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人妖戦線  作者: J
3/4

白歳太星党

 アキコが扉を開けた時、灰色の会議室内には、面子が全員座って待っていた。長テーブルの上には飲物まで用意されている。紙カップから流れてくる薫りから、コーヒーであることを読み取った。


「スンマセン、遅れました」


 全員馴染みだからか、謝罪も軽い。

 寝ぐせだらけのショートカットに眼鏡、白衣、黒いTシャツとジーパンスタイルの娘が「遅刻はクビだぞー」と茶化し、アキコは「言ってろ」と返す。二メートルはありそうな巨躯を黒のツーピーススーツに包み、熊の仮面を被った人物はうむと頷いた。神父服の青年が仏頂面のままアキコを一瞥するも、受け流して空席に腰掛けた。


「アキコ。遅刻は厳禁と言っておいたはずですよ」

「仕方ねえだろ、またあすかにこの間の件で問い詰められたんだよ。つうかさ、早坂はいきなり一般人撃つの止めろ。あれ相手への負担が大きいんだろ。何度目だよ。トリガーハッピーか。暴走したあたしに撃つのはまあ我慢するとしてもだ。あと一ツ橋、もうコイツに仮死弾渡すな」

「そうは言いますけどね暮内、いちいちここ連れ込んで洗脳するわけにもいかんでしょうよ。あと、あたいに指図するな。早坂もなんか言ってやれ」


 一ツ橋と呼ばれた白衣の少女が顎でアキコを指して、神父服の青年を促した。彼の眉間の皺が深くなった、ように見えた。


「一般人への対応は善処します。アキコ、君はもう少し自分を抑える術を学びなさい。ここに来てどれだけ経つと思って……」

「あーわかったわかりました早坂大明神サマ。モテる男は言う事が的確でよろしいですな。今度はお前からあすかに説明しろ。自分はイケメンでも何でもないし君の事はどうも思ってないってな。毎回誤魔化す身にもなれ、こっちがいい迷惑なんだよ」

「私にそんな時間はありません」


 はっはっは、と広い室内に野太い笑い声が響いた。

 アキコたちのリーダーたるこの男も大概謎だ。被り物だよな、アレ?


「皆今日も仲良しで何よりだ」

「「「よくない」」」


 三人の同時ツッコミが炸裂した。先程までが嘘のような、一糸乱れぬ完璧な同調。

 熊仮面が一つ咳払いをする。


「……それではみんな揃ったところで本題に入ろう」

「お待ちください。不動兄妹がまだ来ていません」

「焦と燐か? なに、アイツら奈良から来てたの?」

「え、暮内聴いてなかったん? スキル”聴き流し”が炸裂したか」

「ねーよそんなスキル。少なくともあたしは聴いてねーぞ」


 アキコの視線が全員を一巡して、早坂のところで止まる。端正な顔は無表情に見えて、若干バツが悪そうだ。


「お前……」

「…………申し訳ない。伝える機会を逃しました」

「早坂ァ!!」

「ふむ。皆仲良しなのは十分に解った」


 熊の一声というべきか。アキコは大人しく引き下がった。早坂も本当に申し訳なさそうなオーラを出している。まだ二、三か月程度の付き合いであるが、この男にはこういううっかりミスが結構あるので、アキコもこれ以上追及する気はない。


「彼らの不在とこれから話すことは無関係ではない。皆聴いてくれ」


 全員の目が熊仮面に集中する。


「最近、白歳太星党の動きが活発化している」


 長の一段低くなった調子に、早坂と一ツ橋の表情が引き締まる。少年少女ではなく、戦士の顔。

 その中でただ一人、暮内アキコはといえば、片眉を上げて熊仮面を凝視するのみだ。


「えっと……白星党とかいう政党か? あの目覚めがどうの、新世界がこうのってうさん臭い奴?」

「アキコ、黙って聞きなさい」


 鋭く制され、アキコは口をつぐむ。


「暮内君詳しいね……その通りだ。この中であのふざけた名前の政党に票を投じた者はいるかい?」

「あたいらが投票権得るのはもう少し先ですね……それよりもボス、続きを」

「ウム。……彼らは白歳太星党の一部、いわば広告塔にして窓口といったところだ。本体は裏の裏に隠れて、よからぬことを目論んでいる。この間の、雨の日のように。まあ奴らや白歳太星党に限った話ではないがな。夢見待市には怪異妖物が跳梁跋扈し、いくつもの組織が暗躍している。”素晴らしき真世界戦線”や”WWC社”、”魔堂コンツェルン”のように」


 熊仮面が一息ついて、いかつい手が卓上に伸び、紙コップを手に取ると口元に運んだ。


(普通に飲むんだ……)


「それでな、白歳太星党について不動焦と不動燐、二人に調査を依頼していた。今日報告を聞く予定だったんだが……」

「連絡がない、と」


 早坂の表情が一段と厳しさを増す。


「その通りだ」

「何!? じゃあ早く救けに行かねえと!」


 アキコが飛び出さんばかりの勢いで立ち上がる。


「暮内落ち着けって。まだそうと決まったわけじゃあない。アンタの装備だって渡したいし」

「あの二人は若く見えて手練れ、そう簡単にやられはしない。とはいえ、何があったのか調べ、場合によっては救出に切り替える。……そこで暮内君、早坂君」


 名前を呼ばれた時、二人にはただの被り物の筈の熊仮面の目がギラリと光った、ように見えて、背筋が震えた。と同時に、おのれらの胸の奥に静かなる闘志、いわば青い炎ともいうべきものの着火を感じたのだった。


「君達には、これから白歳太星党の党員になってもらう」


 アキコと早坂、二人してキョトンとした。


「……なに? なんだって、オッサン?」

「言葉通りだ。君達には、奴らの懐に潜入して、不動兄妹の行方を探ってもらう」

「私と、アキコでですか?」


 熊顔が大きく頷く。


「な、なんだってー!?」

「アキコ、静かにしなさい」

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