第32話 まだやるの?
散々にベル姉さんとルネをオカワリしまくった翌朝。
姉妹揃ってグッタリ状態。
こんな時にHPポージョンをガンガン飲ませるのも俺くらいじゃないのかな。
しかも作っている張本人にそれを飲ませるというね。
矛盾かな、まあいいか。
二人には本日は真面目にポージョン工房で働いて貰うとして。
リタを侍らせておこうかとも思うけれど、今だと饅頭工房の現場監督でギルド工房にも顔を出していて忙しい。
そうなるとアリッサになるけれど、光属性のポージョン生産を止めてもいいのかと。
今更かな。
ポージョンなんて知ったこっちゃねぇ。
うん、アリッサと愛欲に溺れていよう。
そういう訳で、アリッサとイチャコラしていようと思ったら。
けっ、また来やがった。
「また、野牛狩りに行って頂けませんか?」
「やだよ」
「でしょうな」
「じゃあ、そういうことで」
「・・・」
執事氏がやって来て、また野牛狩りに行ってくれって。
神殿からの依頼で獲って来た牛肉を、神殿に渡したら他の街の神殿にも回してしまって結局はこの街の神殿の備蓄が不足しそうだと。
何考えてんだろう??
巫女長という婆様が自分達の在庫が出来たと神殿本部に連絡したら、周りの地域の神殿にも回せないか?という話になって、あっさり回してしまったそうだ。
信徒同士は助け合うのが当然で、困っているのなら食材を渡して当然らしい。自分の所の炊き出しの肉が足りなくなるなら、食材を得ることが出来る人間がそれを行うべきなのだと信じているらしい。
なんでイチイチ領主様が相手にしているのかと言えば、領内の貧困層が冬を超えられずに餓死する可能性が高まる。それ自体は領主サイドとしては好ましくない。
そうかといってこのままだと付近の神殿を全部食わせないとダメという事になってしまいそうだよな。
「今までどうしてたのさ?」
「冬場には相応の死者が出ていました」
「詰まる所では詐欺だよね。
神殿に炊き出し用の肉を預けたら、他所に渡してしまってこの街では食料不足になりましたと。それは食材を横流しした奴が大犯罪者ってことじゃないの?
神殿の巫女長がこの街の為の肉を自分の勝手な判断で他所に渡しましたというのなら、 この領地からするとそれは完全に横領じゃないの?
領主様からカネを預かっていたけれど、他所の領民が困っているからとそのカネを使ってしまって無くなりましたというのと同じでしょう。
じゃあ、その犯罪者をどうするの?
責任者を放置しておいて、尻拭いだけ現場にしろって話じゃ論外だよね。
どうすんのさ?その辺のことは?
神殿を横領犯だと告発して処刑でもするの?それとも領外に追放するの?」
「それは領主様のご判断ですな」
「うん、だから俺には関係ないよね?
