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黒薔薇の聖騎士 ー光より来りて闇を抱くー  作者: 霞灯里
第2章 母さまの秘密

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第35話 王都への旅路

のどかな街道をぼくたちの一行は行進していた。整然と並ぶ護衛騎士の行進、馬蹄の音、そして窓の外に流れていく初めて見る景色。


最初のうちは、そのすべてが新鮮で、ぼくもメルも馬車の窓に張りついていたのだけど――見渡す限りの草原と、遠くにぼんやりと見える森だけの風景が続くようになると、さすがに飽きてきた。


「……ちょっと、お尻がいたい……」長時間揺られ続けたせいで、じんわりと痛みが溜まってきた。こっそりと自分に《ヒール》をかけると、ほっと力が抜ける。


母さまも、そこまで貴族社会の細かな事情までは把握していないらしく、手紙でしか状況を知らないので、叙爵については王都で父さまから直接みんなで聞きましょう、ということになった。


フィオルナさんも事情を知っているようだ。王都ではこの一連の話がかなりの騒ぎになっているらしく「くれぐれも目立たないようにね」と忠告された。どうやら南部貴族は好戦的な人が多いらしい。


「私は南部貴族だが、中立派の平和主義者でね。それに昔からエルディア家の友人だ。つまり――君たちの味方さ」


フフフッ、と目を光らせてぼくとメルを見る怪しい学者。……その笑顔、どうしても別の危険を感じるんですが。


水筒のお茶を飲んで落ち着こうとしていると、さらにフィオルナさんが身を乗り出してきた。


「王都では、必ず演劇を観たまえ!」

「演劇……、ですか?」

「大きな国立劇場で上演している大人気の演目、――“ノルヴェルンの奇跡”だ!そこらで吟遊詩人も歌ってる、最も有名で人気な物語だぞ!」

「ブーッ!!?」

「君たちは絶対に観るべきだ!」


思わず盛大にお茶を吹いた!

えっ、えっ、えーー?なにそれ!?そんなの聞いてない!


母さまを見ると、頬を赤らめてふいっと顔を背けた。


「エリオスとセレナのラブストーリー……それはもう筆舌に尽くしがたく、脳汁が出るぞ……!」

「も、もうやめて~!」

「それを観たいが為だけに、国中から人が集まってくるんだ!」


珍しく焦った母さまが、慌てながらフィオルナさんの口を塞ぎだした。


……ごめんなさい、母さま。

ぼくは絶対に観たいです。隣でメルもきらきらした目で何度もうなずいている。


「そして、ねぇ……?いずれは、ねぇ……?」


ニヤニヤしながら、何故か今度はぼくを見るフィオルナさん。


「……な、なんですか、その目は……?」

「ううん~?なんでもないさ~?……ねぇ??」

「何なの!?もうっ!」


この学者は、本当にっ!ぼくまで演劇の題材にされるわけないじゃん!




そんな他愛もない話をしながら一行は何事もなく行進し、日が沈みかけた夕暮れ時、最初の街――グランドルへと到着した。


ノルヴェルン領南端に位置するこの街は、石造りの城壁と広い門を備えた立派な交易都市だ。街道沿いには多くの人だかりができており、馬車が姿を現すとどよめきが広がった。


「エルディア家一行様だ……!」「ご無事の旅を……!」


街を預かるエルディア家の領主代理が正装で出迎え、その後ろには街の領民たちが整列していた。深々と頭を下げる人々の姿に、ちょっと怖くなった。


ぼくたちはそのまま、街でも指折りの格式を誇るという屋敷へと案内された。今夜の宿みたい。


「美味しい……!」


歓迎の宴では、この街名物だという鳥料理がずらりと並んだ。香ばしく焼かれた肉、ハーブの効いた煮込み、どれも美味しく初めての味で、思わず夢中になってしまう。


座っていただけとはいえ、長時間の移動はやっぱり疲れる。お風呂を使わせてもらい身体を温めると、どっと眠気が押し寄せてきた。


用意された部屋の大きなベッドで、メルと手をつなぎながら目を閉じると――あっという間に意識は沈んだ。


そして翌朝。

またしても豪勢な朝食が振舞われ、幸せを嚙みしめる間もなく、すぐに身支度と出立の準備が始まった。


「もう行っちゃうの……?」


ほんの一晩だけで、名残惜しい。もう少し街を見て回ったり、沢山のお世話をしてくれた人たちと話したかったなぁ。


王都への旅って、思っていたよりずっと忙しいみたいだ――。

この物語を読んで頂き有難うございます。

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