第48話 三日目の予定
部屋の中に穏やかな陽光が差し込んでいた。高い窓から降り注ぐ光は白いカーテンを透かして柔らかく広がり、昨夜まで張りつめていた空気が嘘のように、部屋全体を包み込んでいる。
穏やかな雰囲気の中で柔らかいソファ座っているぼくは、ひどく落ち着かない気持ちを抱えていた。すぐ隣にセフィリア様が座っているからだ。淡い色合いのドレスに身を包み、白銀の長い髪を丁寧にまとめた彼女は、まるで妖精ようで視界に入るたび胸の鼓動が暴れ締め付けられた。
正式に顔を合わせてから、たった一日。それなのに会話を交わすたび、視線が触れるたびに距離は驚くほど縮まっていた。
「エルディア家の皆様といると、とても落ち着きますわ……」
控えめにそう言って恥ずかしそうに微笑むセフィリア様の声は、鈴が転がるように柔らかい。ぼくは思わず背筋を正し慌てて頷いた。
「そ、そう言ってもらえると嬉しいです。城のお部屋は……その、広すぎて、少し緊張しますよね」
「はい……でもここは、皆さんの温かい空気に溢れていて……とても安心します」
そう言って胸元で手を重ねる仕草が、あまりにも可憐で……心臓がうるさくて仕方がない。思考が追いつかなくなる。その様子を微笑ましく眺めている、家族の視線がかなり恥ずかしい!恥ずかしいよ!!
「まぁ……もう随分と仲良しじゃないの~」
「お母さま……!」
からかうような声にぼくは取り乱すけど、母さまは悪びれもせず嬉しそうに目を細めている。その隣には、穏やかに頷く王妃リュミエラ様の姿もあった。
「とても素敵ですわ、初対面とは思えないほど仲良しですわね」
「そうですわね~、ステラがあんなに惚気る姿は初めて見ましたの~」
「セフィリアも普段は引っ込み思案で、こんなにも積極的に行動するのは初めてですのよ」
「もう、母さま……!」
会話の弾むママ達に、ぼくが抗議するより先にセフィリア様が小さく息を吸い、意を決したように口を開いた。
「あの……わたし、ノルヴェルンの奇跡のお話が大好きで……」
セフィリア様の言葉に場の空気がすっと集中する。セフィリアは少し頬を染めながらも、視線を伏せずに続けた。
「ノルヴェルンの奇跡の絵本も、小説も、演劇も。幼い頃から何度も、何度も……みています」
「っ!?」
ピシィっと母さまが笑顔のまま固まった。セフィリアはこくりと頷き、少し照れたように微笑む。
「はい。演劇は特に……何度観ても、胸が熱くなって……十回以上は観ています。エルディア家の皆さまは、私の憧れなのです……」
恥ずかしそうにちらりと上目使いで母さまを見た。
「セレナ様の慈しみ深く穏やかで優しいお姿が……本当に素敵で。ずっと憧れていました」
「まあぁ……!」
母さまは両手で口元を押さえ、次の瞬間にはセフィリア様の傍へと歩み寄ってぎゅーっと抱きしめ、頭を撫で始めた。
「そんなふうに思ってくれていたなんて……もう、なんて可愛いの~!本当に天使みたい~!」
「ひゃっ!?」
あまりの距離の近さにセフィリア様は目を白黒させながらも、すごく嬉しそうに目を潤ませていた。母さまはこういう人ですけど本当に大丈夫ですか?
「おや……、ずいぶんと賑やかだな」
大歓喜してる母さまがセフィリア様に頬ずりしている最中に、昼食の時間を告げる声とともに父さまが帰ってきた。
昼食の席にはまた豪勢な料理が並ぶ。戻ってき父さまは向かい合って座るぼくとセフィリア様の仲良さそうな様子を見て、すぐに察したように口元を緩める。
「なるほど……これはもう大人は必要ない、見守るだけで十分だろう」
「ちょっと、父さま!」
微笑ましく見つめられ、ぼくは顔を真っ赤にしながら叫ぶけど、父さまは楽しそうに続ける。
「いや、いいことだ。フフッ、ステラ、顔が緩みっぱなしだぞ」
「なっ、そ、そんなこと……!!」
「ありま~す!」
「ありまーす!」
即座に乗って言い切る母さまとメルであった。アンリ姉さまもくすくすと笑ってる。うう、からかわれている……!家族の皆が何だかエルフ学者に見えて来た。
「まぁ……ふふ、本当に微笑ましいですわ」
「うふふっ」
王妃さまとセフィリア様までも楽しそうに微笑んでいた。そんな中で、ぼくは両親に向き合いしっかりと目を合せて、意趣返しのようにはっきりと告げた。反撃の狼煙を上げたのである。
「セフィリア様と”ノルヴェルンの奇跡”の演劇を観に行きたいです」
「……はっ??」
両親の動きがぴたりと止まり、固まった。
「セフィリア様も、行きたいとおっしゃっていました」
「はい…行きたいです」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。それは……!」
「こ、子供には早いわ~、もう少し大人になってから~……!」
ひどく慌てて言い繕う二人に、セフィリア様が控えめに呟いた。
「あの……その……わたし、もう何度も観ています……」
「私も観ました」
「メルも~!メルも~!行きたーい!!」
「……!!?」
続けざまに子供たちが追い打ちをかける。揃って冷や汗をかき戸惑っている珍しい両親の姿を、ぼくはにっこにこで眺めていた。すぐにメイドさんが確認しに行ってくれて、間を置いて戻ってきた。
「最短の予定で、明日の昼過ぎに国立劇場で公演がございます」
「まぁ!それでは皆さん一緒に、観劇に行きましょうか」
トドメとばかりに放たれる王妃さまの一言に撃沈される両親……。観念したように肩を落とす父さまと母さまが、項垂れながらか細く呟いた。
「……よし、皆で行くか……」
「……行きましょう~……」
こうして、三日目の予定は決まった。絶対に観たかった演劇、国立劇場で”ノルヴェルンの奇跡”を観に行きます。セフィリア様はとても嬉しそうに胸の前で手を合わせ微笑んでいて、とても幸せな気持ちになった。
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