第2話 街に行ってみた
嫁を得て、トコトコと歩いて街への旅。
ルネはお尻を痛そうにしていて歩き難そうだったけれどね・・・。
可愛さには勝てなかったんだ、俺。
ルネは赤い顔で照れたような表情をしていたからまあヨシとしようよ。
幸いに死んだ商人達の荷物には商品だったのだろう衣類も含まれていたんだ。
勿論、使わせてもらった。俺とルネの着替えに丁度いいのもあったからね。
ルネにはチャンと街娘風のワンピースを着て貰った。紅もあったから唇に塗って貰ったぞ。下着だって女の子用のカボチャパンツ。
本人は「僕は男の子なのにぃ」なんて言っていたけれど、もう俺の嫁だからと言えばちゃんと娘姿を受け入れてくれた嬉しさよ。ルンルン!
死んだ商人たちが旅に使っていた鍋はあったし、商品だろう小麦や豆は沢山あった。そこらの葉っぱでも食用になるのはあるから、煮てお浸しにして食えるし。
うーん、やっぱり石器時代人かなあ。
でも、鍋が金属製になったのは大進歩かもね。土鍋文化からの脱却に成功した件。
それだけじゃない。隊商の連中はちゃんと金属製の剣も持っていた。青銅かもしれないけれどさ。
街までは陸路だとそれなりに日数が掛かるらしい。船旅の目算が狂ってしまって予定もさっぱり状態になってしまった。
日中はトコトコ歩いて、ルネが疲れた顔をしたら休憩取って。
適当に腹が減ったら小麦と豆を煮て食って。
夕方になったら川に小枝で編んだ籠を沈めておいて、夜は木の枝に登って寝た。
樹上で寝るのは狼や成体の熊除け対策。子熊だと木登りして来るけどさ、成獣に比べると脅威は少ないよ。
人とすれ違うようなことも無い場所だったから、樹上でイチャコラも。ルネもウットリ顔で身を委ねてくれたしさ。
何度か求めたら「ボク、ジョン君のことダイスキだよ。ずっと一緒にいるの・・・僕の事を好きにして♡」なんて囁いてくれるようになった。クーッ、生きててよかったなぁ。
朝になると川に沈めておいた籠を引き上げる。フナやマスみたいな魚が簡単に獲れた。人間が漁なんてしない場所なんだろうな。魚影が濃いよ。塩を振って小枝に刺して焚火で焼き魚の朝飯。
可憐なハーフエルフと二人きりのメシってのも幸せだよ。転生してからは食うのに必死。いや、生き延びるのに必死だったもんなぁ。
妹に肉を焼いて食わせていた時も幸せな気分だったけれど、あの時は守るのに必死だった。余裕なんて全然なかったんだよな。
今は不思議と無理しなくても良いじゃないかって気がしている。なんとなくという漫然とした気持ちだけれど、二人で食っていければ良いじゃないかって思う。それくらい出来そうだって。
どこか肩の力が抜けた感じかな。
「ボクのこと好き?」
「うん、大好き。ルネは俺の嫁だよ」
「えへへっ、嬉しいな。ボクもジョン君のことダイスキだよ♡」
そんなやり取りを何度も繰り返しての旅路。これはこれで終わらなくてもいいような気がしてた。
でも、4日後に街に到着。
塩商人の親方に会いたいと思っていたのだけれど、川沿いにある船着き場に行ったら知った顔がいくつか。よく故郷の村に立ち寄っていた塩商人連中だった。
「一つ目の巨人が3匹出て来て、塩商人のあんちゃんが食われた。
そいつら等は崖から落っこちて死んだ。
更に単身で川を下ったら襲われた隊商の荷馬車に遭遇した、子供1人を残して大人は食われたみたい」
そんな話を最初は信じなかった商人連中だったけれど、サイクロプスの死体と荷馬車を魔法袋から出したらビックリ仰天。
慌てて塩商人の親方を呼びに行った。
やってきた親方がサイクロプスの死体と荷馬車を見たら真っ青になって。
「ソイツを仕舞ってついて来い」
城内の立派な建物に入ると。
「ギルド長に至急、大至急だ!ご注進!」
親方の迫力に負けた受付嬢がすっ飛んで行った。
「おお、ロイ殿よ、いかがしたのかね?塩のルートが途絶した訳でもあるまいよ」
おっとりとした調子で着飾った如何にも偉そうなおっちゃんがやって来た。
「クレイ商人ギルド長殿、その危機がこの少年によって未然に防がれたのです。
3匹のサイクロプスが川沿い筋に乱入。ウチの若い者と隊商の幌馬車3台を襲い殺害。
その後、この少年により3匹揃って討伐されました」
親方が慌てて捲し立てると、偉いさんは戸惑った顔。
「サイクロプスの死体は確認出来たのかね?」
「魔法袋に」
「裏で出して見せてくれ」
裏に大きな倉庫があって穀物らしい麻袋が積み上げられていた。
