第38話 第三王女様との婚約
お、王女様と、婚約……!?
あまりの事に思考が完全に止まったぼくは、そのまま母さまにぎゅっと抱きしめられていた。柔らかな腕の中で、ようやく呼吸を思い出す。
「大丈夫よ~、大丈夫~……」
背中を撫でられながら、少しずつ、少しずつ落ち着いてくる。それでも、身体の奥ではまだ小刻みに震えが止まらない。
――あまりにも突然すぎる。第三王女様と婚約……?ぼくが?
視界の端でエルフの学者が腕を組み、実に楽しそうにニヤニヤと目や口元を歪めているのが見えた。……この人、絶対この瞬間を待ってたでしょ!
そして、この話を全員が知っていた――知らなかったの、ぼくだけだ!だから、さっきからみんな、妙に優しい目でこっちを見てたのか……!!
「……王女さまと、婚約って……どういうこと……?」
動揺は収まらないまま、自分でも驚くほど情けない声が出た。父さまは一度、深く息を吐いてから口を開いた。
「……実はな。かなり昔から、王家――いや、陛下から、ステラへの縁談の話は来ていた」
「ええっ!?」
「だが、私はずっと断り続けていた」
思わず母さまを見ると、静かに頷いた。
「私もエリオスもね~、政略結婚にはどうしても抵抗があったのよ~」
「お前たちには、自由に、心から愛する相手と結ばれてほしいと考えていたんだ」
……父さま、十歳で母さまにプロポーズした人だもんね。説得力がありすぎる!
「今も、その考えは変わらない。陛下もそこまで真剣に縁談を考えている訳が無いと思い込んでいた。そもそも家格が不釣り合いだ」
「う、うん……」
「だが違った、陛下は本気だった。どうしても、第三王女をエルディア家に降嫁させたい――そう考えておられた」
「……どうして……?」
「私は陛下の命により、その理由を直接伺うため王都へ来たのだ」
父さまは、少しだけ視線を落とした。
「……ここから先は、絶対に秘匿すべき話だ。この場にいる者以外には、決して口外しないように」
「う、うん……」
「第三王女はな――聖属性の“精霊の御子”である可能性が高い」
「……っ!?」
「王城は、貴族社会は、魔窟だ。そのような場所から離して、精霊に愛されし穏やかなノルヴェルンで王女を幸せにしてもらいたい。それが陛下の真意だった」
……!?えっ、えっ……!?そ、それって!?
頭の中が、ぐるぐると回り出す。
ゆっくりと、震える身体で母さまを見る。母さまは困ったように、でも否定しない表情で微笑んでいた。
「つ、つまり……!」
「そうだ、もし”精霊の御子”であれば、第三王女は六百年以上もの長い間、我が国が待ち望んだ……正統な”聖女”だ」
「えーーーーーー!!?」
せ、聖女さま!?思わず声が裏返る!
「で、でもっ!そんな大事な存在を、王家から出していいの!?」
「……そこが、複雑で厄介なところだ」
父さまの声が、重くなる。
「“聖女”がこの時代に誕生したとなれば、必ず揉める。信仰、権威、利権……争いが起き、最悪の場合、戦争に発展する。かつての“聖女裁判”の時も、そうなりかけた」
――……そうだったんだ。
「陛下は何よりも。親として、第三王女の幸せな人生を望まれている」
「……聖女裁判の話を聞きましたが、王家はちょっと怖いです」
ぽつりと漏らすと、父さまは苦笑した。
「王家はそうだな。しかし、陛下と王族は違うと言えるよ」
「えっ?そうなんですか?」
王家と王族って、違うの?
「陛下はとても聡明で、優しく穏やかな方だ。この国を、世界を憂いておられる。聖女裁判で我々を助けてくれたのも、陛下だったのさ」
「そうだったんですか!」
あら、そうなの!?王さま良い人!?
父さまはフフッと笑い「この辺りの話は、また改めてゆっくりしよう」と締めくくった。
「話を戻すが、徐爵を受けた理由の一つが”第三王女との婚約”、家格を最低限、王家と釣り合わせるための施策だ」
「……もう、ぼくは一つでお腹いっぱいです」
弱々しくそう呟くと、母さま微笑みながらまたそっとぼくを抱き寄せてくれた。
「ふふふっ、あなたの人生は賑やかな旅になりそうね~?」
……本当にそう思う。
ぼくの知らないところで、こんなとんでもない事が起きてたんだ――――。
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