第2話
俺は一先ず試合が終わった後、直ぐに家に帰り作戦を立てていた。俺は考えを紙に箇条書きして行く。
1番上には【記者さんと付き合う方法】と書き示した。
まず、記者さんに会うには俺が目立たないといけない。その為に俺が何をするべきかと言うとーー
それは俺自身、ちゃんとサッカーを上手くなる事だろう。多分だが、これが1番可能性が高いと俺は思っている。これまで運動も何もしてなく、入部してどれだけサボろうと考えていた俺がゴールを決められたのは、奇跡に近い。
だが、県大会決勝であんなゴールが決められるなら、死ぬ気で練習したら、それなりのテクニックと筋力、持久力が付く筈。例え中途半端な実力でも試合に出る機会さえ来れば、何処かの試合で今日の様なゴールを決められる可能性があるという事だ。
「またあの舞台でシュートが決まれば、あの人がまた来るに違いない……」
その為にはまず、試合を出る為にも監督に気に入られなければならない。つまり、学校生活を気を付けて生活しないと行けないって事だ。
だがしかし、これはまだ序章みたいな物で、これだけでは俺が記者さんと付き合うのは不可能に近いだろう。
部活で少し活躍した選手ぐらいに、あんな可愛い子が惚れるか?
否である。
「せめて清潔感を出すぐらいはしないといけないな」
サッカー選手ってカッコいい人が多いし、あのお姉さんも目が肥えてるに決まっている。
それなら目立つ為にもイケメンでスーパースターとなれば、注目度はとんでもなくなるだろう。
今の髪じゃ顔半分は隠れるし……もっと短くして貰おう。
その為には明日早くに起きて、アソコに行こう。学校は振替休日で休みだし。
まぁ、ただアソコに行くのは陰キャとして躊躇われるが。
俺の家はドが付くほどのド田舎で、アソコは陰キャには厳しい所である。朝早くに電車に乗らなければ帰ってこれないし……まぁサッサと寝るから。
俺の当面の目標は、試合に出れるぐらいの実力を付ける事。そして監督に気に入られる事。カッコよくなる事。俺はその目標を反芻しながらベッドに入る。すると、試合の疲れからか、数分で眠りにつくのだった。
翌朝、俺は朝6時に目を覚まし、直ぐに駅へと向かい電車へと乗った。それから1時間程で目的地へと着いた。
「う……これだから来たくなかったんだよ」
電車から降りた先は、自然と背中が丸まりそうな大都会。周囲にはオシャレな人ばかり。俺の服装はチェックのダボダボシャツ、ダボダボジーパン……近所のオジサンからのお下がりだ。
「何あの人? 鬼〇郎みたいなのがいるんだけど!」
「バカッ! 聞こえるって!!」
「いや、でも実際にいるんだな、あーゆう奴」
周りの人達からヒソヒソと陰口が聞こえてくる。
「早く行こう」
そうして俺は、足早に床屋へと向かった。
「あ、あのこれ下さい」
「はーい」
俺はサッカーボールを買うと、店から出る。
「よし、これで早く練習を…」
練習をしようと、家に早く帰ろうとすると、
「あ、お兄さん」
ん? なんだ? 振り返った先には全身オシャレの権化みたいな、チャラいお兄さんが立っていた。
「あ、え、えっと…」
あまりのチャラさにどもる俺。そんな俺を見てもお兄さんは引かずに話しかけてくる。
「お兄さん、今暇だったりする? 暇だったらさちょっと俺に付き添ってよ。大丈夫! やばい事とかはしないからさ!」
チャラいお兄さんは腕を掴み、ある所に強引に入らせた。
チャキチャキチャキ
「え、えっと…」
「ふふっ。やっぱり俺の目に狂いはなかった」
今、隼人は髪を切られていた。
椅子に座らされ、どういう髪が良い? と突然聞かれ、咄嗟にサッカー選手みたいな髪型で…と答えたら、いつの間にかこうなっていた。
前までは鬼〇〇と言われていた髪型から、今ではベリーショートの髪型へ。
前髪はとても短くされ、横や後ろは刈り上げられた。そしてそれをガチガチにワックスで固める。
「て、店長凄くね…」
「まさかあの子があんなにカッコよくなるなんて…」
「最初はあんな奴、どうやってって思ってたけど…凄すぎるな」
「ふむ」
チャラいお兄さんは、顎に手を当てて唸っている。
「あ、あの…」
「おし! 君! 名前は!?」
「か、風裂 隼人です…」
「そうか! 隼人くん! 良かったらここのサロンモデルにならないか!!」
「へ?」
サロンモデル。それは1部のとてもカッコいい人間がスタイリストに認められ、なる事を許される。所謂、その店の広告モデルになる事を指し示す。
隼人はいきなりの提案に困惑する。
「むっ! 悩むか! もちろんここでカットするなら無料でやるよ?」
チャラいお兄さんが身振り手振りをしながら、色々良い提案をしてきてくれる。
「あ、あの! それは良いんですけど…毎月とかはちょっと…」
毎月来るのはめんどくさい。何より練習時間が減ってしまう…。
「ふむ? 何か事情があるみたいだね! ほら! お兄さんに言ってみ!!」
チャラいお兄さんのなんとも高いテンションに、陰キャの俺は断る事も出来ず、事情を話した。




