表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/100

第六話    密教僧VS魔法使い①

「はあ? 俺をどうするって?」


 ジャイロは調伏(ちょうぶく)の意味を知らないのだろう。


 調伏とは、己の心身を整えて相手の悪行を制することだ。


 そして空心は、ジャイロの非道な行いをここで食い止める意味合いで口にした。


「ま、まあ何でもいいさ……おい、ハゲ野郎。こ、この魔族である俺に無礼を働いたんだ。楽に死ねると思うなよ!」


 ジャイロの全身から陽炎のような威圧感が放たれる。


 嘘ではないのだろう。


 ジャイロは自分を殺すつもりだ。


 だが、殺意とは別の感情もジャイロからは感じられた。


事難(ことかと)うして、(まさ)に見る丈夫(じょうぶ)の心」


 空心は冷静な顔で言い放った。


「仏教の言葉で〝困難な状況に陥ったときこそ、その人間の実力がわかる〟という意味です。ジャイロさんと言いましたね。あなたは私に恐怖を抱いている」


「――――ッ!」


 ジャイロの表情が一変した。


 片目をピクピクとひくつかせ、「うっ」と言葉を詰まらせる。


 図星を突かれたという顔だ。


 ジャイロは確かに恐れを感じている。


 だが、それは空心自身よりも光明真言の力に対してだろう。


 それはジャイロの言動からわかる。


 どうやら光明真言の力は魔法の力とは一線を画すようだ。


 空心は錫杖を軽く振って「シャリン」と音を鳴らす。


「恐怖を感じるのは動物としての本能。それがまだ働いているのなら、自分の行いを反省して責任を取るべきです。まずはあなたが傷つけた人たちに相応の賠償金を支払い、その後は司法機関に赴いて自首しなさい。この国にも罪人を取り締まる法律と組織があるでしょう? そこで己の罪状をすべて告白し、しかるべき刑に服しなさい」


 それで極刑になったのなら、それはジャイロの自業自得だ。


 むしろ村の被害を考えると極刑以外にはないだろう。


 などという空心の考えは甘かった。


「何を言い出すかと思えば……クズどもに金を支払え? 反省しろ? 責任を取れ? 法律? ばーか、この国は魔族の俺たちが法律なんだよ!」


 空心は眉間に深くしわを寄せる。


「この国の現状や俺たち魔族のことを知らないってことは、てめえはこの国に来たばっかの異邦人だな。それも顔つきや服装からして東方の国の僧侶か。どうりでクレスト教のクソ坊主みてえな説教を吐きやがるはずだ。胸糞悪い」


 ジャイロは怒りに任せて地面を蹴る。


 一方の空心は冷静な態度を崩さない。


「反省する気も責任を取る気もないのですか?」


「だから何度も言わせんな! この国では俺たち魔法が使える貴族が法律だ。もちろん、俺たち魔族以外を信仰するのも禁忌。この村の連中もそうだ。禁止した女神セレスなんてアバズレを未だに信仰しているって情報を得てな。だからこそ、この俺が直々に成敗しに来たんだ」


「自分たちが信じる神を崇拝する。それだけで殺生を行ったと?」


「ああ、そうだ。女神セレスだろうが土着の神だろうが、この新生セレスティア王国において国王になられたカルマさまが制定した法律を破るのは重罪。女子供だろうと死刑にしていいのさ。それに泣き叫ぶクズをいたぶって殺すのは気持ちがいいからな」


 これには空心も言葉を失った。


 一度はジャイロのことを悪鬼と決めつけたものの、司法の手に委ねようとしたのはジャイロをまだ人間として見ていた部分があったからだ。


 けれども、やはりジャイロは人間の形をした悪鬼だ。


「私の考えが甘かった。悪鬼はやはり悪鬼。これ以上の犠牲者を出さないため、私はあなたを全身全霊で以て調伏する!」


 空心は錫杖を地面に突き刺し、胸の前で合掌をして光明真言を唱えようとした。


「させるかよ!」


 光明真言を唱えるより早く、ジャイロは杖を突きつけてくる。


「燃え囲め――〈炎囲(フレイム)(・サークル)〉!」


 杖の先端から巨大な炎の蛇が出現。


 その炎の蛇は意志があるように動き、瞬く間に空心の四方を取り囲む。


 ゴオオオオオオオオオオオ――――ッ!


 それは燃え盛る紅蓮の結界だった。


 外の脅威から身を護るのではなく、結界の中にいる生物を炎滅させる魔法の炎。


 アリが這い出る隙間もない。


 空心は炎の結界に閉じ込められてしまった。


「あははははははッ! これでてめえは一貫の終わりだ! 俺の〈炎囲(フレイム)(・サークル)〉からは絶対に逃げられねえぜ!」


 ジャイロは馬に飛び乗ると、馬上から空心を見下ろして高笑いする。


 空心は肌をチリチリと焼くほどの熱風にひたすら耐えた。


 それでも額からは熱による大量の汗が流れ出てくる。


「どうだ、クソ僧侶。どれだけ偉そうなことを並べようが、こうしてジワジワと焼かれていくのは怖えだろ? 怖えなら命乞いしてみろ。その場で土下座して「申し訳ありません、魔族さま。どうか哀れな私を助けてください」と泣き叫べば、俺の気が変わって生かしてやるかもしれねえぜ」


 村人たちが固唾(かたず)を飲む中、空心はジャイロを睨めつける。


「真言宗の修行の中に護摩行(ごまぎょう)というものがあります」


「あん?」


 空心は錫杖を振ってシャリンと音を鳴らす。


「数メートルも炎が燃える護摩壇(ごまだん)の前に座し、ひたすら真言を唱えて参拝される方の煩悩や厄を護摩木(ごまぎ)をくべながら行う苦行の一つ。その聖なる炎の熱さに比べれば、あなたの放った邪な炎の熱さなど微風と同じ」


 そうは口にしたものの、魔法の炎によって空心の体力は徐々に消耗されていく。


 しかも炎は意志があるように少しずつ狭まってくる。


 このままでは本当に焼き殺されるだろう。


 では、ジャイロに謝罪して命乞いをするべきか?


 断じて否である。


 たとえ焼き殺されようが、あのような悪鬼に生をゆだねるなどできない。


 とはいえ、四方を包んでいる魔法の炎は強力だ。


 一瞬、【韋駄天】で無理やり炎の中を突っ切ろうとも考えたが、すぐに空心は嫌な予感を覚えて実行に移すことをやめた。


 根拠はないが、自分を取り囲んでいる炎は魔法によって顕現されたものなのだ。


 普通の炎と違って、うかつに接触すれば火傷以外にどんな被害が出るかわからない。


 だとしたら、自分のやるべきことは真言を唱えることだ。


 こうしてジャイロの関心が自分に集中していれば、村人たちは自分たちの逃げる隙を見出せるだろう。


 中には瀕死だった赤い髪の少女を連れていく心優しき者も絶対にいるはず。


 そんな村人たちに逃げる隙を与えるため、自分はここで真言を唱えて時間稼ぎをする。


「オン・アビラウンケン・ソワカ」


 空心はさらにジャイロの気を引くため、大日如来の真言を唱えて全身に黄金色の光をまとわせた。


 そのときである。


 頭の中で「チーン」とおりんの音が鳴った。


『長峰空心の真言徳位(マントラ・レベル)が上がりました。火神(かしん)・【火天(かてん)】の力が使用できます』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