第1話 優勝した
カクヨムで出していた物を、改稿したものです。
ピッ ピッ ピッー!!!
「風林高校!県大会優勝ー!!」
ワァーッ!!
「いやー! 素晴らしかったですね! あの風裂君のダイビングヘッドは!!」
「そうですねぇ。あの強風に流れたコーナーキックを予測したあの動き! そしてそれをあそこまでコントロールする技術の高さは全国の選手でも、そうは居ないでしょう!」
「しかも1年生、初出場!それに彼はDF!恐らく風林高校の秘密兵器だったのでしょうね!!」
実況が色々、俺の事をベタ褒めしている。
そして俺はーー
めちゃくちゃドストライクの可愛い人に、迫られてます。
遡る事、数十分前。
風裂 隼人風林高校の1年。
小さな頃から陰キャだった俺は、このままじゃダメだ! と思い、所謂高校デビューをした。
実家から10キロ離れた高校に進学し、俺の事を知ってる人がいないであろう所へと入学した。
そしてモテる為にテキトーな気持ちで、サッカー部へと入部した訳だが……うちのサッカー部は中々の強豪校だったらしく……モテる為に入ったのにそんなガチでやらなくて良い。辞める事さえ考えていた。
しかし他の男子の部活は読書部、ラノベ研究部、筋トレ部等といった意味の分からない部活しかなかった為、選択肢がなく、俺は渋々サッカー部へ残った。
そしてキツイ部活を、どう上手くサボるかを模索して2ヶ月が経った頃に、突然訪れた悲劇。
それはーー。
『何!? この決勝当日にレギュラーメンバーの幸田(DF)が熱!? しょうがない、他のメン……何!? 他のメンバー80人が集団食中毒!? 幸田以外のレギュラーメンバーは……無事か、そうか』
え、めちゃくちゃ大変じゃーん。と呑気に俺は、監督の後ろの自動販売機でスポドリを買っていた。
『仕方がない、今日はDFに風裂を入れよう』
『え?』
そんな声がして俺は人生初、部活の試合に駆り出された。
ハッキリ言って冷や汗が止まらない上に、何をするかさえも分からない。サッカーッテナンダッケ?
え、先輩達動いてんだけど。え? どうやって動くの!?
と俺がウロウロしていると、誰かに肩を掴まれる。
「コーナーキックだ! 風裂! 行くぞ!!」
先輩に言われ、オドオドしながら着いて行く。
こ、こんな事になったらしょうがない!
先輩方、すみません! 俺は怪我をして退場します。よし、ここで絡れてたりしたらそれっぽいだろ。
そう思って俺は、人が密集している所にテキトーに行った。
ピーッ!
笛がグラウンドに響き渡る。
そろそろ何か始まりそうな雰囲気だ。
そんな事を考えながらボーッと周りを見ていると、コーナーからボールが蹴り上げられた瞬間、皆んなが激しく動き出す。
え!?
そして何故か俺の頭上のスレスレを通り抜ける、相手選手の肘。
いや! 危ないんですけど!? ほ、本当にこれだと怪我するっ!! 演技どころじゃ済まないぞ!!
そう思い、俺は急いでそこから抜け出した。
ス、スポーツやれよ!!
と心の中で叫ぶが、今度は足を掛けられ、顔から地面から落ちそうになる。
「ふ、ふんぬっ!!」
俺のこれからモテモテになる顔が!?
転ぶ直前に両手を地面に突きつける。すると勢いよく前へ倒れかかった。
あ! 危ない!!
そう思って目を閉じると、頭に強い衝撃が。
遂にやってしまっか……どうせならもっとモテたかっ……
ピッ ピッ ピッー!!!
え?
ワァーッ!!
で、この状況である。
「風裂君はあの風を読んでいたのですか?」
「何処の中学校出身なの?」
「日々どんな練習をしてるんですか?」
とめちゃくちゃ好みの顔の人に、質問攻めされていた。その人は小柄で童顔、髪色は少し亜麻色がかった黒で、ポニーテールをしていた。美人系というよりは可愛い系。
例えるなら子猫だろう。捨てられてたら絶対拾う感じの猫だ。
少し猫目の様な感じだけど、この目で上目遣いをされると……はうっ!!
