第26話 奇跡の領地
「ジェシカと狩りに行きたいと言ったときにね~、闇の精霊たちがすっごくはりきっちゃってね~、とっても狩りに行きたがっていたのよ~」
「ええっ!?」
ふわりと微笑む母さまの声は優しいけれど、その内容は……なかなか衝撃的だった。
「そ、そうだったの?」
「ええ~。頼りになるところを~、どうしてもあなたに知ってもらいたかったみたいなの~。だから許可したのよ~?本当に愛されてるわね~」
「そっ、そうだったんだ……」
「そのクマさんはね~、闇の精霊たちが連れてきちゃったみたいなの~。かっこいいところを見せたかったみたい~」
「えええぇっ!?」
胸が少しだけきゅっと締め付けられる。闇の精霊たちは――ぼくのことをこんなに想ってくれていたんだ。
闇の精霊たちは周囲をふよふよ漂いながら、黒紫の光をしゅん、と縮ませる。“怖がらせてごめんなさい”と、心で伝わった……かわいい……。
「精霊たちはね~、好きな人には~、できることは何でもしてあげようとするの~。周りが奇跡と呼んでしまうようなことでもね~」
「母さまがこれまで起こした奇跡も……?」
「そうよ~。光の精霊たちが私のことを思って~、色んなことをしてくれたのよ~」
その言葉の響きには、少しだけ懐かしさと、かすかな寂しさが混じっていた。
「そうだったんですね……」
「あなたが今日使った魔法はね~、闇の精霊魔法よ~。このこたちがちょっとやりすぎちゃったみたいだけど~」
「黒薔薇さん……」
そっと触れると黒薔薇はふわりと揺れて、黒紫の光をひときわ柔らかく灯した。叱られてしょんぼりする子どものようで……胸があたたかくなった。
「そういうことが、私にもたくさんあったわ~。でも今は光の精霊たちは人前でとても気を遣っていてね~、昔よりおとなしくなっちゃったの~。寂しいわ~」
「気遣うって……?」
「私がね~、大変面倒なことに巻き込まれちゃって~、困ってしまったのよ~。聖女裁判の時にね~。それで光の精霊はすごく落ち込んでしまってたわ~」
「……ああっ、話に聞くあの裁判ですね!」
「あの時のことも~、あなたにはお話する必要があるわ~」
母さまの表情が一瞬だけ曇った。
けれど次の瞬間には、いつもの笑みが戻っていた。
「それで光の精霊たちは小さい頃から、いつあなたの前に姿をみせるか慎重に考えていたのよ~?そんな時に闇の精霊まで現れて~、あなたにまみえる日は今日になっちゃったの~」
「色々とあったんですね」
「精霊たちはね~、強い欲望や権力や信仰~、揉め事や争い~、虚偽や私利私欲~、そして戦争〜……そういう人の“負の感情”と言えるものを、とても嫌うのよ~」
「そっ、そうなんですか!?」
「神話の時代には、“精霊の御子”――精霊魔法使いは何人もいたらしいわ~。でも人は争いの歴史を積み上げてしまって~、精霊は人々から離れてしまったの~。それが属性が枯れゆく、この世界~……」
「……っ!!」
「精霊が属性の加護を人に与えてくれるわ~。その精霊たちが居なくなってしまえば~、どこまでも枯れて貧しくなってしまうわね~」
心臓がどくんと跳ねた。
それは今まで知らなかった“世界の真実”だった。
「……ステラ~、私と同じようにあなたも王都に行く時には~、きっと国の争いごとに巻き込まれてしまうわ~。それがとても心配なの~」
「母さま……」
「この領地にいれば、全く気付かなかったと思うけど~。外はね……悲しいほど争いごとで満ちているのよ~」
「えええっ!?」
「逆に言うと私たちの領地は~、私と精霊たち~、そして家族のみんなを守るために~、エリオスが頑張って築いてくれた~、とっても穏やかで平和な奇跡の領地なのよ~?」
「父さま……」
母さまはにっこりと微笑んだ。
その笑みは、“母さま自身の優しさ”が生み出した、温かさだった。
ぼくは胸の奥が熱くなるのを感じた。
この家族の元に生まれたこと。
この領地で生きていること。
改めてこの奇跡のすべてに、心から感謝した。
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