そこで死体を取り出した。
ドン、ドン、ドン。
サイクロプスの3つの死体。
それに、馬車の残骸。
少しだけ残っていた人間の手足・・・。
一気に偉いさんの顔が険しくなった。
「その少年を商人登録してステータスを確認してくれ」
「はいっ!」
何やら物々しい装置の前に連れていかれて、指先から血を少し取られてさ。
「出ました。レベル77!!」
「間違い無いな、この少年が討伐したのだ!」
「しかし、ギルド長。12歳でこのレベルなど前代未聞では?」
「うん、素晴らしい運に恵まれた少年なのだろうな。
ふむ、ジョン君かね。
君は我が街に欠かせない塩の交易ルートを守ってくれた英雄だよ。
辺境伯様に名誉市民勲章を推薦せねばならん。
塩商人の徒弟という訳にもいかぬだろうて、我らの街の正規の商人として登記しよう。冒険者は15歳からしか登録できぬが、商人ギルドは年齢を問わずに登録できるのだよ。君にはその能力があるのだからな。
それに、そちらの可愛らしいハーフエルフ嬢を君の妻として登記しよう。
サイクロプスの素材はこの商人ギルドで責任をもってオークションで売却するから安心してくれ。君は一生遊んで暮らせる資産を得るだろう」
ギルド長さんが辺境伯様の元へ去ってから、商人ギルドの出納長さんというまだ若いお兄さんが話をしてくれたのだけれどさ。
「サイクロプスというのは冒険者が冒険者ギルドに卸すと標準的には4千万ソル程度。
それを冒険者ギルドは領主税や冒険者支援の予算を乗せて、商人ギルドに8千万ソルで売る。そこで会員の商人達がオークションにかけます。
商人登録した君の場合は、商人ギルドに素材を持ち込んで直接オークションにかけることができます。スタートの価格は8千万ソルからですね。落札価格の2割が領主税とギルド手数料として差し引かれますので理解しておいてください」
「滅茶滅茶いい条件なんですけれど」
「商人同士の取引ですからね。
でも、これからモンスターの領域で狩りをやるのであれば、戦闘奴隷でも買い込んで必ず6人程度の人数を確保してください。四方八方を取り囲まれると、いかに強い者でも不利は免れません。
あなたの場合はベテランの冒険者あがりの奴隷でも買ってしまってメンバーにしてしまうのが良いでしょう。
この街の西側に広がる魔物の領域は非常に過酷です。十分な経験を積んだ連中から知識を学ぶべきです」
「奴隷はいくらくらいするのでしょうか?」
「最初は冒険者上がりで犯罪者奴隷や傷物奴隷、35歳以上の高齢女性奴隷が良いでしょう。無理出来ない状態の戦闘奴隷なら10万ソルも出せば購入できる筈です。
今は無理する必要はありません、15歳になるまでは経験と知識を身に着けることを優先してください。くれぐれも無理は厳禁ですよ」
「そんなに安いの?」
「人生50年ですからね、経験があっても35歳を過ぎれば肉体的には衰え始めている。
そうした奴隷を購入して必要な知識と経験を積むことが良いでしょうね」
「オークションの結果を待って、資金を確保したら奴隷を買ってと。
そうなると一緒に暮らす宿舎が必要になるの?」
「いくつかピックアップしておきましょう。小作人を使っていた庄屋屋敷などがあるでしょうからね」
「お願いします、お世話になります」
「お易いご用です。何かありましたら、受付までお気軽にご相談ください」、
なお、旅の途中で得た隊商の遺品などは一切合切俺の物で良いんだそうだ。遺族が返してほしければ、相応の金額で買い戻す必要があるって。
ふええっ、結構な量の小麦と豆だぞ。
んで、商人ギルド長も出納長さんも、受付のお姉さんもルネを俺の妻として領主税台帳に登録してしまって、完全に女の子という認識だった件。
んで、オークションは夕方に行われた。
事前に商人ギルドでサイクロプスの腹を割いて商人の遺体が回収されたそうだ。
そして、標準的に8千万ソルという話だったけれど剣を持っていたのは変異種のジェネラルだと認定されて通常の2倍。さらに剣も2千万ソルの値が付いた。
通常個体8,500万ソル×1匹。
通常個体8,800万ソル×1匹。
変異種ジェネラル1.6億ソル×1匹。
剣2,000万ソル×1本。
合計3億5,300万ソル。
税引き後2億8,240万ソル。
なんと言うのか、お腹一杯。
この街だと6人家族が年200万ソルで暮らせるそうだ。
貧乏に悩んでいた暮らしってなんだよ!!
