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【電子書籍発売中】誰のための幸せ  作者: 中村 猫(猫の名は。)
27/28

【電子書籍化決定記念】番外編①

この作品が電子書籍化することになりました。詳細はまたお知らせしますが、そこでしか読めない書き下ろしもがんばりますので、よろしくお願いします。

 ドロシーは、最近ようやく忙しい恋人に合わせて休日を取ることを覚えた。

 とはいえ、お互い忙しい身なので、それほど頻繁に会うわけでもないが、それでも今まで以上に親密な関係にはなっている。

 今までは行きたい場所もなかったので休みの日でも皇宮からあまり外に出なかったが、最近はノアと一緒に散歩に出かけたり評判の良い劇を見に行ったりと、それなりに充実した日々を送っていた。




「お兄様はドロシーを独占しすぎよ!たまには可愛い妹に親友を譲ってちょうだい」


 ドロシーの休日を兄に取られたフレデリカが兄に直接抗議した結果、今日はフェレメレン侯爵邸にドロシーを連れて来ることになったらしい。

 いつも通り迎えに来た馬車の中から出てきたのがノアではなくてフレデリカだった時は驚いたが、フレデリカのいたずらが成功した満足そうな顔に、ドロシーはその場で笑ってしまった。

 フレデリカと二人で乗る馬車は久しぶりで、フェレメレン侯爵邸に到着するまでの間、二人でずっとおしゃべりをしていた。

 ノアは侯爵邸で置いてけぼりになっていたらしく、ドロシーを連れて帰った来たフレデリカに軽く文句を言った。


「フレデリカ、俺だって久しぶりにドロシーに会えたんだぞ」

「お兄様は、いざとなったら皇宮で会えるでしょう?」

「仕事中だ」

「……図書室近くの廊下で会っていたのでしょう?」

「……あれも仕事中のことだ」


 一応、という注釈は付くが。

 兄妹のやりとりをドロシーはくすくす笑いながら見ていた。

 最初の頃はどちらかが本気で怒っているのかと思ったが、これがこの兄妹の通常のやりとりなので、今は安心して笑って見ていられる。


「そうそう、ドロシー、長期休暇って取れるの?」

「長期?えぇっと、さすがにそれは皇妃様に聞かないと分からないけれど、どうしたの?」

「ドロシーって帝国から外に出たことはないんでしょう?お兄様と一緒に帝国の外に行ってみたら?」

「帝国の外?」

「そうよ」


 確かにドロシーは帝国から外に出たことがない。それどころか、帝都から出ることも滅多にない。

 帝都から出たのも、最近だと皇妃の視察について行った時くらいだろうか。


「どこか行きたいところはない?お兄様が喜んで連れて行ってくれるわよ。ね?お兄様?」

「もちろん。ドロシーが行きたいところに連れて行くよ」


 俺の妹、何だかんだ言って最高だった。

 少し前にドロシーが他の国に行ったことがないと言っていたので、どこかに連れて行ってあげたいという話をしたところだった。急に話を振った感じにはなったが、ドロシーの行きたい場所を聞くちょうどいい機会だ。

 ノアは宰相室に入る前に主要な国は見て回ったし、フレデリカも他国にいる親戚の家に遊びに行ったことがある。

 今は戦争もなく比較的平和な時代なので、各国の交流が盛んになっていて旅行も安全に行ける。


「ドロシー、遠慮しないでどこか行きたいところを言ってみて?お兄様には我が儘を言っていいんだからね」


 フレデリカに言われてドロシーは少し考えてから、ぱっと顔を上げた。


「そうですね……フレストール王国に行ってみたいです」

「フレストール王国?いいわね」

「西大陸最大国家で女王陛下の治める国を見てみたいんです。いつもノア様にいただく美味しい紅茶の国でもありますし」

「紅茶文化は確かにあちらの方が発展してるかな。そうか、フレストール王国か……」

「お兄様?何かご不満でも?」

「いや、実は帝国に勧誘したかった人物があちらの王国に行ったらしくて手紙が来たんだ。まぁ、あいつの事情は理解しているから仕方がないが……」


 かつて帝都の学園で出会った友人は、小国の伯爵家の嫡男だった。

 彼の妹の身に起こった事件は痛ましいもので、もし彼の国が帝国に近かったら絶対に一家で帝国に来てもらっていた。

 けれど、彼の一家は爵位を親戚に譲ると、妹と一緒に彼女の嫁ぎ先である王国に行ってしまった。

 どうもそこで騎士として働いているらしい。


「そうだな、久しぶりに会いに行くのもいいかもしれない。ただ、ドロシーは船は大丈夫なのか?」

「乗ったことがないので、何とも……」


 噂に聞く船酔いというのは、ひどいと胃の中の物が全てなくなってしまうと聞いている。

 せっかく海の上にいるのに、船酔いになってしまってはぐったりしているだけの旅になってしまう。


「……こればかりはなぁ……乗ってみるしかないかな。行くとしたら大きな客船を使うから、小さな船よりは船酔いしにくいとは思うんだが……」


 まぁ、なる人はなってしまうので、体質として諦めてもらうしかない。


「ですが、色々と忙しいのですぐにというのは無理だと思います」


 ドロシーだって行ってみたい気持ちはあるが、さすがに船に乗って行くとなると向こうでも滞在時間も含めて三週間くらいは休みがほしい。今すぐに、なんていうのは無理な話だ。


「……一応、すぐに休暇が取れる策はある」

「どんな策ですか?」

「新婚旅行」

「…………はい?…………」 


 ノアの提案にドロシーの思考がいったん停止した。

 しんこんりょこう……新婚りょこう……新婚旅行?

 それって都市伝説じゃないの?だって、一度目の結婚の時は、そんな行事なかったし。

 ドロシーの頭の中で、新婚旅行という文字がぐるぐると回った。


「……し、新婚旅行、ですか?」

「そう。俺とドロシーの」


 ノアとドロシーの新婚旅行……。

 破壊力抜群のその言葉に、ドロシーの顔が一気に赤くなった。


「あら、いいわね、お兄様、すぐに新婚旅行に行くべきね」


 さらにフレデリカが追い打ちをかけてきたので、ドロシーは顔を赤らめたまま下を向いた。

 新婚旅行に行くということは、当然、結婚したという大前提があるわけで……。


「ごめん、冗談だよ。でも、いつか新婚旅行に行く時は、フレストール王国に行こう」

「……はい……」


 どきどきと心臓がうるさく音を奏でている。その音が聞こえてしまわないかと心配になりながらも、ドロシーは小さく返事をしたのだった。


 

 

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― 新着の感想 ―
 婚前旅行でいいじゃないか。  大型のフェリーに乗ったことありますが、たらふくメシかっ込んでも平気でしたね。まあ、高校生の頃だけども。
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