第24話 見える世界
涙が頬を伝うほど優しく、胸の奥に灯がともるような温かな光を纏いながら、母さまは穏やかに言った。
「聖女さま~……それは半分正解で~、半分は不正解なの~」
「……えっ?」
「私は~、光の~、精霊魔法使いよ~」
「ひ、光の……精霊魔法使い……!?」
「そうよ~、それが”ノルヴェルンの奇跡”の正体」
母さまはいつものように、にこりと柔らかく微笑んだ。その笑顔の周囲には、優し気な光の粒が羽ばたくように浮き沈みし、見ているだけで胸が温かくなる。
「ほら~ステラにも~、もう精霊たちが見えるでしょう~?」
「……えっ?」
言われて潤んだ眼を拭き、母さまをしっかりと見つめなおしたその瞬間――
「わぁっ……!」
空気そのものが、光で満たされているようだった。
星の欠片のように淡い光をまとった小さな羽虫たちが、そこには沢山いた。よく見ると羽虫は虹色の透明の羽をふるわせ星屑を撒いていて、雫のような半透明の体に内側から柔らかな光の灯火を脈打たせている。
嬉しそうに飛び回っている――精霊だった。
「こっ、これが、精霊っ……!」
「私たちの館にはたくさんの精霊が住んでいるのよ~?」
母さまの頭から肩にかけては、まるで光の小鳥たちが巣をつくったみたいに、こんもりと精霊が群れていた。
そしてその山からひとつ、ふたつと飛び立った精霊たちは、庭園じゅうを駆けまわるようにくるくる舞いながら、花に触れればつぼみがぽん、と音を立てて咲き、葉を撫でれば光をまとって回転し、池の上では輪を描いて水面にきらきらの波紋を広げていく。
「特にこの庭園は~、精霊たちが住みやすいようにお手入れしているの~、小さな聖域ね~」
母さまが言うと、まるで「そうなの!」と返事をするかのように、精霊たちがぴょこんと跳ねるように光った。
「そ、そうだったんですね……」
「このこたちはあなたをね~、生まれた時からず~っと、見守ってきたのよ~」
「えええーっ!!?」
その声に応えるように、光の群れが一斉にぼくの方へ飛んできた。
「わあぁっ!」
まるで光の雨だ。
ふわり、ふわりと触れては弾むように舞い、ぼくの手にも肩にも頭にも――気づけば全身にしがみつくようにくっついてきて、ぱちぱちと光る星屑をこぼす。そしてぼくまで、母さまのように淡く光りはじめた。
「ふふふっ。あなたとこうしてまみえる日を~、ずっと楽しみにしてたのよ~」
言葉じゃなく、体で、心で、胸に温かく伝わる。
「ようやく会えた!」って、精霊たちが子犬みたいにはしゃいでいるのが、わかる。
「さて~、ステラ~?」
「は、はいっ!」
「今日からは~、精霊と精霊魔法のことも~、ゆっくり学んでいきましょうね~」
「……!!」
「ふふふふっ」
「わわわっ!?」
ふわり、と体が持ち上がった。
母さまの手も触れていないのに、石橋の上からそっと宙へ押し上げられるように浮かぶ。母さまも続けて浮かび、さらに庭園の隅から紅茶とお菓子を置いたテーブルと椅子が――精霊たちに押されるように、ふわふわと飛んできた。
な、なにこれぇ……!?
背の低い木の高さほどまで宙を浮かび、ぼくが飛んできた椅子にそっと着地すると、テーブルがふわふわ飛んできて、紅茶のカップがするりと滑って目の前に運ばれてくる。
「さあ~、ビシバシいくわよ~!」
椅子に座った母さまが満面の笑みで柔らかく光りながら言ったその瞬間、また一斉に精霊たちがきらきらと舞い上がり、まるで拍手するようにぼくの周りを柔らかな光と花びらで、祝福を包んだ――。
ぼくはちょっと、表情が引き攣った……。
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