表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒薔薇の聖騎士 ー光より来りて闇を抱くー  作者: 霞灯里
第1章 黒薔薇の咲く丘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/47

第4話 目覚める闇

時は少し遡る。


かつて神に選ばれ――そして神に見放された者の名を、この世界で知る者はもういない。


ここは遠く遠く離れた禁忌の地。滅びの古都。

石の街は灰に還り、塔は崩れ、半壊した城だけが、氷のように凍りついたまま時を止めていた。


 

そして――。

それが、目を開けた。


 

瞼がわずかに震える。

その音が、まるで“世界の裂け目”を広げるようだった。

黒い光が滲み、天と地の境をゆっくりと溶かしていく。


 

ここは……どこだ……?

私は……何を……?

誰を……憎んでいた……?



問いはやがて、記憶へと変わる。


 

焼け落ちた都。

泣き叫ぶ子。

腕の中で、冷たくなっていく愛しい者。


――灰。灰。灰。


全てが灰になった。

祈っても、泣いても、赦されなかった。


 

そして、思い出す。

身を引き裂くほどの、憎悪と、憤怒と、悲哀を。


 

ああ……そうだ。

私は――魔王、リリス・ヴァル=エクリプス。


 

私を殺したのは、光だ。

聖と呼ばれた者どもだ。

 

 

ならば――この世界ごと、焼き尽くしてくれる。


 

玉座を囲う結界が、ピシリと鳴った。

幾重にも張り巡らされた聖の鎖。

それは神話の時代、聖女と八英雄が命を賭して残した聖なる大封印――

世界で最も強固な“祈りの檻”だった。


 

だが――千年という時は、あまりにも長すぎた。


 

ひび割れた水晶のように、結界は軋み、

光は腐り、祈りは穢れていく。


漏れ出した聖のマナは蒼白い煙となり、天へと昇る。

その中心で、リリスが静かに笑った。


荘厳な黒のドレスを纏うその姿は、まるで神がこの世に彫り残した彫刻のようだ。

雪よりも透きとおる肌は光を拒みながらも、淡く輝きを返す。

紅玉のような双眸は深淵の光。

黒曜石の髪は夜そのもの――触れれば砕ける夢のように流れ、

わずかな風にも応えるように揺れながら、漆黒の波紋を描いた。


背中に八枚の黒翼が花開く。

それは翼ではなく、呪詛の具現。

一振りで星を砕くほどのマナを宿す、闇の王の象徴だった。


 

「……ああ、この憎しみ。まだ温かい。まだ、燃えている」


 

その声は怒号でも嘆きでもなく、どこか慈しむような調べだった。


 

「神よ、見ているか。貴様の創った世界を、私は焼く。光を血に変え、祈りを悲鳴に変えてやる」


 

結界が唸りを上げ、空間が軋む。

そして、黒い光がほとばしった。


 

それは――“種”だった。


闇の種。

悪の種。

魂を焦がすほどの憎悪が凝縮した、呪いの欠片。


 

リリスは狂おしく笑った。


 

「世界に、種を撒こう。私の憎しみを分けてやる。それが愛、これが救い」


 

フフフ……アハハハハハハハ!!


 

狂気の笑いが雷鳴を呼び、廃墟を揺らす。

黒翼がはためくたび、大地が軋み、古の塔が崩れ落ちた。


結界の亀裂からこぼれた“種”は風に乗り、

千里の果て――北の空へと舞っていく。


 

滅びよ、人間ども。

泣け、叫べ。

お前たちの祈りごと、全て焼き尽くしてくれる。


 

その声は世界に響く、厄災の音。

黒翼の主は玉座に身を沈め、微笑んだまま目を閉じる。


 

そして闇は静かに蠢き、やがて世界のどこかに芽吹く――

それこそが、すべての始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