商人の俺に仕事で行けというのなら、クソ寒い時期の割増しで10日拘束2.5億ソル。万一1日増えるなら都度5千万ソルの追加。免税で報酬を寄こしてくれ。そして指揮権はこちらで貰う。余計な誰かの指揮なんて御免だ。
そして獲物の保障はしない。出来る筈が無い。
3泊4日で狩りに出て3日休養のペースで平均的に2億ソルくらい稼ぐのだから、冬季割増で2.5億ソルは妥当だと思う」
「わかりました、領主様にご報告してご判断を仰ぎます」
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(領主館)
領主:「アレの申し分は分かった」
執事氏:「クエストのギャラとしては2億ソルが妥当でしょう」
領主:「しかし、2億も出せんぞ。それならこちらで炊き出しをした方がマシだ」
執事氏:「騎士団だけで狩りに行かせるのは些か危険かと」
領主:「冒険者ギルドに3千万ソルも出して狩りに行かせてしまえ。どうせ死んでも困らぬ」
執事氏:「かしこまりました。して、神殿へはいかがいたします?」
領主:「しかるべき対価の請求を王都の神殿本部に出せ。出さぬのなら当地の神殿長の生爪を剥いで追放すると伝えろ。勝手な事をしおって、神殿に舐められてたまるか!」
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(数時間後の冒険者ギルド)
冒険者A:「ヲイ、CかDランカーを5日拘束で50万ソルだってよ」
冒険者B:「バカだな、それって死にに行くようなもんだぞ」
冒険者A:「なんでだよ?」
冒険者B:「野牛相手に追い回される囮役だぞ。死んだ奴もいる、やべえって仕事だ」
冒険者A:「でも、冬越しの資金が欲しいんだよなぁ」
冒険者B:「やめとけよ、死にに行くようなもんだぞ」
冒険者A:「うーんっ」
冒険者C:「ねえ、これ受けようよ」
冒険者D:「うん、冬になる前にひと稼ぎだね」
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(7日後の冒険者ギルド)
冒険者A:「生き残れたのは俺が最後だ、殿を押し付けられて死ぬかと思った」
軍曹:「うーん、48人出撃して戻れたのは26人か。それも獲物は7頭とは・・・」
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(7日後、夕刻の領主館)
執事氏:「48名が依頼を受けて戻ったのは26名、獲物は7頭のみでした」
領主:「半数近くが死んで獲物は7頭か。
倅を行かせずに良かったな。前回の出動で良くぞ生き残ったということかな」
執事氏:「騎士団長を温存出来たのは僥倖でした。しかし、食材は問題ですな」
領主:「神殿は請求を無視か?」
執事氏:「御意」
領主:「神殿への布施を今後廃止すると高札を掲げろ、商人共も驚いて控えるだろうよ!」
執事氏:「年間15億ソルですな。それだけあれば貧民対策も可能かと」
領主:「忌々しい話だな。何世代も甘い顔をし過ぎたわっ!」
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(8日後の朝、中央公園)
通行人A:「なんだってぇっ、神殿に預けた野牛肉が横領されて冬の炊き出しが出来ないってか!」
通行人B:「今年の冬は酷ェことになりそうだな・・・」
通行人C:「えっ・・・領主様が神殿への支援金を打ち切りだとうっ!」
通行人D:「そりゃもう駄目だな。ウチもお布施は止めておこう」
通行人E:「南の方でバイソンを300頭くらい獲って来たって話じゃないのか?」
通行人A:「それが横領されちまったんだろうさ」
通行人B:「酷ェ話だなぁ」
通行人E:「なんでそんな事をしちまうんだろうなあ」
通行人C:「神殿はいつもカネ、カネと煩いけれど、ここ迄とはねえ」
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(8日後の昼、領主館)
神殿長:「どういうことですかな!?」
領主:「何のことだ?」
神殿長:「とぼけないでいただきたい!支援金の打ち切りなどという鬼畜な所業を!」
領主:「ワシが与えた食肉を無駄にしおったのは貴様だろうに!」
神殿長:「無駄になどしておりません!困った同胞を助けただけです!」
領主:「なら困ったお前が同胞に助けて貰えば良いわっ」
神殿長:「破門されたいのですか!」
領主:「構わん、清々するわい。
貴様は両手足の爪を剥いで放逐してくれる!
貴様を放逐してしまえば、後任の神殿長はワシの意向で決められる。
新たな神殿長とじっくりと話し合うことにするまでのことよ。
あの忌々しいババアともオサラバできるわいっ!わあはっは!」
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(8日後の夕刻、ジョン邸)
やって来た執事氏との会話。
「で、いい加減クソ寒いのにもう一回行けと?」
「いえ、2億ソルも出して野牛を狩る意味はありませんな。
貴重な魔石や素材の為に2億出すのとは意味が違います。
いつぞやの蕎麦についてお話を伺いたいのです。
あれは大量に作って配れるものですかな?
