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第十三話   冒険者ギルドでの対決

「私はあなたを調伏する」


 空心は魔兵と名乗った大男――ゴンズに向かって宣言した。


 そしてゴンズはマリアからの話によると、魔族の先兵のような存在で魔法は使えないという。


 ならば調伏するという表現はいささか大袈裟だったかもしれないが、ゴンズは魔法が使えない代わりにマリアと同じく〈異能(スキル)〉が使え、過去に冒険者ライセンスを剥奪されたほどの凶悪犯らしい。


 確かにゴンズの傍若無人ぶりは目に余るものだった。


 外にまでギルドのスタッフを吹き飛ばすほどの腕力。


 顔中を殴りつけた残虐性。


 マーカスという男性スタッフは薬師如来の力で治療したが、圧倒的な暴力を受けた者は心に恐怖という名の(くさび)を打ち付けられる。


 現にマーカスは怪我が治ったというのに、ゴンズの暴力に怯えて未だに外で怯えている状態だ。


 空心はキッとゴンズを睨みつける。


 他人の心に恐怖と悪意を植え付ける者は僧侶として見過ごせない。


「クウシンさま、相手は腐っても魔兵です。あまり公の場で騒ぎを起こしては何が起こるか……」


 後方からマリアの声が聞こえる。


 わかっている。


 魔兵やゴンズのことはマリアから聞いていたので、魔族に顔を知られている自分たちが公衆の面前で魔兵と争うということは、自分たちの正体と居場所を魔族に知られる恐れがあると言いたのだろう。


 空心も僧侶となって二十年以上の経験がある。


 かつて住職を務めていた福徳寺には厄除けや無病息災、商売繁盛や亡くなった人をさらに供養したい人たちが護摩行ごまぎょうを求めに訪れてきた。


 中には悪縁を断ち切りたい人や、これまで自分が行ってきた悪行を浄化したい願う特異な人たちも少なからずいた。


 世間では、元犯罪者と呼ばれていた人たちだ。


 ゆえに空心は相手の目を見れば、その人間の今の悪人度合いが何となくわかる。


 いわゆる慧眼(けいがん)だ。


 空心は長年の修行によって、その慧眼(けいがん)が常人よりもはるかに抜きん出ていた。


 なので空心にはゴンズの人柄が瞬時に見抜けた。


 もはや更生の余地がないほどの極悪人だ。


 取り巻きと見られる小柄な男二人も相当な目の濁りをしていたが、ゴンズの目の濁り方は尋常ではなかった。


 あのような邪悪な濁りをした目の人間は、エルデン村で逃してしまったジャイロと同等かそれ以上だ。


「おい、答えろよ。この魔兵のゴンズさまをどうするって? まさか、この俺さまと闘いてえのか? いいぜ、受けて立ってやるよ。ただし、喧嘩を売ってきたのはてめえだ。この場合、俺さまがてめえをこの場で殺しても何のおとがめもねえ……まあ、俺さまのことを名ばかりの憲兵に告げ口する奴なんていねえだろうがよ」


 悪人を絵に描いたようなゴンズは「がはははは」と高笑いする。


 そんなゴンズを見て、ホールにいた大勢の冒険者たちは悔しそうな顔をした。


 顔を逸らす者。


 下唇を噛み締める者。


 顔を下に向けて視線を外す者。


 全員ともゴンズに手を出せばどうなるか知っているのだろう。


 ゆえにゴンズが悪行を働いたとしても、ゴンズの上にいる魔族を恐れて誰もが口を閉ざしてしまう。


 まさしく、悪の連鎖だ。


 このような連鎖は僧侶として断ち切らなければならない。


「私は僧侶。祈ることが専門で闘うことはいたしません……ですが、相手が人の皮を被った魔の者ならば話は別です」


 空心はずいっと一歩前に出る。


「オン・アビラウンケン・ソワカ」


 静かに大日如来の真言を唱えるや、空心の丹田から全身にかけて黄金色の光が渦のように包んでいく。


 最初はこの黄金色の光が視えるのは自分だけと思っていたが、道中でマリアから話を聞いたことで以下のことがわかった。


 この黄金色の光の圧力を感じ取れる者がいる。


 マリアなどの〈異能(スキル)〉持ちだ。


 そしてゴンズもマリアと同じ〈異能(スキル)〉持ちだったことで、空心の力の圧を明確に感じ取ったに違いない。


 それはゴンズの表情が一瞬で険しくなったことで窺い知れた。


「……てめえ、只者じゃねえな。まさか、俺と同じ〈異能(スキル)〉使いか?」


 ゴンズがつぶやいた直後、ホール内がざわついた。


「あいつも〈異能(スキル)〉使いだって?」


「嘘だろう?」


「あんな奴は知らねえぞ」


 と冒険者たちが口々に騒ぎ始める。


「うるせえんだよ、クズども! 黙りやがれ!」


 怒声一閃。


 傍観していた冒険者たちは一斉に口を閉じる。


 一方、ゴンズは「まあいいさ」と鼻で笑った。


「てめえがどこのどいつで、どんな〈異能(スキル)〉を持っていようが関係ねえ。俺さまがぶっ殺してやるぜ」


 ゴンズはその場でシャドーボクシングのような動きを見せる。


 鎧をまとった体格からは信じられない速さだった。


 まるで軽量級のボクサーを想起させる俊敏さだ。


 そんなゴンズを見据え、空心は目眉を細めた。


 よく見るとゴンズは完全な素手ではない。


 拳頭の部位を金属で保護するようなグローブを付けている。


 ゴンズはニヤリと笑う。


「くくく、俺さまの機敏な動きに恐れをなしたか? でも、こんな動きは序の口だぜ……見やがれ、これが俺さまの〈異能(スキル)〉――【瞬発】だ!」


 そして空心とゴンズの闘いの火蓋が切られた。

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