第27話 「聖女裁判」の真実
あの日――見える世界が決定的に変わった、精霊たちと出会った日から。
母さまの「ビシバシ」と呼ばれる特訓は、ほぼ毎日開かれるようになった。ビシバシとは名ばかりで、その実態は精霊とたくさん触れあいながら、楽しくお話をするお茶会です。うん、ずっとブレない。
「精霊とよく触れあい~、想いを感じ取ることが大事よ~」と、母さまは穏やかにそう言った。
だから母さまは、ぼくをよくこの庭園へ連れ出していたんだね。光の粒、淡い風、葉陰に揺れる温もり――今なら分かる。この庭園は、精霊にとってすごく安らげる場所なのだと。そして我が家の敷地には、館にも庭にも沢山の光の精霊たちが住んでいた。
その中で何よりも念を押されたことがある。精霊は信仰するものではなく”隣人”であり”お友達”だと、教えられた。精霊たちは、人の役に立って純粋に感謝してもらえれば、それが幸せみたい。
祈られ、崇められ、縋られる存在になると――それは精霊たちにとって重すぎて困っちゃうそうだ。
そして精霊の存在そのものが、この国でひどく扱いづらい話題と言うことを知った。王家と関係する一部の貴族を除いて、精霊の名を公に口にすることはほとんど禁忌に近いらしい。だからジェシカにも、メルにも、精霊のことは伏せることになった。
妹のメルティアは、ぼくと同じ“精霊の御子”だ。彼女の周囲には、今もたくさんの光の精霊が寄り添っている。まるで花冠のように、優しく誇らしげに。
「精霊たちはね~、とってもロマンチストなのよ~?」と微笑み、母さまは言った。精霊たちは、時と状況をとても大切にするようで、まだメルに姿を明らかにする”許し”は下りてないとのこと。
そうした時に、母さまは語ってくれた。“聖女”と“聖女裁判”のことを。
神話の時代に一人の”光の精霊魔法使い”が、このセレスティア聖王国を興した。そして彼女は“聖女”と呼ばれるようになり、信仰の象徴となった。そして以降の時代には”王家の血筋”の”光の精霊魔法使い”が聖女であると定められた。
大昔に数人の聖女は誕生したらしい。しかし争い事が渦巻き始めると、精霊は去り属性は枯れていき”聖女”は現われなくなくなった。六百年以上、現れていないらしい。
「聖女さまだったんですね?」とぼくが言ったときに、母さまが「半分正解~、半分不正解~」と答えたのは、母さまは王家の血筋などではなく、紛れもなく平民であったからだ。
しかしこの時代に生まれた”光の精霊魔法使い”である母さまは、数々の奇跡を巻き起こしてしまった。
――病や傷が癒え、枯れた畑に芽が吹き、争いが鎮まり、涙が笑顔に変わる。
国中の民は、熱狂した。最初は感謝だった、次は尊敬。やがてそれは、祈りへと変質していった。母さまの通る道に人が集まり、その影に触れようと手を伸ばし、涙を流して名を呼び、「聖女さま」と膝を折る者まで大勢現れた。
決定的だったのは――湖で起きた、あの出来事。
光の精霊たちが愛する母さまの役に立とうと頑張った結果、導かれ湖から落ちた時に“聖遺物”を水底から引き上げてしまった。それは神話の時代に聖女さまが使用していたと伝えられる“光の杖”。光の精霊が創り出した”精霊祝器”と呼ばれる宝物だったらしい。
この時、民の熱狂は大爆発した。
そして国中の民が、完全に母さまを“聖女”だと仕立て上げた。
一方で王家はというと……、数百年もの長い時の中で“聖女”をただひたすらに待ち焦がれ続けていた。王権を祝福し、国を一つに束ね、信仰という形なき力を正しく導く象徴を。
だから王家は言った。母さまは、「実は王家の血筋の人間であった」と。
古い系譜、失われた王族、秘された血筋――根も葉もない虚偽を、もっともらしい物語で塗り固めて。王家の宿願である我が国の信仰の象徴、”聖女”を手に入れるために。王家までもが母さまを”正統たる聖女”として囲い込もうとしたのだ。
民の熱狂を鎮め、王家の虚偽を正当化する為の場が「聖女裁判」。それが真実。
民の熱狂と王家の陰謀に、とっても困った母さまと光の精霊たち。しかしそんな「聖女裁判」さえも、父さまは王家を相手取り、叩き潰したらしい。
そして、母さまと精霊たち、そして家族が幸せに暮らせるようにこの平和な領地を築き運営している。母さま曰く、「きゅんってしちゃったわ~」らしい。
すごすぎない?父さま。
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