いえ、正直にお話しましょう、炊き出しに使う肉がないのであれば、肉を使わずに腹を膨らませるしかありません。
冬場の貧困者への配給に蕎麦は使える物かどうか、そこをお聞きしたい」
「ああ、少し工夫すれば十分でしょう。
あの細長い状態ではなくてこねて団子にした状態で湯がいて食う形にすればいい。
細長い状態だとすぐ食べないと食味がダメになってしまう。団子だと少し時間が経っても大丈夫。
安く上げるのであればクズ野菜を集めておいて一緒に煮ちまえばいい。
ただ、出汁だけはケチらずにしっかり取らないとダメ。鶏でも豚、牛でも安い骨を押さえておいてスープを取る。
寒い時期なら旨いスープさえあれば、後は蕎麦だろうが小麦と大麦を混ぜてこねた団子でも大丈夫。要はきっちり出汁取って、旨いスープさえ出来ていりゃいい」
「団子にするのですかな?」
「今日は面倒だから明日の昼にでも料理長さん連れて来て。
ついでに騎士団の若いのを5人くらい。出自は割と貧乏な家の奴で」
「味見要員ですか、この屋敷の徒弟では駄目なのですか?」
「最近は舌が肥えちゃっているもんで」
「それは恵まれておりますな」
「旨い物を理解出来ていないと饅頭だって、ソースだって作れませんて。
最近じゃ、なんにでもソースを使いやがる」
「それは逞しいものですな、来年が楽しみです」
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(翌日)
そういう訳で、こういう訳で。
もう何度目だよ!の試食会。
はあっ・・・溜息しか出ねぇ。
用意したのは鶏スープ、豚スープ、牛スープの3種。
野菜は大根、蕪、人参、玉葱、セロリ、ニンニクの茎、茄子、キャベツ、リーキ、さやえんどう、キノコ各種。
野菜は手元にあったものであまり意味はない。魔法袋がある世界なので野菜に季節感は関係ないかも。
調味料は塩、ワイン少々、ワインビネガー少々、山椒、刻み生姜、香草類。
ぶっちゃけ、肉と野菜の出汁に塩味をつけて勝負するようなもの。ああ、醤油って偉大だ。
蕎麦を水でこねて作った団子。
小麦に大麦を混ぜた上でこねた団子。
野菜+鶏スープ+蕎麦団子。
野菜+鶏スープ+麦団子。
野菜+豚スープ+蕎麦団子。
野菜+豚スープ+麦団子。
野菜+牛スープ+蕎麦団子。
野菜+牛スープ+麦団子。
3種のスープに蕎麦団子か麦団子を組み合わせて6種類。
どれが一番旨いということもなく、まあソコソコ旨くてしっかりと腹が膨れるような品物。
挙句に自分で作らずに徒弟の娘達に作らせたりしている。
ホラ、俺って親方だから。親方だからさ。
ミーナ:「これって屋台で売ってみたいですっ!絶対に売れますよ!」
シーナ:「美味しいです。実家で弟に食べさせてあげても良いですか?」
俺:「これは無料で配る炊き出し用だから売らないよ。
安くて、美味くて、腹が膨れる。それを狙っているから年末に実家に帰って作ってみたらいいんじゃないの」
シーナ:「有難うございます。実家じゃこんなにお野菜入れられませんけれど作ってみます」
ミーナ:「炊き出し用なんですね。でも、贅沢過ぎませんか?」
俺:「えっと、どのあたりが贅沢だと思う?」
ミーナ:「だって、しっかり煮込んでスープを取って、沢山お野菜入れてますよ?」
俺:「そうか・・・」
うーん、肉無しで安普請のつもりだったんだけれどなあ。
やがてやって来た執事氏、料理長氏、騎士団から5名+2名。
騎士団のオマケは団長氏と副官さん。
単純に美味い物がありそうだから来てみるというのは、いい加減によさないかねえ?
