第19話 闇の王は企てる
玉座に坐すリリスは、美しき闇の静寂そのものだった。
黒曜の王座に腕を預け、紅玉の瞳はただ一つ、空間に浮かぶ観測窓に映る少年ステラへと、ゆっくり吸い寄せられている。何百年ぶりに巡り合った宝を指先で撫でるような、静かな陶酔だった。
「…………ふふっ」
肩肘に頬をのせ、ワイングラスを優雅に揺らす。その表面が美しく波紋を描いた。
「…………たまには、こういうのもいいんじゃない?」
「何をカッコつけてるんですか?もう手遅れですよ」
ベルリッタの無慈悲な声が、リリスを一刀両断した。
「毎朝ひぃんひぃんと地べたを転がって、まあぁ。這いずり悶える芋虫のようですよ?リリス様」
「ちょ、ちょっと!? 雰囲気壊すのやめてくれる!?」
玉座の前に浮かぶ空間の窓には、ステラとジェシカの姿が映し出されている。黒薔薇が花吹雪を舞わせ、その中心で嬉しそうに叫ぶ少女。彼女の熱はリリスにも届いていた。赤毛の美しい少女の瞳は澄んで、真っ直ぐで夜空から見上げた一番星のようだった。
「……あの娘。まっすぐで、とても綺麗ね。黒薔薇を美しいって言ったわ。あれは欺瞞のない心よ。ああいう娘は好ましいわね」
リリスは静かに微笑んだ。
「ステラくんに抱きついた時は、殺意で空間が軋んでましたけどね?」
「…………」
そんな言葉を、ぷいっと聞こえないふりをしたリリス。
立ち上がり胸に手をあて、まるで恋に落ちた惚けた顔で呟く。
「ステラくぅん、そろそろぉ、私たちぃ、次の関係に踏み出すべきだと思うのぉ」
「はいはい」
ジロッと睨むが、「またバカな事をいいだすんでしょ」とメイドは余裕で辛辣だ。
「私は真剣よ!私がどれほど愛深く、そして頼りになる女か、示したいの!」
「で、どうするんですか?」
「……えっ?」
「ノープランなんですね?」
「ちょっと! わ、私だって考えてたわ――?えっとぉ?」
しかし言いかけた言葉は、途中で止まった。紅い瞳がゆっくりと細まる。夜が息を潜めるような気配が玉座の間に落ちる。長い長い静寂の後、リリスの紅い瞳に知略の光が宿り、ささやく。
「……こうしてぇ、ああしてぇ。不安にさせてぇ、私を頼らせてぇ……」
「それはマッチポンプと言う、いにしえの軍略です。たまには賢いですね?リリス様」
さりげに貶されてることにも気ずかずに、リリスは胸を張ってふんす!と鼻息を荒くすると、にやりと口を歪めた。
「面白そうですね」「でしょう?」と、イタズラが大好きな彼女たちはくつくつと笑う。両手を頬に当てくねんくねんと夢見心地である。無邪気な笑顔で自信満々に胸を張るその姿は、どこまでも危うい。
こうしてリリスによる迷惑な物騒作戦が、静かに幕を開けたのだった――。
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