表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒薔薇の聖騎士 ー光より来りて闇を抱くー  作者: 霞灯里
第1章 黒薔薇の咲く丘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/47

第9話 初めての患者さん

「うわあああっ! 閉めろ閉めろ! 本日の祈りは終了ですっ!」

「もう無理ですっ、限界です神父様ぁー!」


騎士たちに護られながら母さまと教会へ入った瞬間、

分厚い扉が「ドンッ」と閉じられ外のざわめきが途切れた。


ばたん、と同時に神父さまが反動で後ろに倒れ込んだ。

白髪混じりの髪は乱れ、額には汗。息を切らせ、地面に大の字。


「は、はぁ……っ! 今日も……あんな人数……っ!まるで……まるで聖戦の後みたいじゃないですかぁぁ!」


シスターたちが「神父さまー!」と駆け寄る。

神父はそのままごろりと天井を見上げて、両手を広げ白目をむいた。


「もうダメですぅ……! 限界ですぅ……!」


母さまは、そんな神父を見下ろして、軽くため息をついた。


「また増えたのね~」

「ふ、増えたどころの騒ぎじゃ……! 今日なんて広場まで長蛇の列でして!

どうか……! どうかあなたさまは、お勤めなどなさらずとも結構ですっ! 本当にっ!」


神父さまは涙目で叫び、がくりと崩れ落ちた。

母さまは困ったように、それでもやわらかく笑っていた。

ぼくは先ほどの一幕があまりに衝撃的で頭が回らない。


 

「こっちが、祈りの間。向こうが、患者さんを癒す場所ね~」

母さまが優しく説明してくれる。


大聖堂の内部は、外の熱気と違い、ひんやりとした静寂に包まれていた。

最初に通されたのは、大きな広間。

正面には聖堂へとつながる重厚な扉があり、

左手には“医院”と呼ばれる部屋へ続く廊下が見える。

右手の扉は事務局と、聖職者やシスターたちが暮らす宿舎につながっているらしい。


白い壁にかけられた古い絵画、燭台にともる小さな火、漂う薬草と香の匂い。

静謐な空気が肺を満たす。


そこへ扉が開き、一組の母子がシスターに連れられて入ってきた。


「お怪我をされたのですか?」

神父が立ち上がり、母子に駆け寄る。


母親は焦ったように息を整えた。

「外の人混みで……押されてしまって。この子が転んで、腕と足を少し……」


少年の袖と裾から血が滲み、涙目で母親の服をつかんでいる。

その視線がふと、母さまに向けられた。


――そして、ぴたりと止まった。


「……っ」

母親も少年も、まるで時間が止まったようにその場で固まり、

次の瞬間、両手を胸の前で組んで祈りの姿勢をとった。


「聖女さま……」

「すみません、お邪魔してしまいまして……!」


母さまは微笑みながら首を振る。

「いいのよ~今はその子を看てあげましょう~」


神父がと小さく息をのむ。

「い、いけません奇跡さま! あなたさまは手を出さずとも……!」


母さまが僕を見て軽くウインクした。

「ステラ、今日は訓練の日でしょう?」


母さまは母子を診察室へ導くと、少し離れたところから視線を送った。

「落ち着いていつも通りに魔法を使えば大丈夫よ~」


僕は一瞬、息をのむ。

初めての患者さん。


小さくうなずき、少年の前に膝をついた。

浅い傷口。けれど血が流れ、肌が赤く腫れている。


「だ、大丈夫……?ちょっと看させてもらうね」

そう言って掌をかざす。

指先にじんわりと光が集まり、やがて柔らかく少年の腕を包み込んだ。


「ヒール」


白く透き通る光がゆらめき、傷口に花弁のような輝きが散る。

血が引き、皮膚が滑らかに閉じていく。


「……あっ」

少年は目を丸くして、自分の腕を見つめた。

「すごい、痛くない!」


母親は息をのんでぼくたちに頭を下げた。

「ありがとうございます、聖女様の……お嬢様なのですね……!」


さっきの同じ、二人とも満天の笑顔。

僕は頬を赤らめ、少しだけ嬉しくて誇らしい気持ちになる。


でも、ぼくは男の子なんです~。

 

母さまはとっても嬉しそうに微笑んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