第8話 なんで……なんで、そんな大事なことを、もっと早くに、教えてくれなかったんだ!
『お前の世界呪は特別製だ。なにせ、俺が手ずから与えたものだからな。名前は《確率の隙間》。憑依とタイムリープとを、同時に行える優れものさ』
(タイムリープ……?)
憑依のほうは、よく意味がわからなかったが、タイムリープについては俺でもわかる。
過去をやりなおせる。
それが俺の能力だというのか?
(それって……)
強すぎないか?
もちろん、何か具体的な使い方を、ぱっと思いつけるわけじゃない。でも、過去をやりなおせるというのが、どういうものなのかは、漠然と理解できているつもりだ。
相当に強力な世界呪だ。
『もちろん、ただじゃない』
喜びそうになる俺に、コーザは即座に釘を刺した。
『ふつうは代償として、呪力を支払うものだが、お前の確率の隙間は違う。残りの命をいただく。端的に言やあ、寿命だ』
(寿命……)
『そうだ。初回は1年、次は2年……4回も使えば10年だ』
ということは、仮に10回も使ったとしたら、それは――。
(何年だ?)
『55年だな』
絶望的な数字だった。
俺の年齢は16歳。残りの寿命は60年と少しだろう。
それが55年。
元の世界なら、ほとんど死と同じじゃないか。
(……いや、まだわからない。そうだよ、こっちの寿命は異なるかもしれない)
『お前、本当にバカだな。延長戦だって、何度も言わせるなよ。同じに決まってんだろう?』
……。
ようやく、現実を理解した。
その数字に、頭が急速に冷えていく。
だから、当然のように不満も覚えた。
(なんで……なんで、そんな大事なことを、もっと早くに、教えてくれなかったんだ! そうしたら、あんなひどい思いだって、しなくて済んだかもしれないのに!)
『ふざけるなよ、クソガキ。これまでの、お前の行動を振り返ってみろ。……お前がいつ、自分から、状況をひっくり返そうとした? 一度もしてこなかったよな? それなのに、今はこうして、かろうじながらも、自分でどうにかしようとしている。だから、こうやって教えてやっているんだぜ?』
(それは……そうかもしれないけど)
『まっ、俺にしてみりゃどうでもいいさ。発芽させるついでに、使い方も教えておくぜ。お前はバカだから、ことさら簡単に言う。だから、細かい話は使って覚えな。いいか、よく聞け。……どんなに過去を遡っても、戻れる限界は、お前の意識が復活した、あの時点までだ。そして、一度過去に戻ったのなら、その時点よりも前に向かうことは、二度とできなくなる。セーブポイントみたいなものさ。加えて、タイムリープ中に、追加で確率の隙間を使うことも、もちろんできない。これは、憑依型のタイムリープであっても、同じことだが、セーブポイント自体は、人ごとに分かれている。例えば、今日2/16に、1週間前のお前に戻ったとしても、2週間前のいじめっ子に、憑依することは可能だ。ただし、この場合でも、オリジナルのカレンダーは、ちゃんと2/17にまで、進めないといけないぜ。……それから、もう一つだけ大事なことがある』
正直、難しい説明に、俺の頭はすでにパンクしそうだった。
(なんだ、まだ何かあるのか?)
『これで最後さ。憑依型の場合、代償としてもらうのは、お前の寿命だけじゃない。逐次払いで呪力ももらう』
(呪力……?)
オートマトンの授業で、さんざん自分に呪力がないことは、嫌というほどに思い知らされている。その呪力を消費するというのか。
『そうだ。だから、お前が他人に憑依できる時間は、ごくわずかだと思え。憑依がおわれば、そのタイムリープは、そこでおしまいだ。お前は強制的に、オリジナルの時間に戻されるし、それでも、寿命が減ることは変わらない。だから、くれぐれも気をつけて使うんだな』
言いたいことだけ俺に伝えると、コーザはまたも、唐突に姿を消した。
「……」
俺にできることが一つだけ増えた。それは寿命を減らすというが、数回の使用ならば、大きな影響はないだろう。少なくとも、バカな俺には、どんな不利益があるのかわからない。
(これで……あいつをどうにかする)
できるのか?
だが、方法は唐突に思いつく。
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