陥る事もよく分かります。ふふふ、師匠に似てきました。


そんな両親の気持ちなどお構いなしに、ぼくたち子供はというと、期待に胸を膨らませはしゃいでいた。


「ねえねえ、演劇ってどんなの!?どんなお話なんだろうね!」

「父さまと母さまのラブストーリーだよ、国民的に大人気みたい!」


ひと際目を輝かせるメルと話をしていると、両親がびくっと震えた。姉さまは既に観たことあるみたいだけど、家族で観れることに嬉しそうにしてる。ぼくは演劇を観るのは初めてで、胸の奥がそわそわと落ち着かなかった。


「若い頃の父さまと母さまが、愛し合ったお話なんだね!」


メルの無邪気で無垢な問いかけに、父さまと母さまは同時にピシィと固まり、真っ赤な顔をしてすっと横を向いた。あまりにも可笑しな両親の様子に、ぼくは思わず苦笑してしまう。


「ふふふ、いいじゃない。愛の物語なんて、何度観ても素敵なものよ?」


王妃さまが柔らかく微笑むと、王さまも愉快そうに頷いた。


「そうそう。若い頃の思い出を家族皆で振り返るのも一興じゃろう」

「……陛下、どうかお手柔らかに……」


父さまの小さな呟きは、フィオルナさんのひどく楽しそうな笑い声にかき消された。


乗り込んだ馬車がやがて動き出し、騎士隊と共に王都の中心へと進んでいく。通り沿いには人が溢れ、国立劇場へ向かうであろう観客たちの熱気が、街全体を包み込んでいた。


ほどなくして見えてきた国立劇場は、想像していた以上に壮麗な建物だった。長い歴史を感じさせる石造りの外壁、高くそびえる柱、そして正面に掲げられた大きな紋章。その前に広がる広場には、開演を待つ人々がぎっしりと集まり、ざわめきと期待の声で満ちている。


王家の馬車が到着すると、待ち構えていた支配人と従業員たちが一斉に頭を下げ、丁重に迎え入れてくれた。


「本日はお越しいただき、誠に光栄でございます!陛下、王妃様、王女様。ならびにエルディア侯爵家の皆さま。心より歓迎いたします!」


赤い絨毯が敷かれた通路を進み、案内されたのは、舞台を正面から一望できる豪奢な来賓席だった。重厚な装飾と落ち着いた調度品に囲まれた空間は、まさに特別な客のための場所に見える。


「わあ……!」


来賓席から見える景色にセフィリア様が嬉しそうに声を漏らした。内気で控えめな彼女が、高揚して目を輝かせながら舞台や観客席を、嬉しそうに何度も見渡している。


「こんなに近くで観られるなんて……すごく、嬉しいです」


一般席はすでに満員で、劇場内は人で溢れかえっている。活気と期待が渦巻くその空間に身を置いているだけで、胸が高鳴ってくるのを感じた。一方で来賓席の一角では、相変わらず父さまと母さまが小さく身を寄せ合い、落ち着かない様子で座っている。


「……やっぱり~、今からでも帰れないかしら~……」

「無理だ、セレナ。完全に包囲されている……」


フィオルナさんがそんな両親を見ながら、ニヤニヤと笑いながら楽しそうに頬杖をつきながら言った。師匠は相手を選ばないようです。


「さあさあ、二人とも開幕はもうすぐだよ。逃げ場はないんだから、覚悟しなきゃねぇ?」


やがて劇場内の灯りがゆっくりと落ち、ざわめきが静まっていく。張り詰めた沈黙の中、舞台の幕が厳かに上がり――。


演劇”ノルヴェルンの奇跡”が、ついに幕を開けた。




幕の上がった舞台の上には、自然の中で祈りを捧げる一人の幼い少女が居た。そこへ語り部の低く澄んだ声が、静まり返った国立劇場にゆっくりと染み渡る。


――ノルヴェルンの地に、奇跡と呼ばれる一人の少女がいた。


彼女が歩めば大地は柔らかく息づき、彼女が微笑めば季節を忘れた花々が咲き誇った。小鳥は彼女の肩に歌い舞い降り、風はその祈りの言葉を運ぶためだけに吹いたという。


少女は、誰かの痛みに背を向けることを知らなかった。涙に暮れる者がいれば、そっと手を取り、傷ついた者がいれば、祈りとともにその身を抱いた。彼女の祈りは奇跡を呼び、彼女の慈しみは、人々に生きる希望を与えた。


――人々は、少女をこう呼んだ。「ノルヴェルンの奇跡」と。


その名高き少女に、心を奪われた少年がいた。名門に生まれ剣と学問に囲まれて育った、ひとりの貴族の少年。だが自らの身分も誇りも、彼女の奇跡の前では何の役にも立たなかった。


舞台が転じ、柔らかな光の中で少年は花束を胸に抱き、小さな小箱を手に少女の前に進み出る。そして――ためらいも、逃げ場も断ち切るように、彼は跪いた。そして震える声で叫ぶ。


「セレナ……僕は、あなたを愛しています!」


実名だった。


――その瞬間、真後ろの席から「う”っ……!」と父さまの苦しそうな声が噴き出した。


「まあぁ……!」


舞台上の少女が、驚きに目を見開く。


「僕は君を護りすべてを背負える人間に……必ず君にふさわしい男になる!!だから……だから、その時は、私と結婚してほしい!」


必死で真剣で、少し不器用な告白。迫真の演技を見ている観客席の”本物”が、息を詰まらせている気配がはっきりと伝わってきた。ちらりと後ろに目を流すと、真っ赤な顔を両手で覆って、ふるふると顔を振る母さまが居た。


少女は両手を口元に添え、頬を淡く染めた。


「まあぁ……!嬉しいわ。ありがとう、エリオス……!」


少年が差し出した花束の奥、小箱の蓋が開き舞台の光を受けて指輪がきらめいた。少年は恭しく彼女の薬指を指輪で飾った。その初々しい姿が甘く切なくて、劇場中から息を呑む声が聞こえた。


――開幕からいきなり一直線。何だかしょっぱなから飛ばしてませんか……?


大勢の観客は陶酔していて、劇場全体が伝説の始まりに沸いてるようだ。一瞬で理解できるほどの熱量を前に、国民的人気を誇る理由を垣間見て、ぼくはごくりと喉を鳴らした。


うん、これは確かにちょっと照れちゃうかも!あまりに現実(リアル)すぎる!両親に少し同情するぼくでした。


背後では、真っ赤になった両親が羞恥に言葉を失っていて、少女と少年の姿にセフィリアさまとメルは興奮したように身を乗り出している。大層上機嫌なフィオルナさんに、微笑ましく見てる王さまが楽しそうに見ていた。


――こうして。奇跡の少女と、貴族の少年の恋の物語が始まった。

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