酩酊散髪屋
ここはいつも夜だ
常にゆっくりと雪が振り続けている
寒さに浸るように酒を飲む
ここはいつも笑顔に溢れている
ここじゃ死ぬことも苦しいこともないもない
みな酩酊に浸り幸せに生きている
何も考えなくていい
大人も子供もない
仕事も学校も生きることさえ考えず
ただ酩酊に浸り
周りも気にせず
自由気ままに自分らしく生きている
そんな場所で散髪屋を開く少年の日常のとある日のお話
その散髪屋は金を取らない
この場所じゃ金なんて意味がないからだ
金の代わりにお客の疲れを取る
彼が髪を切ると心の疲れがサッパリと取れる
彼が髪を洗えば心の悩みが綺麗に流れ落ちる
店に名前は無い名前など意味がないから
なぜか?散髪屋は彼の店ただひとつだからだ
この場所じゃ髪は伸びない
じゃあなぜ散髪屋があるのか?
それは店に入ればわかる…
…………
………
……
カランカラン
少年「いらっしゃいませ」
「お客さん」
「散髪ですね」
お客「えぇ」
(妙に頭が重い…)
少年「ではこちらにお掛けください」
お客「わかりました」
鏡を見ると…
髪がもとより長くなっていた
お客「元々の髪より長くなっているのだが…?」
少年「ここは普通の散髪屋じゃないですよ」
「なんなら今の髪から切った方が自由な髪型にできますよ」
少年は笑顔で言った
(なんて曇りのない綺麗な笑顔だろうか)
少年「どんな髪に致しましょうか」
「お客さん?」
お客「あぁ、すまないね」
「おまかせはできるかね?」
少年「かしこまりました」
「お客さんは何故ここに?」
お客「家内に逃げられてしまってね…」
「途方も無くうろついていたらここに辿り着いたんだよ」
少年「なるほど…」
「だから髪が長くそして汚れてしまったわけだ…」
お客「ん?」
少年「いえいえ気にしないでください」
「それではまず髪の汚れを落としていきますね」
お客(なんだか心地いい、悩みが流されて行く…)
少年「よし…それでは髪を切っていきますね」
お客(あぁ…疲れが取れていく…)
少年「ではもう一度頭を洗いますね」
お客(とても心地が良い)
少年「お疲れ様でした」
お客「ありがとう疲れも悩みもさっぱりしたよ」
少年「いえいえそれが私の仕事ですから」
お客「料金はいくらだい?」
少年「うちはお金もらってませんよ」
お客「そうか…」
「そうだこれを受け取ってくれ」
少年は手を伸ばし受け取る
お客「飴だよ、食べてね」
少年「ありがとうございます」
お客「よし!これでまた頑張れる気がするよ」
「ありがとうね!」
少年「いえいえ」
「スッキリしたようで何よりです」
少年はまた笑顔で言った
お客「また機会があったら頼むよ」
少年「えぇ、ぜひ」
お客「ありがとう」
少年「またのご利用お待ちしております」
カランカラン
あなたも疲れ悩みがある中さまよっていたらこの散髪屋にたどり着くかも…