第34話 エルディア家一行、領都を発つ
王都への旅行が決まってから、屋敷は慌ただしさに包まれた。
まず最初に手配されたのは、衣装だった。王都は社交と格式の中心。北部の一領主としてだけではなく、王家に連なる貴族として赴く以上、装いに隙は許されないみたいだ。
仕立屋が何人も屋敷に泊まり込み、昼夜を問わず針を動かし特急で見繕ってくれた。ぼくとメルには、落ち着いた色合いながらも一目で高位と分かる上品な礼装が数着。動きやすさよりも、見られることを意識した作りだった。
母さまも普段は着飾らない方だけど、今回は光沢を抑えた上品で上質なドレスに、繊細な装飾のアクセサリーを仕立てて貰っていた。派手さは控えめの上品な装いなのに、母さまが身に纏うだけで場の空気が変わるような格があった。
王都までは、野営を挟まない行程でおよそ十日。主要な街道沿いの都市や宿場町に宿を取り、馬を休ませながら進むらしい。宿の手配から行程管理まで、すべて執事が完璧に整えてくれた。
その一行の人員の規模を聞いてびっくりした。エルディア伯爵家の王都への一行は、家族とフィオルナさんが乗る豪奢な馬車が一台、侍女や執事、メイドや従者が乗る随伴馬車が二台、荷物を積んだ大型馬車が一台。さらに、三十名近い護衛騎士が騎馬で同行するみたいだ。
そして、あっという間に出立の日。
いつもより更に早くに起きると、しばらく会えなくなるので家の庭や丘の上の黒薔薇たちに、いつもより時間をかけてたっぷり聖水と聖魔法をかけて撫でてあげた。「ごめんね、しばらく待っていてね」と呟きながら。
みんなで朝食を取り食べ終わると、身支度を整えて館の門前に集合した。もちろん頭の定位置には、黒薔薇がいつの間にか誇らしげに花を広げて輝いている。
門前には既に、白を基調とした家紋入りの馬車が静かに待っていた。護衛騎士たちは鎧を磨き上げ馬も艶やかだ。壮観でカッコよく、じっと見ちゃった。
「じゃあ、帰ってきたら手紙を頂戴ね!……早く帰ってくるのよっ!」
「うん、分かった。ジェシカも気を付けて帰るんだよ」
「ええ、またね!」
寂しそうにぷいっと彼女は顔を背けた。ぼくたちが旅立つと同時に、ジェシカは自分の領地に帰るようだ。
「それじゃ、行きましょうか~」と、いつものように穏やかな声で母さまが号令をかけ、我が家の白い豪奢な馬車に乗り込んだ。王都に行けば、姉さまにも久しぶりに会えるなぁ、嬉しい!
護衛騎士の騎馬が先導し馬車が動き出すと、隙のない陣形でそのまま街路へと進んでいく。
ノルヴェルンの美しい街並みや大聖堂を眺めていると、ぼくたちの一行を見つけた人々がどんどん並び出し、誰からともなく膝をつき胸に手を当て、祈りを捧げ始めた。ぼくは馬車の窓から軽く手を振ると、一層頭を下げて祈られた。
うーん、とても有り難いけれど、母さまが言ってた信仰されすぎると困っちゃう件、よく分かる気がする……。
そしてぼくたちの一行を祝福するかのように、沢山の光と闇の精霊さんたちがキラキラと綺麗に輝きながら周りを飛び回りながら着いて来てる。ここにはメルがいるから精霊の話は出来ないけど、母さまと目を合せて静かに微笑み合った。
「それで、どうして父さまはぼくたちを呼んだんでしょう?」
「詳しくはエリオスが王都で話をしてくれるわ~、でも先に一つだけ言っておくと~……」
隣に座るメルの髪を撫でながら聞いてみると、にっこりと母さまは微笑みながら、ぼくとメルを見つめて話をしてくれた。
「私たちエルディア伯爵家は~、叙爵されて侯爵家になったみたいなの~」
「…………えっ?」
「先日のうちに叙爵式自体は王都で行われたそうだわ~、領地への正式な発表はこれからね~」
……?えっ……?叙爵……??
こ、侯爵……???た、確かすごく偉い貴族ですよね?
突然の話に言葉の意味がしばらく理解できなかった。頭の中が真っ白になるぼく。
「ええええぇっ!!?」
長い硬直の後、ぼくとメルが驚きの悲鳴をあげた。口がぱくぱくして体が震える。
こ、こ、こうしゃくうぅ……!?
父さま、しばらく会わない間に、王都で一体なにをしていたの……!?
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