いや、本当に。
それに名誉市民勲章っていうのも貰った。
渡してくれたのは出納のお兄さん。実は領主様の末弟だそうだ。
辺境伯家側の商人との窓口役なんだってさ。
今日の所は商人ギルドで紹介してもらった宿に宿泊。
硬いパンとオニオンスープ、猪のバター焼き、レタスのドレッシング和えの食事。
硬いパンに苦戦したけれど、後は旨かった。
宿にはサウナあって、別途料金を払うと垢すり要員が来てしっかりと綺麗にしてくれた。
それにノミやシラミがいない清潔なベッド!
12年ぶりに文明圏に来たよ。
ああ、こんな生活をしていたらもう元には戻れない・・・。
それに綺麗サッパリになってサラサラ髪の毛になったルネの綺麗な事!!
フカフカのダブルベッドが嬉しかった!!
戦闘奴隷を用意して狩りをした方が良いって話だったから、奴隷商に行ってみることにした。
この街には高級奴隷を扱う店と安い奴隷を扱う店があるそうだ。
格安の犯罪奴隷か傷物奴隷、高齢奴隷で、戦闘経験だけは豊富なのが欲しいと伝えたら脂ギッシュな奴隷商が出して来たのが。
ジーナ
元C級冒険者で23歳年上のいかに冒険者風なあばずれ赤毛女。
若い頃はさぞや綺麗だったのかもしれない。少し熟れ過ぎた感じ。
背中にオークに噛み千切られたという傷跡がザックリ。
たったの5万ソル。
リタ
元C級冒険者で24歳年上の上品そうな黒髪女。
元人妻なので家事能力はある。
夫と倅を冒険の最中に失ってしまって、夫の装備で借金をしていたのが裏目に出て奴隷落ちの身の上に。
こちらは10万ソル。
いきなりの熟女攻撃だった。
35歳を過ぎた女奴隷は一気に値崩れするそうだ。体力が落ちて来て肉体労働に向かない。そして子供を産むのも無理だという扱い。
特にジーナの場合は背中の筋肉がザックリやられていて戦力的には相当落ちていると。
衛生状態の悪い世界だものなあ。医療レベルだって酷いだろうし。
なお、この世界にも避妊薬はあって普通に売っているそうだ。
年増相手に手ほどきして貰って経験を積んで、今のうちに10歳くらいの小娘奴隷を買って育てて18歳くらいになってから孕ませるのが良いでしょうなァと奴隷商オッサン。
なぜ10歳くらいの小娘なのかというと、やはりこの世界だと子供がポンポン死ぬ。
衛生面と栄養面でどうにもならない。
10歳以下だと死んでしまって育たないリスクが大きく、その分だけ安価な設定になっていると。
小さい子供を傍ませても死産で母子共に死ぬことが多いのは経験則で知られていて、18歳くらいで体が出来上がってからの出産が推奨されているみたい。
なんてクソな世界だろうかねぇ。
酷い話だ・・・。
しかし、奴隷ってやっすいな。
人の命の価値ってなんだろうね、一体さ。
なお、奴隷商で売られている彼女たちは正確にはまだ奴隷じゃないそうだ。
この街の場合は領主に対し奴隷登録をして、人頭税の減税をするのが奴隷。
奴隷登録をしない限りは平民だって。
今回の年増連中は奴隷登録して、奴隷紋を刻んだ方は良いだろうって。
主人に逆らえなくするのが奴隷紋で〇に×の組み合わせ。
妻に対して鳩の翼をモチーフにした刻印を施すと婚姻紋。これは妻の浮気防止用だって。
勧められた通りに熟女2人には奴隷として奴隷紋を左手甲に。
買い込んだら、着替えを買い込んで。普段着も含めてね。
武器屋に行って装備を整えて。
4人分の革甲冑と盾に剣。
ジーナには弓矢、リタには槍。
一人用の装備には奴隷本人の10倍以上のコストが必要だった。
革甲冑が高い。冒険者は金属甲冑をまず使わないって。
角兎や魔狼といったモンスター相手だと数mm程度の金属鎧だと簡単に穿たれてしまう。5cmくらいの鋼でもなければ金属鎧は意味が無いそうだ。そんなのは重すぎてどうにもね。
その点、オーガ革を2枚重ねた鎧だとこの辺りの相手なら持ちこたえることが可能になってくる。実利的な面で革鎧が好まれている訳だ。どっこいオーガを狩ること自体が困難で素材的にどうしても高価になってしまう。
