第15話 闇の王は篭絡する
あの日、魔王リリスが世界にバラ撒いた“闇の種”の一つは、
はるか彼方、北方の丘にたどり着き、やがて黒薔薇として花開いた。
黒薔薇を媒介に意識を同調させたリリスは、蠢く人間どもを見下ろしながら、
紅玉の瞳を細め、ぺろりと艶やかな唇を舐める。
《さて……この地の人間ども、どのように嘆き叫ばせてやろうか……》
その時だ。
丘の向こう、ひょこりと姿を見せた幼子に、一度は無関心を装い視線を流した。
《……子供か。己の不運を呪え、人間──、……っ!!?》
幼子の容姿が完全に視界に入った瞬間、リリスの思考は焼き切れた。
白銀のふわふわした髪。
宝石を散らしたように澄み渡る大きな瞳。
つぼみのように可憐な唇。
小柄でありながらも洗練された輪郭に、気品すら漂わせる肢体。
その純粋無垢の化身は、まるで雪解けの天使が人の姿を取ったかのようで──
《こ、こ、こ……こんな、可憐すぎる女子が……現実に……?》
魔王、固まる。
女子はトコトコと近づき、薔薇の前で立ち止まると──
「うわ……きれい……」
ぱちぱちと長い睫毛を瞬かせながら、黒薔薇の花弁を顔を伸ばしてじっと眺めた。
その無防備で、天真爛漫で、あまりにも美しすぎる容姿に、
《近寄るな!いや来い!やっぱ来るな!こっち見ないでえぇ!》
リリスの処理能力は限界突破した。
そして女子は、きゅっと小首をかしげ──
「……きみ、いつからそこにいたの?」
《か、可愛すぎりゅうぅぅぅ!!!!!》
リリスは完全終了した。
「すごくきれいだねぇ」
女子はにこにこしながら言った。それまではまだいい。
次の瞬間、突然、忌まわしき聖なる光が黒薔薇に、
そして同調しているリリスにぶち込まれた。
《ア”ァ”ッ!!???》
全身に走る強烈な拒絶反応。
忌々しい聖の波動が神経一本一本を逆なでし、
魂を氷針で突かれるような怖気が弾ける。
《……ア”ァ”アアァッ……!?…アアアアッ、この感覚……こ、これはァ……!?》
しかし──その怖気はすぐに形を変えた。
嫌悪と快楽が混ざった“得体の知れない刺激”が脳髄を焼き、
リリスの身体をくねらせ、膝を震わせ、知らぬ声を情けなく漏らさせる。
女子はそんなリリスを知る由もなく、
「またくるね」
とにこっと無邪気に告げ、トコトコ帰っていった。
《は、はぁ……な……なにを……し、おって……あの天使……?》
リリスは荒い息をつきながら、その場に崩れ落ちた。
その日から、美しき女子は毎朝現れた。
聖水をばっしゃぁ!とぶっかけ。
聖光をぴっかあぁ!と浴びせ。
その上、優しくその身を隅まで撫でまわされる。
そして「今日もきみはきれいだねぇ」などと、
その純粋無垢な容姿で目をくりくりしながら、
耳元で囁いてくる極悪さ。
くる日も。くる日も。くる日も。くる日も。くる日も。くる日も──
魂が粟立つような強烈な刺激に、魔王リリスは──すぐに、悦びを覚え始めてしまう。
《あっ……ああ……、もっ、もっとおぉ……っ!》
“聖なる調教”とも呼ぶべき日々が繰り返されるうち、脳が焼かれ篭絡したリリス。
千年積み上げた憎悪の炎は徐々に鎮められていく。
それどころではないのだ。
美しき女子の一挙一動に、完全に心を奪われてしまった。
そんなある日。
いつものように転がさられてる時に、女子が純真無垢な笑顔で言った。
「ぼく、ステラっていうんだよ」
《………お、男の娘おぉぉ!?》
こうして天地がひっくり返る思いをした魔王リリスは、
誰にも知られぬうちにステラに“清められて”いくのであった。
魔王さま、チョロイン。
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