第36話 王都ルミナリア
王都への旅路は、なおも続いた。
ノルヴェルン領を抜けると、道中で目にするものが少しずつ変わっていった。街道沿いの畑は減り、代わりに森や荒地が増え、護衛騎士たちの視線も自然と鋭くなる。
実際、魔物の姿をよく見るようになった。小人のような姿で、意地の悪そうな顔をしたゴブリン。鋭い牙と爪を持つ狼、狂暴なワイルドウルフ。
いずれも下級の魔物らしいけど、街道に出没するとなれば旅人には厄介な存在だ。だが現れるたびに、護衛騎士たちが素早く馬を駆り、見事な連携で討伐していった。
――こんなのどかな街道に、こんな危険が潜んでいるんだね。
一行は日中は行進し、夜には宿場町や都市に入り、代官や重職の人々から形式ばった歓迎と接待を受け、翌朝まだ薄暗いうちに出立する。その繰り返しだ。
途中、さすがに気持ちに疲れが出たメルのために、一日だけ休みを取ったけれど、大きな問題もなく旅は順調に進んだ。
そして――二つの領地を越えた、十一日目の昼前。
丘を登り切ったところで、視界が一気に開けた。
「……あっ!!」
思わず、息を呑んだ。眼下に広がっていたのは、とてつもなく巨大な、円形の白い都市。セレスティア聖王国、王都ルミナリア。
外周から内側へと、幾重にも同心円を描くように街並みが広がり、その中心は小高い丘となっていて――まるで街そのものを従えるかのように、圧倒的な威容の王城がそびえ立っていた。
白い城壁、幾本もの尖塔、陽光を反射する屋根。あれは規模がおかしい、遠目でも分かる。
「うわあぁっ!!すごい!大きい!」
「わあああぁっ!!お城だぁ!!」
ぼくとメルは、ほとんど同時に馬車の窓へと身を乗り出した。
「やれやれ……、元気だねぇ」
「ふふふっ、まあそうなるわよね~」
母さまとフィオルナさんが、苦笑しながら呟いた。
数名の騎士が早馬として先行し、王都へと駆けていく。久しぶりに父さまと姉さまに会える!その思いに呼応するように、光と闇の精霊たちが、ぼくの周りでぱあっと輝いた。
さらに一時間ほど馬車に揺られ――ついに、王都の巨大な正門が見えてきた。
白亜の門は、見上げるほど高く、分厚い。その前には、入城を待つ人や馬車がずらりと並び、王都の規模を改めて思い知らされた。
そこへ、門の内側から騎士たちが馬で駆け出してきた。
「エルディア侯爵家、御一行様ですね!こちらへ、先導いたします!」
……エルディア侯爵家ぇ!?本当に、そうなってるんだ!?
王都騎士に先導され、行列を横目に門をくぐる。並んでいる人たちの視線が一斉に集まり、少し居心地が悪い。ご、ごめんなさい……。
門の内側は、さらに別世界だった。
広大な石畳の大通り。これだけの馬車と騎士が並んでも、まだ余裕があるほどの幅がある。
白を基調とした街並みには商店が立ち並び、沢山の人、人、人。屋台の声、馬のいななき、話し声が重なり合い、賑やかすぎて街全体が生き物のようにざわめいている。そんな大勢の人たちに大注目を浴びながら、ぼくたちは行進する。
「……ひ、人が多い……!」
「ねぇ、あっちのお店、なに!?」
「見て、あの美味しそうなパン、大きい!」
目を輝かせるぼくとメル。王都は、円形の構造になっているようで、外周は沢山のお店が立ち並んでいる商業区画みたいで、一般市民も居住する地域らしい。
王都に入ってから随分経つけどまだまだ行進は続く。そういえば、どこに向かっているんだろう?
水路上の橋を渡り、さらに中心部に近づくと雰囲気ががらりと変わった。喧騒が遠のき、広い敷地に、美しく整えられた屋敷と高級そうなお店が点在する――貴族街だという。
「ここが貴族街だねぇ、この中に二つの国立学園もある。そして、さらに橋を越えた先が王城さ!」
フィオルナさんの言葉にわくわくした。お城も近くで見てみたぁい!
やがて一行は、ひときわ広大な敷地と見事な庭園を備えた豪奢な屋敷の前で止まった。重厚な門が開くとぼくたちの一行を通し、すべて収容すると静かに門が閉まった。
「……え?ここは?」
ぽかんとしていると、馬車の外からノックの音。「到着いたしました」との執事の声に促され、ぼくたちは馬車を降りた。
そこには、ずらりと並ぶメイドや使用人たち。
そして――
ぼくたちの馬車に駆け寄るのは豪奢な服に身を包み、王子様のように微笑む父さま。その隣には、黒と青を基調とした聖騎士学園の制服をまとい、凛とした佇まいの姉さま。
「無事でよかった!よく来てくれたね、セレナ、ステラ、メル」
「みんな久しぶり、会えて嬉しいわ!」
ほわぁ……!
父さまと姉さまが……、二人がぼくたちを出迎えてくれた!
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