そこで駆け出しの冒険者達だとオーク辺りの革を3枚重ねにした革鎧を使うことが多いって。
オークだと@400万ソル、オーガだと@2,000万ソルだからエライ違いだ。でも、この素材の価格の差は革甲冑にした場合の性能差でもある。
装備が整ったら商人ギルドに行って、俺の所有奴隷として登録しておく。
宿に戻って、追加に部屋を取って。
熟女二人から話を聞いた。
この街の北西部にモンスターが生息する領域が広がっている。
俺達がサイクロプスに出くわした場所は本来なら出てこないような地域だったらしい。
このモンスターの領域は手前側に弱いのがいて、奥に行くほどに強いのが出て来る。
駆け出しの最初の壁になるのは角兎で平均的に@40万ソル。
それを超えると魔狼やラプトルで@100万ソルほど。
角兎は50cmくらいの角を持つ中型犬くらいの兎。この角の一撃が避けそびれたら致命傷。角、毛皮、肉、魔石が取れる。特に肉が大変に美味とか。
魔狼は5mくらいの大型狼。肉はドブ臭くて食えたものじゃないけれど、毛皮と魔石が上等。
ラプトルは例の恐竜映画のアレって感じみたいだ。皮は日用品に重宝されて、肉は淡泊で旨いって。足にデッカイ爪があって武器になる。魔石もソコソコ高級。
魔狼とラプトルは5~6匹の群れで行動していて、人間側も相応の人数がいないとヤバいと。
駆け出しはまず角兎で苦戦して、それをクリアすると魔狼やラプトル相手に泣きを見る。
そうした連中をクリアできるようだと、オークやデアトリマがターゲット。
オークは3mくらいの2足歩行の豚。これまた群れで行動していて面倒な相手。そも3mの化け物でゴワゴワした毛皮と分厚い脂肪層があって槍や矢が通り難い。剣なんか論外だってさ。@400万ソルくらい。
ラプトルは顔に巨大な鋭い嘴を持つダチョウみたいなもので、太い脚からの飛び蹴りと嘴の一撃がヤバい。@600万ソルくらい。
ただし、両方とも素材的には魅力的で毛皮も肉も魔石も非常に上等だとか。
オーク肉なんかは貴族のパーテイ料理の定番だってさ。
そもそも魔石ってのは魔法袋みたいな魔法道具の動力源だってさ。街頭や屋内照明、コンロ、様々な道具に欠かせないそうだ。故郷の村では全然知らなかったけれどさ。
そして、魔法使いの補助エネルギー源でもあるってルネ。
魔石がある動物をモンスター、持たない動物は単に動物ね。
家畜とモンスターだとお値段が全然違うの。
お姉さま奴隷達に言わせると、初心者はまず角兎に対応できるようになることが最優先ってことみたいだ。
オーガ革の鎧だから一発喰らっても大丈夫。でも、同じ場所に2度目を喰らうとアウトだから気を付けるようにってさ。
フォーメーション的には俺とリタが前衛で、弓のジーナと魔法のルネが後衛。
これでひとまず角兎狩りをしてみようってことに。
なお、この二人にはサイクロプスの話はしていない。あくまでも子供の金持ちが奴隷を買ったという認識になっている。
「女奴隷の扱い方をワタシが教えてあげるよ!」
赤毛の年増女がそんな事を言い出したのは晩飯を食い言えた後。
「明日は私がお勤めします。明後日は奥様が旦那様とのお勤めをお願いします」
黒髪の細マッチョのお姉様まで不穏な事を言い出したんだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌朝。
目覚めると温かい柔らかな感触。
でも、母親とは違う匂い。
実の母親よりも年上の女相手に俺って何やってんだろうな。
後悔は無いよ。
うん、むしろ満足感は高い。
前世の記憶からしても赤毛のジーナって綺麗だなって思うもの。
女の体ってやっぱり男とは違うのな。当たり前か。
ああ、ちゃんと避妊薬は使って貰ったよ。
一度飲むと10日くらい効果が続くらしい。逆に10日おきに飲まないとダメなんだってさ。