因みに、質問に対してはーー
「は、はい。たぶん」
「そ、それは秘密ですかね」
「学校の練習しかしてないですよ」
とテキトーな事を言っておいた。
いつもどうサボろうとしていたか考えてたら偶々ゴール出来てました、なんて言える訳がない。
「そうだったんですね……すごいです」
お姉さんは同調してくれながら、手帳にカリカリとペンを走らせている。こんなテキトーな返事で本当に面目ない。どうにかお姉さんの文章力でどうにかして下さい、と内心伝える。
流石に罪悪感が凄かったので、ついでに謙虚さとかもアピールとておくか。
「い、いやーそんな事ないですよ」
「いや! すごい事ですよ!」
俺が言い終わると同時ぐらいに、女性記者さんが叫んだ。
「1年生の決勝で得点をあげるなんて!! しかもそれがチームを勝利に導いた得点! チームワークもまだままならない筈なのにあの完璧なタイミング! 1年生でまだ身体が出来上がってないにも関わらず、あの体格のでかい選手の中へ迷わず出る勇気!! 何もかも規格外です!!!」
女性記者さんは捲し立てるようにそう言うと、思わず言ってしまったのか、手を口に当てて、少し顔を赤らめている。
やべぇ、この人……
「可愛すぎだろ」
「は、はい? え、えっと…」
お姉さんは顔を赤らめている。
「顔真っ赤、めっちゃ照れてる。可愛い。はっ! なるほど、俺の事をキュン死させる気か! 負けない! 俺は負けないぞ!」
どうしたんですか?
「あ……あぅ……」
お姉さんは変な声を挙げながら、下を向いている。
ってあれ? ……俺今なんて言った?
「あ、あの、その様な事を言って頂き、とても嬉しいです。ですけど、い、今はインタビューの方に集中を……」
や、ややややっちまったー!!?!?
頭で考えてたつもりが口に出ているなんて!! そういうのは二次元だけで十分なんだよ!!
頭を抱えて、膝を着く。
「す、すみません……今のは忘れて貰えると嬉しいです」
これが学校の奴にバレたら、陰キャの俺からしたらイジメの的になりかねない。
いや、イジメがどうこうよりも何より……
恥ずかしい!!
俺は頭を地面につける。
「……ふふっ。分かりました」
女性記者さんは笑ってそれを受け入れる。
良かった! なんて良い人なんだ!!
まぁ、俺のこの姿があまりに惨めだったからっていうのもあるかもだけど…。
「ただし、また活躍してインタビューされる時は私を優先してくださいよ?」
お姉さんは、上目遣いで笑いながら見つめてくる。その上目遣いたまらんわ。可愛すぎて、悶え死にそうなるわ。
「あの……いいですか?」
コテンと傾げた首はまるで天空から舞い降りた天使の様な輝きを放っている。
もしかして殺しに来てる? この人は俺の事をキュン死させようとしてるのではないか?
「は、はい……」
「ではその時はよろしくお願いします!」
女性記者さんは礼をすると走り去って行った。
ん?…あ、返事しちゃった。
ま、いいか。今度会ったら連絡先を聞こう。そう思っていたら、ふと気づく。
「……どうやって会うんだ?」
あの人の名前は? 何処に住んでる? 何処の会社に勤めてる?
「何も分からないじゃん」
あ、あの人に会う為にはどうしたら良いんだ……。
初恋は叶わない。
よく言われている言葉だ。
頑張って、頑張って、頑張った結果、簡単に振られる。だが、年を取ればそれが良い思い出だったと思える、と隣のお爺さんが言っていた。
振られて良い思い出……ね。
「いや! 振られるのが良い思い出な訳あるか!! 俺は絶対叶えてやる!! 絶対にあの人を彼女にしてみせる!!」
俺の初恋はまだ始まったばかりだ!! あの人は記者だ!! どうにかして目立てば、またあの人に会える!! こんな所で諦めてたまるかぁ!!
グラウンド横で突然叫ぶ風裂 隼人。今日の試合の主役でありながら、本当はサッカー初心者。そんな彼は、女性記者と会う為にこれからとんでもない成長をみせる。
これは、今まで陰キャだった男が成り上がる物語である。
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