執事氏:「なるほど、出汁さえしっかり出来ていれば美味しいものですな」
料理長氏:「ええ、シンプルなスープなのが好ましいです。そこにこの蕎麦団子と麦団子は合いますね。ウチの若いのにスープを作る練習を兼ねて賄い料理に丁度いいです」
騎士団長:「えっ、コレが賄いですか。そうですか・・・」
副官:「これが賄いなのですか?嘘でしょう・・・」
騎士団1:「騎士団じゃ、これはもうご馳走です」
騎士団2:「旨いです・・・(ガツガツ)」
騎士団3:「狩りからの帰路で思いましたが、ジョン殿は良いモンを食ってますねぇ」
騎士団4:「ええ、炊き出しには勿体ないです」
騎士団5:「俺も炊き出しの列に並ぼうかな・・・」
うーん、団長さんは領主様の次男だよな。
なんでそこまで喜んじゃうんだろう。
言っちゃなんだけれど、これって高価な材料を使っていないんだけれど。
普通に美味しいという反応かと思ったんだけどなあ。
極端なんだよな。
賄メシという発想と、炊き出しには贅沢だという意見と。
俺:「まっ、旨くないという意見が無いならいいのかな。しっかり出汁を取れば、蕎麦団子は旨いもんです」
執事氏:「左様ですな。肉を失いましたが、これで冬を越せさせることが出来るでしょう」
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(数日後)
執事氏:「神殿にレシピを伝えて、さっそく炊き出しをさせているのですが些か問題が生じておりましてね。
炊き出しは街の中10数ヶ所で行っているのですが、旨いと好評な場所と不味くて食えるかと不評な場所に分かれてしまいまして」
俺:「はあっ、そうですか」
執事氏:「人をやって調べさせたのですが、どうにも料理ヘタが運営している場所がいくつかありました」
俺:「はあ、そうですか」
執事氏:「神殿では料理を研修させる余裕までは無いと申しておりましてね」
俺:「・・・(無言でガン飛ばす)」
執事氏:「料理の研修を引き受けては・・・いえ、この話は止めておきましょう。
ですが、何か妙案はありませんかな?」
俺:「街中のメシ屋に料理を依頼してしまって、出来上がった料理を配らせたら?
それでも評判が悪い場所があれば料理屋を代えてしまう」
執事氏:「それなら最低限度の味は保証出来るのでしょう。
しかし、レシピが公に広がりますぞ?」
俺:「特別な素材を使っている訳じゃなし。どうせ評判が良い方の場所からレシピなんて広がっているんでしょう? 蕎麦団子汁の場合は無理して隠そうとしても、もう遅いんじゃないの?
そもそも神殿にレシピを出したんでしょう?
俺に無断でさ。
親しき仲にも礼儀あり。功績を挙げた市民にはチャンと然るべき沙汰があるべきでしょうね。
俺は変な事を言ってますか?
俺ってこの街で冬を越せない人間を救う知恵を出したんですよね?
騎士団長様と共に命を張って野牛を沢山確保して来た。
でも、それは俺の預かり知らん場所で横領されてしまった。
その結果、大勢の餓死者が出る危機になってしまった。
その危機に安価で済むレシピを提供した。アホなダメ神殿に代わって料理職人を使うアイデアまで出した。
騎士団長様の無事な帰還。
この街の多くの民の生命の救済。
これってちゃんと相応の対価があっても良い筈ですよね?」
執事氏:「領主様にご報告申し上げてご判断を頂きます」
はてさて、一体どんな恩賞が出て来るのかな?
ここ迄は武器の試作品しか貰ってない気がするんだよな。ポージョンの無税は何となくミソが付いた感じだったし。
割とケチ臭い領主なんだろうかね?
商人ギルド長だとこんな時にはスパッと決めそうなんだけれど、ちょっと先行きが想像できないなあ。
またクダラナイ称号とかだったら、怒っていいかな?




