第30話 アブナイ学者さん
一通りの騒動が落ち着いたあと、長いこと待たせてしまっていた調査団の面々を館へと案内した。形式的な挨拶や確認が済むと、広い応接室からは人払いがされ、フィオルナさん、母さま、そしてぼくの三人だけになった。
フィオルナさんは国内屈指の魔法の名門、南部貴族のアウレリア伯爵家の人間にして、魔法研究に人生を捧げた学者さんらしい。遠い先祖からエルフの血を引いている家系で、彼女はその中でも特に血が濃いみたい。先祖返りでエルフの特徴があるんだとか。
例外的に精霊や精霊魔法についてまで深い知識を持つようで、母さまの事も陰ながら支えてきた古い友人だったみたい。警戒してたけど、悪い人じゃないっぽい。
「さてさてさてぇ……!!」
そう言いながら、彼女は持ち込んだ魔法器具を次々と机の上に並べ始めた。高級そうな鑑定水晶、見たことのない金属製の枠、淡く光る符石、細い針のようなものまで。
「ちょ、ちょっと待って……?」
抵抗する暇もなく、鑑定水晶に手をかざされ、指先からほんの少し血を取られ、器具を覗き込まれる。何をされているのかさっぱり分からない。
血走った目に口元に浮かぶ恍惚とした笑み。「ウフフフ……」「ああぁ……」「素晴らしい……」など、ぶつぶつと呟きながら、カサカサと手を動かし続ける姿は、完全に危ない学者さんである。
どう見ても変人だ、とても怖い!
長い時間をかけて一通りの作業を終えると、フィオルナさんは机から顔を上げ――
「はーっはっはっはっは!!」
突如として、狂気すら感じる高笑いを響かせた。
「間違いない!《聖》と《闇》のマナが、完全に混じり合っている!」
「は、はぁ……?」
ついていけないぼくを置き去りに、彼女は続ける。
「相反する属性が拒絶し合わず、むしろ調和しているだと!?これは正に奇跡だよぉ!常識がひっくり返る!ああ、堪らないねぇ!!」
興奮したまま、がしっと両肩を掴まれる。
「きみを!もっと!研究させてくれないかな!?ねっ!?いいだろう!?」
研究……??嫌なんですけどぉ!ダメェ!
助けを求めて母さまを見ると、にこにこと優しく微笑んでいる。
「今日は提案をしに来たんだ!私が君の先生になろう!」
「えっ?」
魔法なら、母さまと一緒に楽しく学んでるもん――と思った、その時。
「魔法の理論と知識なら、この国で私の右に出る者はいないからねぇ!例えば《闇魔法》だ。この国では全く知られていないだろう?」
「あっ……」
言われてみればそうだ。母さまも、誰も、闇魔法がどんなものなのか知らない。
「精霊魔法と聖魔法はセレナから、 闇魔法の知識は私から学べばいい!」
おおお!それ、すごくよくない!?胸の奥で、わくわくが芽を出した。そんなぼくを見て、更にフィオルナさんは、勝ち誇ったように言った。
「ちなみに私はね、聖騎士学園の名誉教授でもある!《魔術科》の特別授業をしているのさ!」
「……えっ?魔術科……?」
魔術科ってなぁに?
ぽかんとするぼくに、得意げに説明してくれた。
「知らないのかい?聖騎士学園には《騎士科》と《聖騎士科》、そして《魔術科》があるんだ!」
魔術科ぁ!?そんなの、あったの?初耳だ!
「そこでだ!二年後、君が聖教学院に入学したらそちらに軸足を置きつつも、同時に私の授業を受けに来ないか!」
「えっ!?」
「二校併学だ!国内最高峰の教育を同時に受ける、特別待遇さ!君にはその資格がある!」
「ええぇっ!?」
そ、それって嬉しいけど、とても忙しくて大変そうじゃない?そう戸惑いながら言うと、彼女は言った。
「それで卒業時にはね、君は《聖職者》と《聖騎士》、二つの称号を得ることになるよ!これは名誉なことだぞ!」
「……っ!!?」
――せっ、聖騎士ぃ……!?ぼくが……!!?
聖騎士の称号、その言葉が耳と胸に落ちた瞬間、諦めてずっと心の奥にしまい込んでいた想いがぱっと火を灯し燻り始めた。脳裏に焼き付いた、父さまと姉さまの凛とした後ろ姿。守る者として整然と立つ、かっこいい騎士の姿。
考えるより早く、勝手に口が動いていた。
「や、やりますぅうーー!!」
大声で、即答してしまった……。
でも――苦しいほどの胸の高鳴りは、どうしようもなく本物だった。
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