第2話 元気な幼馴染
「騎士ごっこするわよ! あんた馬ね!」
「やだよ!」
「わがまま言ってんじゃないわよ! ほら、四つん這いになりなさい!」
「絶っ対やだ! お尻叩かないでってばぁ!!」
――朝から館の庭がうるさい。
甲高い声と笑い声が入り混じって、もはや鳥たちのさえずりより騒がしい。
使用人たちは「またやってるよ……」って苦笑いしながら通り過ぎていく。
騒動の中心にいるのは、ジェシカ・アルブレイン。
隣領の伯爵家の次女で、うちとは代々仲の良い家の娘だ。
つまり――僕の幼馴染。
長い赤髪を高く結んで、金の瞳をギラギラ輝かせる。
見た目はキリッとした美少女。……見た目だけならね。
中身は元気爆発、嵐のようなな暴れん坊。
うちの館に勝手に出入りして、気づけば一か月くらい帰らないこともある。
最終的に「ジェシカお嬢様ァ!」って悲鳴混じりに家人が迎えにくるのが恒例行事だ。
「ねぇステラ、アンリ姉さまのような騎士になりたいの! だから特訓に付き合いなさい!」
「これ特訓なの!? 僕ばっかり痛い思いしてるんだけど!?」
「訓練に犠牲はつきものよ!」
「やめろぉおおお!」
馬は尻を叩かれ玩具にされる。
でも、退屈はしないんだよな。ほんと朝から元気。
ジェシカはアンリ姉さまを心から尊敬している。
姉さまの剣筋を真似て、父さまにも剣を習い、毎日泥まみれで修行してる。
正直、あの情熱はすごいと思う。
父さまと姉さまは今、領の騎士団と森で遠征訓練中。
僕らはというと――その置き土産みたいにぽつんと留守番組。
「……寂しいなぁ」
「そ、そんなの私だって同じよ! だから遊んであげてるの!」
「“遊んであげてる”じゃなくて“遊んでもらってる”の間違いだろ!」
「うるさいっ!」
そう言いながらジェシカは雑草を引っこ抜き、「この駄馬がー!」と僕の口に突っ込もうとする。
やめろ! それ草! 食べ物じゃない!!
「僕は魔法の練習するから、ジェシカもやろ?」
「ひどいこと言うのね、いじめだわ! アンリ姉様に告げ口する!」
「なんでそうなるの!?」
僕は幼いころから母さまに魔法と薬学を習っている。
剣はからっきしだけど、魔法ならちょっと自信がある。
十一歳にして聖魔法の初級――
〈ライト〉〈ヒール〉〈キュア〉〈シールド〉〈ガードアップ〉を習得済み。
さらに初級ポーション類の調合までこなせる。
我ながら、なかなか優秀じゃない? ふっ。
……どう考えても聖職者コースなんだよなぁ。
一方のジェシカは火属性の持ち主で、剣も魔法も才能バツグン。
――なのに、問題はただひとつ。制御力ゼロ。
マナの出力が0か100しかなくて、実家の庭を火の海にした伝説を持つ。
なので魔法に苦手意識持ってるようだ。
ぼくの幼馴染はじゃじゃ馬で、泣き虫で、負けず嫌い。
でも、真っすぐで、いつも全力で努力する。
そういうとこ、ちょっと尊敬している。
ジェシカはいつだって、ちゃんと“前”を見てるんだ。
「仕方ないわね、じゃあ次は魔法合戦よ!」
「え、ちょ、待って、火の玉はやめろ! 本気で燃えるやつ!!」
「大丈夫よ! たぶん!」
「たぶんって言うなぁあああ!!」
今日もノルヴェルンの空は平和である。




