第42話 遥かにもっと大きいみたい
「いずれは――セフィリア様を、匿いきれない、隠し切れない。その時が来る」
その言葉に、思わず息を呑んだ。ぎょっとして父さまを見る。
……でも、確かにそうだ。いつまでもは無理だし、そもそも隠すこと自体がおかしいと思う。
「その時に備え、陛下は少しずつ環境を整えてくださる。そして我々も――侯爵家の権限を使い、あらゆるものからセフィリア様を護り抜くための“力”を備えはじめるぞ」
父さまの流し目が、きらりと光った。うわ、かっこいい……!本当に頼もしすぎる。
「会談の後、正式に婚約が成立すれば、セフィリア様をすぐに療養という名目でノルヴェルンへお迎えする予定だ」
「……ん?」
えっ……??
一瞬、言葉の意味を理解できなかった。
「えっ? 会談のあとって……、すぐノルヴェルンに来ちゃうの……?」
「そうだ、幸いステラと同い年だ。学園に入学されるまで我らが領地で過ごして頂く事になる」
「えっ、えーーー!!?」
声が裏返る。いやいやいや、急展開すぎない!?
「そして秘密裏に、セフィリア様の聖女としての力を育てていく。これはセレナにしか出来ないことだ……すまないが、宜しく頼む」
「ふふっ、わかったわ~、娘が二人も増えるのね~!嬉しいわ~!」
ぼくが思わず「ぶっ!」と噴き出す中で、母さまは本当にすっごく嬉しそうに目を輝かせている。
「ノルヴェルンの館も王族を迎えるために拡張、改築し、領都も騎士団も増強していく予定だ」
「えっ??」
さすが“蒼風の君”、いろいろ展開が早すぎるぅ!待ってェ!
父さまが色々話してくれるけど正直――話が大きすぎて、多すぎて、ぼくは理解しきれずに半分くらいは置いてけぼりだった。だから、とにかく一番肝心であろうことを聞いてみた。
「……ぐ、具体的に、何からセフィリア様を護るんですか?」
「最も近しい脅威は、二大公爵家だ」
「えっ?」
「そもそも我々は、彼らにとって面白くない存在だからな。特に信仰を司るエクレシオ公爵家には、目の敵にされている」
「そ、そうなの!?」
「聖王庁に民の信仰はもはや向いていない。今や――“ノルヴェルンの奇跡”と、我らの領地にその信仰は向きつつあるんだよ」
「ノルヴェルンは、国民から最も愛され、信仰されている領地なのさ!」
その言葉に「はっ!」として母さまを見ると、「困ったわ~」と苦笑しながら、頬に手を当て困っていた。
「そんなノルヴェルンに、正統なる聖女様まで属すると知られたら……エクレシオ家、発狂するかもしれないねぇ~!」
フィオルナさんが、実に楽しそうにニッヤニヤしている。このエルフ学者ぁ!絶対面白がってますよねぇ!
「その辺りもまた、陛下にはお考えがある。会談の場で聞けるだろうさ」
父さまは紅茶を一口含み、静かに続けた。
「だがな――聖女だと公になれば、世はさらに大きく動く」
「……えっ?」
「南部辺境を治める、セレスティア聖王国で最大の軍事力を持つヴァルディオ侯爵家が、どう動くかは予想が付かない」
「そうだねぇ、あそこは二大公爵家と同じくらい厄介だねぇ」
「そ、そうなの……?」
「現王家を討ち、正統な聖女であるセフィリア様を女王に据え、自らが後ろ盾となる――それくらいは平然と考えるだろうな」
「うん、間違いないねぇ」
「ぶっ……!?」
なんか話のスケールが大きくなったよ!!
……でも、さらに追い打ちのように父さまは続けた。
「そして何より国外……最大の脅威は、帝国だ」
「えっ……?」
「世界に戦争を振りまき数多の国を吸収してきた大国だ。正統な聖女ともなれば、今度こそ本気で奪いに仕掛けて来るだろう」
「うぇっ……!?」
「護る相手とは――そういった連中だな」
あまりにもさらりと、余裕の声音で言う父さま。
……ていこく?
……今、帝国って言いましたよね?
ね、ねぇ? ねぇ??
ぽかんと口を開けたまま固まるぼく。
――どうやら、ぼくの婚約者の背負う宿命は、思っていたより遥かにもっと大きいみたいです。
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